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藤原歌劇団 シャルル・フランソワ・グノー: オペラ《ファウスト》|藤堂清 

シャルル・フランソワ・グノー: オペラ《ファウスト》 
Charles François Gounod: Faust 

2024年1月27日 東京文化会館 大ホール 
2024/1/27 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
写真提供:公益財団法人 日本オペラ振興会

<スタッフ>        →foreign language
指揮:阿部 加奈子
演出:ダヴィデ ガラッティーニ ライモンディ
合唱指揮:安部 克彦
美術・衣裳:ドミニコ フランキ
照明:西田 俊郎
振付:伊藤 範子
フランス語ディクション:和田 ひでき

<キャスト>
ファウスト:村上 敏明
メフィストフェレス:アレッシオ カッチャマーニ
マルグリート:砂川 涼子
ヴァランタン:岡 昭宏
シーベル:向野 由美子
ワグネル:大槻 聡之介
マルト:山川 真奈

合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:NNIバレエアンサンブル
  ソリスト:浅田 良和
  ソリスト:日髙 有梨
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

《ファウスト》はバレエも入る全5幕のグランドオペラ。この日は、第1幕と第2幕、第4幕と第5幕が続けて上演され、全体は3幕構成となった。
大規模で上演時間の長いオペラであり、それほど頻繁にとりあげられるものではない。ちなみに藤原歌劇団の前回公演は1995年、ほぼ30年前である。ファウスト:ジュゼッペ・サッバティーニ、メフィストフェレス:ルッジェーロ・ライモンディ、マルグリート:渡辺葉子という豪華なキャストであった。

第1幕はファウストの書斎、老いた彼はすべてに絶望しサタンを呼ぶ。応じてあらわれたメフィストフェレスと、この世ではファウストに従うが、あの世ではファウストが従うという契約を結ぶ。カッチャマーニの登場の一言 “Me voici!”の圧力は見事。一方の村上は安全運転。
続く第2幕は街の門の前、左側に居酒屋がある。若い娘たち、既婚の女たち、市民たち、学生たち、兵士たちがそれぞれに歌う。出征していくヴァランタンの〈門出を前に〉を、岡は力むことなく優美に歌う。その学生たちに割り込んできたメフィストフェレスの歌〈金の子牛の歌〉もカッチャマーニは声の力で圧倒。
第3幕、マルグリートの庭。ファウストとマルグリートの有名な歌、〈清らかな住まいよ〉〈トゥーレの王の歌〉〈宝石の歌〉と続く。ファウストの村上は、ゆったりした流れを保つことができず、また聴かせどころのハイCも声が割れてしまうという状況。一方マルグリートの砂川は丁寧できちんとした歌であった。望むらくは〈宝石の歌〉でもう一段の煌めきを感じさせてくれたらというところ。後半は、マルトとメフィストフェレス、マルグリートとファウストの4重唱からマルグリートとファウストの2重唱。二人が結ばれるところで幕。
第4幕はマルグリートの家から始まる。アリア〈あの人は戻らない〉で、捨てられた悲しみを歌うマルグリート、砂川のリリカルな声としなやかな旋律線が美しい。今回の公演では、第4幕の第13曲教会の場が第17曲ヴァランタンの死の後に演奏された。このオペラ、当初はこの順序で上演されていたが、数年後の出版のおりに入れ替えられたという。今回は演出家から提案があり、検討の結果変更したというが、音楽的にもストーリー的にも違和感はない。教会の場でマルグリートが赦しを求める事柄にヴァランタンの死も加わり、より切実なものとなる。
第5幕はハルツ山地、ワルプルギスの夜から始まる。〈鬼火の合唱〉の後に、1869年パリ・オペラ座での公演に際し追加されたバレエ曲を挿入。バレエソリストがファウストとマルグリートとなり、彼らをめぐるさまざまなシーンがバレエアンサンブルの群衆とともに踊られた。その時マルグリートの幻影が現れ、気付いたファウストは彼女のいる牢獄へと急ぐ。牢獄から逃れることを説得しようとするが、彼女はそれを拒み、天界の声に導かれて天国へと向かう。

ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディは、3枚の大型のパネルを使いそれを動かし角度や間隔を変えることにより、舞台の演技する空間を大胆にしかも大幅に変更した。パネルはそれとほぼ同じサイズのスクリーンとなっており、音楽とともに変化していく映像を映し出すことにより、短時間で舞台転換を可能にしている。限られた舞台装置でありながら、多彩な場面を実現した。
演奏面で特記すべきは、阿部加奈子の指揮である。最初から最後まで、まったく緩むことがなく緻密な演奏。個々の音楽の特性を活かした細やかな配慮がいきわたっていた。また歌手が歌いやすいようにテンポやダイナミクスなどていねいに振り分けている。第5幕のバレエ音楽も踊り手に対する配慮が行き届いていた。
歌手はすでにふれたが、メフィストフェレスのカッチャマーニの圧倒的な迫力、マルグリートの砂川のしっとりとした味わい、ヴァランタンの岡の安定した歌唱は高い水準を保っていた。ファウストの村上の不調は残念であったが、当日アンダースタディと交代するといった対応が取れなかったのだろうか? カーテンコールで一人ブーイングを浴びる結果となったのは、やむを得ないこととはいえ、気の毒なことであった。

キズはあったものの、全体としてみれば楽しめた公演といえるだろう。

(2024/2/15)

<Staff>
Conductor : Kanako ABE
Stage Director: Davide Garattini RAIMONDI
Chorus Master: Katsuhiko ABE
Scenery & Costume Designer: Domenico FRANCHI
Lighting Designer: Toshiro NISHIDA
Choreographer: Noriko ITO
French Dictionary: Hideki WADA

<Cast>
Faust: Toshiaki MURAKAMI
Méphistophélès: Alessio CACCIAMANI
Marguerite: Ryoko SUNAKAWA
Valentin: Akihiro OKA
Siebel: Yumiko KONO
Wagner: Sonosuke OTSUKI
Marthe: Mana YAMAKAWA

Chorus: Fujiwara Opera Chorus Group
Ballet: NII Ballet Ensemble
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra