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スペインの古いクリスマスのうた|大河内文恵

第5回 シリーズ・古楽ハープと巡る音楽の歴史 in 東京 スペインの古いクリスマスのうた:古い時代のハープとオルガン、打楽器で綴る聖なる歌
Canción de Navidad vieja
2023年 12月3日 ロバハウス
2023/12/3 Roba House

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by 本多晃子/写真提供:アーリーミュージックサロン

<出演>        →foreign language
ハープ:伊藤美恵
うた:柴山晴美
パーカッション:蔡怜雄

<曲目>
モンセラートの朱い本(14世紀)より “おお、輝かしい乙女よ”
ウプサラの歌曲集より “ご褒美をお呉れ”
聖母マリアの頌歌~カンティガ集(13世紀)より “素晴らしく、そして慈悲深い”
“今より、私は誉むべきマリアのために歌いたい”
ラス・ウェルガスの写本(14世紀)より “いざ、信徒らの御母よ”
モンセラートの朱い本より “悦びの都の女王” “声をそろえて歌わん” ”処女なる御母を讃えよ” (ヴィルレー) “輝ける星よ”

~~休憩~~

ウプサラの歌曲集より “リウリウチウ”
アロンソ・ムダーラ:ルドヴィコのハープを模したファンタジア
フランシスコ・ゲレーロ:幼子イエスは愛に燃え
ウプサラの歌曲集より “幼子我らに生まれ”
カタルーニャ民謡 “聖母の御子” “鳥の歌”
ヒスパニック民謡 “おやすみなさい”(讃美歌21 272番より)

~~アンコール~~
“リウリウチウ”

 

会場のロババウスはカテリーナ古楽合奏団の稽古場で、玉川上水の畔にある。絵本の中から出てきたような建物に入り階段を下りると、洞穴の中のような空間があらわれる。本日は満席でぎっしりと長椅子が置かれており、後ろにいくにつれて少しずつ長椅子の高さが高くなるように設えられていた。

曲目からわかるように、クリスマスを謳っていてもいわゆるクリスマス・ソングを奏するのではない。スペインのどこかでクリスマスの集いがあったとしたら、こんな感じなのかもしれないと思えたコンサートだった。

当日配布された冊子には、伊藤の挨拶に続き、プログラム、対訳、曲目解説、使用楽器の説明とA4用紙8枚分にぎっしりと情報が詰め込まれている。使用されたのは中世ハープ、中世金属弦ハープ、スパニッシュダブルハープ、ハーディガーディ、オルガネット、中世リコーダー、種々の打楽器と実にさまざまな楽器で、それらがさまざまに組み合わされていて、それを眺めながら聴くだけでも心躍る。

曲間のトークでも語られたように、このコンサートで取り上げられた中世の音楽は5~15世紀と長いスパンを持ち、さまざまなスタイルがそこに含まれている。13~14世紀の写本と16世紀の作曲家による作品や曲集から演奏曲が選ばれているという時代の違いもさることながら、その様式に合わせて3種類のハープとオルガネットが使い分けられ、いくつもの打楽器がここぞというところで出てくることでくっきりと特徴が浮かび上がる。

柴山は、前半は地声に近い声で、歌と語りの中間のような歌い方をしていたのだが、2曲目の《ご褒美をお呉れ》では応答の部分は伊藤と蔡も一緒に歌う。そうすると器楽奏者と歌手の垣根がなくなり、あなた歌う人・私聴く人といった舞台と客席の分断も薄れていく。

ここからしばらく器楽曲が続く。《素晴らしく、そして慈悲深い》は歌詞がついた曲だが、中世ロマネスクハープのみで演奏された。鳴り物を入れて朗々と歌われることの多い曲を静かにしっとりとしたハープの音色で聞くと心にしみる。4曲目は柴山のハーディガーディ、ハープとトンバクによって東方の響きが感じられた。

前半の最後は再びモンセラートの朱い本から。この写本は巡礼者のための曲が集められていて、歌の技巧をひけらかすものではないことがトークで説明された。《悦びの都の女王》は対訳がついていないのに歌が始まったので不思議に思っていたら、ヴォカリーズであった。なるほど、こういうやりかたもあるのか。最後に演奏された《輝ける星よ》ではトンバクの妙技を堪能。ここでもまた、3人で歌う。柴山がハモリを担当し、上手い人のハーモニーって美しいなぁと浸っているうちに前半が終わってしまった。

後半は《リウリウチウ》から。この曲はちょうど2年前のラ・フォンテヴェルデの同様の趣旨の演奏会(リンク貼る)でも印象的だった曲。今回は打楽器も入って、典型的な盛り上がり曲に仕上がっていた。スパニッシュダブルハープで演奏されたムダーラのファンタジアは、この楽器の音色の多彩さが際立った。ハープを弾いているはずなのに、ギターに聞こえたり、リュートに聞こえたりするのだ。この楽器が歌の伴奏として演奏されている時には全く気づかなかった。

前半は聖母マリアにちなむ曲が集められた一方、後半はイエスの降誕を題材とした曲が並び、クリスマス色が強くなる。《聖母の御子》ではハープによって固執低音が加えられ、ところどころ3人で歌われるのを聞くにつれ、客席の温度があがるのが感じられた。

《鳥の歌》は今やチェロの曲かと勘違いしそうになるほど、チェロでの演奏が多い。歌詞で歌われるのを聞いていて、イエスのことを題材にしながら、じつは平和を歌う曲だったことに気づいた。世界各地で争いが起きている今、胸に迫るものがあった。

最後は《おやすみなさい》が日本語で歌われ、アンコールでは《リウリウチウ》がさらに拡大されたバージョンで演奏され、お開きになった。中世のスペインのクリスマスという狭い題材を扱っているようにみえる一方、そこに盛り込まれたさまざまな要素が浮かび上がる。敬虔な気持ちと明るく浮き立つような感情とが入り混じって、何とも言えない幸福感を抱えて家路についた。

(2024/1/15)


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<performers>
Vocal: Harumi SHIBAYAMA
Harp: Mie ITO
Percussion: Leo SAI

<program>
Libre Vermell de Montserrat: O virgo splendens
Cancionero de Uppsala: Dadme albricias, hijos d’Eva
Cantigas: Maravillosos e piadosos No. 139
                  Des oge mais No. 1
Codex Las Huelgas: Eya, mater
Libre Vermell de Montserrat: Inperayritz de la ciutat joyosa                                                                              Cuncti simus
                                                   Mariam, Matrem virginem(Virelai)
                                                   Stella splendens

–interval—

Cancionero de Uppsala: Riu riu chiu
Alonso Mudarra: Fantasia de Luduvico
Francisco Guerrero: Niño Dios d’amor herido
Cancionero de Uppsala: Un niño nos es nacido
El Noi de la Mare
El cant dels Ocells
Duermete, Niño lindo

–encore—

Riu riu chiu