東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第360回定期演奏会|藤原聡
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第360回定期演奏会
Tokyo City Philharmonic Orchestra the 360th Subscription Concert
2023年5月10日 東京オペラシティ コンサートホール
2023/5/10 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 金子力/写真提供:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
(演奏) →foreign language
指揮(常任指揮者):高関健
ヴァイオリン:山根一仁
コンサートマスター:戸澤哲夫
(曲目)
ブリテン:シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20
ベルク:ヴァイオリン協奏曲
ソリストのアンコール:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV1002より 第3曲 サラバンド〜ドゥーブル
オネゲル:交響曲第3番『典礼風』
2015年の4月に高関健が東京シティ・フィルの常任指揮者に就任してから同オケの演奏精度、緻密さが大きく向上した印象がある。誤解のないように申し上げれば、それ以前の常任指揮者あるいは首席客演指揮者である飯守泰次郎や矢崎彦太郎(あるいはそれ以外の指揮者)の下においてもシティ・フィルが名演奏を展開していたことは疑う余地がないが、それは指揮者のカリスマ性やキャラクターに依存する部分が大きく、オケ自体の基礎力の面で時に弱さが露呈していた。高関はそこを大きく改善したのだ。そして当定期演奏会。オケにとっては「勝手知ったる」という訳には行かない通好みの手強い演目—3曲とも平和や平安を希求している曲と察せられるだろう。なお、高関が本公演のプログラムを決定したのはウクライナ戦争が始まった後のことで(プレトークから)明確に意識的なものだ—であるだけに、指揮者の手腕が極めて明確に現れる。
その「手腕」は早くもブリテンの冒頭から発揮された。激烈な、しかし決して荒っぽくは響かないティンパニの強打から始まって全体に整理され尽くした構築に唸る。第1楽章後半や第2楽章に顕著なように、特に高音楽器と低弦、低音管楽器群を立体的に交錯させ混濁しない音響を作り出す様は全く見事なものだ。しかも整理一辺倒ではなくその音楽は全体として線が太く躍動感があり、楽曲解説的に割り切った冷たさは全くない。理知的かつ情熱的であって、高関健の統率力はやはり随一と感嘆しきり。
ソリストに山根一仁を迎えてのベルクの協奏曲は、ソリストとオケ共々誠に厳しい音楽作りであり、当曲以外にもベルクの楽曲に感じられる官能性はあまり感知できない。山根の音は鋭利に切込んで来るかのような表現が特徴で、フレーズを十全に表現するよりは意欲が先走っている感も。それだけに迫力は凄まじい。高関のサポートも山根と同傾向で、両者の表現方向に乖離はないものの、より柔和な表現が欲しくもある。山根はアンコールにバッハを弾いたが、こちらは強面のベルクとは正反対に移ろう音色と弱音、ニュアンスを駆使した美演で、それゆえ山根の多彩な表現力が理解できたとは言える。
まずは文句の出ようのない名演奏と評すべきは後半のオネゲル。ここでもブリテンと同様に錯綜する各声部の明晰な処理が聴きもの。第2楽章の高潔な表情も絶美であり、第3楽章は後半のカタストロフ(破壊的な迫力!)に至る演奏効果が計算され尽くしている。楽曲自体がよく書かれているとは言え、並の指揮者が振ってはかようなカタルシスは得られまい。
このような演奏で聴くと、改めてこのオネゲルの『典礼風』は20世紀に書かれた交響曲の中でも最高位に位置する傑作だとの想いがより強固となる。
冒頭節に記した東京シティ・フィル、「大健闘」以上の素晴らしい演奏であった。各弦楽器パートの統一感と躍動感。木管群の繊細さと金管群の力強く豪壮な音響、往々にして日本のオケに感じられる遠慮感からくるこじんまりした音響に陥らない思い切りのよい表現。そして全体的に言いうる技術的な安定感。今、高関健と東京シティ・フィルは絶好調のようだ。
(2023/6/15)
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〈Player〉
Ken Takaseki,Conductor
Kazuhito Yamane,Violin
Tetsuo Tozawa,Concertmaster
〈Program〉
B.Britten:Sinfonia da Requiem,Op.20
A.Berg:Violin Concerto
Soloist encore:J.S.Bach:Partita for violin solo No.1 BWV1002〜Sarabande-Double
A.Honegger:Symphony No.3,H.186, “Liturgique”