クラウス・マケラ指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団|藤原聡
クラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
Klaus Mäkelä conducts Oslo Philharmonic
2023年10月24日(火)サントリーホール
2023/10/24 Suntory Hall
Reviewed by 藤原聡 (Satoshi Fujiwara)
(曲目)
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 Op.43
シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 Op.82
(アンコール)
シベリウス:レミンカイネンの帰郷 Op.22-4
昨2022年は6月から7月にかけて都響に客演、ショスタコーヴィチの『レニングラード』とマーラーの『悲劇的』という大曲2曲で大成功を収め、その3ヶ月後の10月には2021年より音楽監督を務めるパリ管弦楽団を率いて早くも再来日したクラウス・マケラだが、今年は2020年から首席指揮者の任にあるオスロ・フィルを率いてこの2年の間での3度目の来日を果たした。筆者は今回初めてマケラの実演に接するが、既に「若き天才」などと喧伝されているその人気の過熱ぶりに流されず虚心にその演奏に耳を傾けようと思う(当たり前だが)。
最初に結論めいたことを記すと、マケラはなるほど「天性の指揮者」である。オケのメンバーの自発性を活かしながらも自分の音楽を主張して大きな流れを作り音楽的感興を盛り上げる能力はもう誰が聴いても「一聴瞭然」だ。また、プレイヤーの多くが笑みを浮かべながら演奏しているのが大変に印象深く、指揮者が強固に押さえ付ける/締め付けるようでは間違ってもこのような親密な雰囲気は生まれまい。この辺りの匙加減の巧さが本年27歳にして既に備わっている点は明らかに非凡であり、それをもって「 天性の指揮者」と書いた次第。
とは言え課題もあろう。第2、第5共にその音楽は「押す」が主体 で「引く」が弱い。明解で竹を割ったような音楽。これを若さゆえと言うことは出来ようが、例えば第2番の第2楽章では静謐な部分と激情的に金管が咆哮する箇所のコントラストが弱く、全体にニュアンスに乏しく、かつ音量が持ち上がり気味でいささか大味な音楽に聴こえる。終楽章もまた然り、コーダに至る音響上の設計が一本調子なので盛り上がりに必然性が 欠ける恨みがあるが、しかしそのラストの迫力と柔和さを兼備した響きはやはり並の指揮者に出せるものではなく、演奏全体としては良い箇所と悪い箇所があっていかにもトータルバランスが悪い。まあ27歳で既に完成されたような文句の1つも付けようのない演奏をされても困るわけで、聴き手は勝手なものだ。
後半の第5については、第1楽章や第3楽章の最後でかなり唐突にテンポを上げたりするのも不自然な感があり、ここでもそこに至る起伏に乏しいので真のクライマックスが形成されない。技術的にはもちろん問題はないし(とは言えホルンを始め首席奏者が替わった後半の方が明らかに迫力のある音を出していた)、マケラの音楽性と技術力も疑う余地がないが、やはりまだまだこれからの人との印象が強かったコンサートであった。また、アンコールの『レミンカイネンの帰郷』でのいかにもな猪突猛進ぶりは微笑ましく、いささかやり過ぎの感はあれどこれが当夜1番楽しめた演奏である。
文句は書いたけれども、逆に言うならわれわれはこれからマケラの成長と並走出来る楽しみがある。果たして30年後にはどのような音楽を奏でているのだろうか(筆者は聴き届けられるか分かりませんけど)。
(2023/11/15)
〈Player〉
Oslo Philharmonic
Conductor:Klaus Mäkelä
〈Program〉
Sibelius:Symphony No.2 in D major,Op.43
Sibelius:Symphony No.5 in E-Flat major,Op.82
(Encore)
Sibelius:Lemminkäinen’s Return,Op.22-4