ワーグナー:パルジファル 東京二期会オペラ劇場|藤堂清
《二期会創立70周年記念公演》
フランス国立ラン歌劇場との共同制作公演
東京二期会オペラ劇場
リヒャルト・ワーグナー:パルジファル〈新制作〉
Richard Wagner : Parsifal (Co-production with Opéra national du Rhin)
オペラ全3幕 日本語および英語字幕付き原語(ドイツ語)上演
Opera in three acts, sung in the original language (German) with Japanese and English supertitles
2022年7月13日 東京文化会館 大ホール
2022/7/13 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)
<スタッフ> →foreign language
指揮: セバスティアン・ヴァイグレ
演出: 宮本亞門
装置: ボリス・クドルチカ
衣裳: カスパー・グラーナー
照明: フェリース・ロス
映像: バルテック・マシス
合唱指揮:三澤洋史
演出助手:三浦安浩
澤田康子
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也
<キャスト>
アムフォルタス:黒田 博
ティトゥレル:大塚博章
グルネマンツ:加藤宏隆
パルジファル:福井 敬
クリングゾル:門間信樹
クンドリ:田崎尚美
第1の聖杯の騎士:西岡慎介
第2の聖杯の騎士:杉浦隆大
4人の小姓:清野友香莉
郷家暁子
櫻井 淳
伊藤 潤
花の乙女たち:清野友香莉
梶田真未
鈴木麻里子
斉藤園子
郷家暁子
増田弥生
天上からの声:増田弥生
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
今回の《パルジファル》の演出は、コロナ禍によりすべてがストップする直前、2020年1月にストラスブールの国立ラン歌劇場で上演されたもの。
舞台は美術館、その展示テーマは“L ‘Human Lité”人類をテーマとするもの。一室には猿人からホモサピエンスまでの変化が展示されている。また別の部屋には受難の場面を描いた絵画が多数ならんでおり、聖杯や聖槍というこのオペラで重要な役割を果たす道具とその意味が示される。演出家の言葉を借りれば、この美術館には「昔からの因習や戦争などで苦しんでいる人たちの霊が、浄化できずにたまっている。」
宮本亞門の演出ではおなじみの手法だが、別のストーリーを重ねることで話の奥行きを深くしようとする。美術館の修復師として働く女性とその息子がこの《パルジファル》の裏の登場人物。パルジファル同様彼の父親はすでに亡くなっている。この子供が母から離れ成長していく物語が、オペラにおけるパルジファルの成長と表裏一体のものとして表現される。
あらすじなどで書かれているストーリーと大きく異なる部分、いくつかを記録しておこう。
第1幕で行われる聖杯の儀式は筆者にとっては衝撃的。アムフォルタスを横たえ、横腹を刺し血を流させ聖杯に受け、それをティトゥレルに飲ませるというもの。聖杯の騎士たちは、戦闘での負傷者や精神を病んだ人。通常の《パルジファル》とは違う。
第2幕の最後、クリングゾルの持つ槍は、パルジファルとともに動く子供を貫く。クリングゾルが慌てて離した槍をパルジファルが手にする。核爆発で花園は崩壊。
第3幕冒頭には地球外からウクライナに接近する映像、そしてロシアの攻撃で廃墟となった集合住宅が映し出される。場面は第1幕と同じ美術館へと変わる。アムフォルタスに代わり新たに王となったパルジファルの最初の仕事、クンドリは彼の祝福により天使に変身、吊り下げられ文字通り天に昇っていく。2幕で刺された子供は槍の力でよみがえり、母と再会を果たして幕となる。
情報の多い演出。すべてを理解しようと思うと困難だが、部分部分では面白く刺激的なものであった。
演奏面では、まず指揮のセバスティアン・ヴァイグレをあげたい。手兵である読売日本交響楽団を率い、キビキビとしたテンポで全体をまとめた。物理的には速かったのだがあせっているような印象は与えず、充実した響きが会場を包んだ。管楽器群の安定感がすばらしい。
主役歌手のうち、アムフォルタスの黒田、ティトゥレルの大塚、パルジファルの福井、クンドリの田崎の4名は、2012年の二期会による公演でも舞台に立っており、その経験をいかしていたと思われるが、それを考慮しても歌手全体のレベルアップは間違いない。特に各幕で異なる性格の歌唱を聴かせるクンドリを歌った田崎の充実は目を見張るものがあった。
聴き応えのある公演であった。
(2022/8/15)
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<STAFF>
Conductor: Sebastian WEIGLE
Stage Director: Amon MIYAMOTO
Set Designer: Boris KUDLIČKA
Costume Designer: Kaspar GLARNER
Lighting Designer: Felice ROSS
Video Designer: Bartek MACIAS
Chorus Master: Hirofumi MISAWA
Assistant Stage Directors: Yasuhiro MIURA
Yasuko SAWADA
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
Associate Production Director: Tetsuya ONO
<CAST>
Amfortas : Hiroshi KURODA
Titurel : Hiroaki OTSUKA
Gurnemanz : Hirotaka KATO
Parsifal : Kei FUKUI
Klingsor : Nobuki MOMMA
Kundry : Naomi TASAKI
Erster Gralsritter : Shinsuke NISHIOKA
Zweiter Gralsritter : Takahiro SUGIURA
Vier Knappen : Yukari KIYONO
Akiko GOKE
Makoto SAKURAI
Jun ITO
Klingsors Zaubermädchen : Yukari KIYONO
Mami KAJITA
Mariko SUZUKI
Sonoko SAITO
Akiko GOKE
Yayoi MASUDA
Eine Altstimme aus der Höhe : Yayoi MASUDA
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra