東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13 《ローエングリン》|藤堂 清
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13
ワーグナー:《ローエングリン》(演奏会形式/字幕付)
Wagner:Lohengrin
2022年3月30日 東京文化会館大ホール
2022/3/30 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:平舘 平
<出演> →Foreign Languages
指揮:マレク・ヤノフスキ
ローエングリン(テノール):ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー
エルザ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
テルラムント(バス・バリトン):エギルス・シリンス
オルトルート(メゾ・ソプラノ):アンナ・マリア・キウリ
ハインリヒ王(バス):タレク・ナズミ
王の伝令(バリトン):リヴュー・ホレンダー
ブラバントの貴族:大槻孝志、髙梨英次郎、後藤春馬、狩野賢一
小姓:斉藤園子、藤井玲南、郷家暁子、小林紗季子
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
マレク・ヤノフスキの指揮のもとNHK交響楽団の厚みのある響きがホールを埋めた。主役歌手の充実もあり、重量級のワーグナーを聴いたと心から思える一夜となった。
2019年の《さまよえるオランダ人》以来3年ぶりとなる東京春祭ワーグナー・シリーズ《ローエングリン》、コロナ禍でのブランクを乗り越えて復活した。このシリーズの《ニーベルングの指輪》を指揮し好評を博したマレク・ヤノフスキが再登場するというのも楽しみ。一方でコロナ対策のため音楽家やスタッフがスムーズに入国できるかという不安もあった上、ロシアのウクライナ侵攻の影響も心配であった。結果的には歌手2名が交代したが、それも大きな弱点とはならなかった。
公演のレベルを決めたのはヤノフスキの指揮。終始速めのテンポで緩むことなくオーケストラをコントロール、歌手、合唱にも無理に声を張り上げることをさせず、ピッチを守らせた。彼の剛直な音楽づくりが際立ったのは弱音が続く場面とそこからの変化。第1幕では、王の伝令がエルザのために戦う騎士を呼んだ後の緊迫感、そして白鳥に曳かれた小舟に乗ったローエングリンを見た人々のざわめきから大きく盛り上がるところ。第2幕の幕開けテルラムントとオルトルートの登場までの抑えられた響きと彼らの対話の迫力。
それに応えたNHK交響楽団の頑張りも特筆すべきだろう。とくにその弦楽セクションの圧力は、定期公演で聴けないほどのもの。また、舞台両脇でたびたび演奏したバンダも充実していた。以前このシリーズで用いていた映像を今回止めたことで、舞台上の反響板を設置できたことも音響的にはメリットとなった。
オーケストラの厚みを背に受けて歌う主役たち、その音に負けないしっかりした歌を聴かせた。ハインリヒ王のタレク・ナズミの深いバスの声に聞きほれ、テルラムントのエギルス・シリンスの声の演技に感心。エルザのヨハンニ・フォン・オオストラムのいかにもお姫様というような清楚な声に惹かれる。タイトルロールであるローエングリンを歌ったヴィンセント・ヴォルフシュタイナー、傑出した歌手とは言い難いが、言葉はきちんとしているし、最後までスタミナを切らすことなく歌い通したことは評価できる。通常カットされることの多い〈名乗りの歌〉の後の予言の部分も歌った。オルトルートのアンナ・マリア・キウリは多少ヴィブラートがきつく感じられ、他の歌手とのスタイルの差があり、また第3幕の高音に無理があったが、ロシア人歌手に代わっての急な代役としては充分役割を果たしたと言えるだろう。多少の凸凹はあったものの、そろってワーグナーが聴けた。
コロナ禍による影響を一番受けたのは合唱であった。各人がある距離を保って歌うため、通常より少ない人数での舞台となった。各パート15名という編成で丁寧にまとめていたが、出番の多い男声合唱にはもう少しパワーが欲しいと感じるところもあった。それでも完成度は充分。ここにもヤノフスキの厳しい目が届いていたようだ。
指揮者の大切さを強く感じた東京春祭ワーグナー・シリーズの再開となった。
(2022/4/15)
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<Cast>
Conductor:Marek Janowski
Lohengrin(Tenor):Vincent Wolfsteiner
Elsa von Brabant(Soprano):Johanni Van Oostrum
Friedrich von Telramund(Bass-Baritone):Egils Silins
Ortrud(Mezzo Soprano):Anna Maria Chiuri
König Heinrich der Vogler(Bass):Tareq Nazmi
Der Heerrufer des Königs(Baritone) :Liviu Holender
Vier brabantische Edle:Takashi Otsuki, Eijiro Takanashi, Kazuma Goto, Ken-ichi Kanou
Vier Edelknaben:Sonoko Saito, Rena Fujii, Akiko Gohke, Sakiko Kobayashi
Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo
Chorus:Tokyo Opera Singers
Chorus Master:Eberhard Friedrich, Akihiro Nishiguchi
Musical Preparation:Thomas Lausmann