紀尾井ホール室内管弦楽団 第128回定期演奏会|秋元陽平
紀尾井ホール室内管弦楽団 第128回定期演奏会
Kioi Hall Chamber Orchestra Tokyo / The 128th Subscription Concert
2021年11月5日 紀尾井ホール
2021/11/5 Kioi Hall
Reviewed by AKIMOTO Yohei (秋元陽平)
Photos by ヒダキトモコ/写真提供:紀尾井ホール
<出演> →English
ピョートル・アンデルシェフスキ(指揮、ピアノ)
<曲目>
プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調《古典交響曲》op.25(指揮なし)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番イ長調 K.414
ルトスワフスキ:室内オーケストラのための小組曲(1950年オリジナル版)(指揮なし)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491
(アンコール ハイドン:ピアノ協奏曲ニ長調Hob.XVIII:11より第3楽章 ハンガリー風ロンド)
クラシック音楽の演奏会の醍醐味のひとつは、演奏がひとつの再創造となること、いわば作品を解釈しながら、まさにその作品を手ずから組み立てていくことにあるが、このたびアンデルシェフスキがわたしたちに披露したのは、まさしくそれだった。だが彼の登場前から、紀尾井ホール室内管弦楽団はこちらがびっくりするほど溌剌としていた。プロコフィエフの古典交響曲は、おのおのが名人芸を繰り広げても、定期的にカデンツの待ち合わせ場所に毎回間違いなく集合するというお約束が生み出す緊張と弛緩の愉快なウィーン古典派ゲームが、しかしプロコフィエフ一流の、随所に嵌め込まれたアナクロニックな和音の数々によってさらに刺激を増していくという様相だ。類似の試みとしてストラヴィンスキーのプルチネルラなどが思い浮かぶが、プロコフィエフにはむしろ、その最も美しい部分でもなぜかひときわの「挑発性」を感じる。オーケストラの演奏はこの「待ち合わせ」に遅刻ギリギリで各々が駆け込むいささかスリリングなスピード感で疾走した。全員ソロイストといった趣で、管楽器の充実ぶりもすばらしい。
よりアンサンブルとしての濃密さを見せたのはルトスワフスキにおいてだった。作曲家にも聴かせたかった、と思ってしまうくらい気合いの入った弦のこぶしの利いた節回しを聴いて、しかしあの『管弦楽のための協奏曲』との類似性を強く感じさせつつ具象性を上げたような作品だなと思ったが、同時期(1950-54)の作曲であるようだ。
さて、アンデルシェフスキの弾き振りによるモーツァルトだが、今年の演奏会でも指折りの、血湧き肉躍る「ライヴ感」に満ちた名演だ。ことわっておけば細部は粗っぽいところもあったし、時代様式を大きく踏み外すところも数多いのだが、そうしたことが気になるタイプの私でも否応なく引き込まれた。なぜかと考え直してみると、弾き振りの魅力がただのパフォーマンスではなく、「弾くことの二重化」の徹底にあるのだ、とアンデルシェフスキに教示されたということは大きい。
つまり、弾き振りにおいては、奏でられる音がそのまま聴衆に向けて提供される作品になるだけでなく、その音がオーケストラにとってキューの役割を果たす。その結果、音はどこか演劇的な要素を孕みつつも、たえず音自身に戻っていくような複雑な運動を生起させる。これはもちろんあらゆるアンサンブルにおいて原理的にそうなのだが、とくにモーツァルトの協奏曲においては、フレーズの橋渡しなど明らかにそれが生きる仕掛けが随所にある。12番ではそれがやや誇張的にきこえるところも多かったがすでにめっぽう楽しく、さらに24番に至って、丁々発止のただ中で、アンデルシェフスキ一流の、オーケストラのただなかで孤独を再び発見するような、深い沈潜がより引き立っていく瞬間があり、ぞくぞくとする。
しかし、驚いた。はっきり言えば、この驚きは、同じ演奏会を私自身がもう一度録音で聴いても、おそらく味わえないだろう。そういう演奏が、そういう演奏会があるからわたしたちはコンサートホールに行くのだという当たり前のことを思い出させてくれるオーケストラとソロイストの邂逅であった。
(2021/12/15)
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<Cast>
Piotr Anderszewski (Cond.&Pf)
<Program>
Prokofiev: Symphony No. 1 in D major op. 25 “Classical Symphony”
Mozart: Piano Concerto No. 12 in A major K. 414
Lutosławski: Mała suita (Little Suite) for Chamber Orchestra (1950 original version)
Mozart: Piano Concerto No. 24 in C minor K. 491
(Encore / Haydn: Piano Concerto in D major 3rd movement Hob.XVIIl, “Hungarian Ronde”)