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TRIBUTE TO MIYOSHI「三善 晃 マリンバの世界」|西村紗知

TRIBUTE TO MIYOSHI「三善 晃 マリンバの世界」
TRIBUTE TO MIYOSHI “Akira Miyoshi World of Marimba”

2020年11月5日 トッパンホール
2020/11/5  TOPPAN HALL 
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by たきしまひろよし/写真提供:  PLASTIC RAINS

<演奏>        →foreign language
加藤訓子(マリンバ、パーカッション)
篠崎陽子(マリンバ、パーカッション)
原 順子(マリンバ、パーカッション)
高口かれん(マリンバ、パーカッション)

<プログラム>
三善 晃 :六つの練習前奏曲―2本マレットのマリンバのための(2001)
:協奏的練習曲―2台のマリンバのための(1977 rev. 1979)
:トルスV―3台のマリンバのための(1973)
:組曲《会話》―独奏マリンバのための(1962)
:トルスIII―独奏マリンバのための(1968)
:リップル―独奏マリンバのための(1999)
※アンコール
滝廉太郎/三善 晃編曲:荒城の月
三善 晃:『赤毛のアン』より

 

空間が形を獲得してゆく。あたかも会場全体がはじめはひとつの大きな氷のようで、そこにマレットの一振りが、一打ずつの衝撃が、氷塊に痕跡やひび割れを残すようにして、空間は最初にそうであったようにはもはや有り得ない。記憶――確かに、空間に時間の痕跡を残すのは、各々の記憶だろう。けれども、音楽にとっての記憶は、主題の音型を覚えていて再登場したらそれを寿ぐ、なにもそんな知的な営為に切り詰められるべきではない。マレットが鍵盤にぶつかるときの衝撃、その音の波を鼓膜や皮膚で知覚した身体が、その汗や疲労感覚こそが、記憶の在り処でなくてはならない。

そんな確信を、この日のプログラムの最後二作品「トルスIII」「リップル」を聞きつつ胸に抱いた。その、あまりにストイックな変奏、抽象度の高い音楽性。
この日のどの作品にも主題がある。知的な営為を受け止める、堅牢なエクリチュールの作品群であった。誤解を恐れずに言うと、そもそも、主題とその変奏なくして音楽作品は持続を獲得することはできない。演劇的な「トルスV―3台のマリンバのための」であってもそうで、私は最初なるべくエクリチュールを聞こうとしていた。だが、最後には、マレットの一振りと衝撃に身を委ねていた。エクリチュールを取り出して、例えば頭の中に譜面をつくっていくようにして聞くという行為が、適切でないように思えたからだ。
ピアノやオーケストラのコンサートではそうはならない。エクリチュールが外部に対し、比喩や描写でもって関係を取り結ぶことができるから、それらの関係から想像することもまた聴取行為のうちに含まれている以上、エクリチュールは聞き取られ続ける。それに比べ、マリンバにはマリンバの音しか出せない。いや、マリンバの音はマリンバの音でしかなく、それ以外の存在に対し指示作用をもっていない。このことに気づくと、次第に、エクリチュールが聴取のなかで邪魔になってくる。エクリチュールが、ただひたすら、作品の外観を保つだけの存在になってくるのだ。
そうすると、もうマリンバは自らの殻を破っている。「トルス」はトルスの描写ではない。トルスは想像上のものではなく、現前する。マレットの先から、時間をかけて。

このコンサートを通じて得られた経験、教訓は、こういうものであった。以下にはそれ以外のことを。

「六つの練習前奏曲―2本マレットのマリンバのための」。アラベスク、三和音、トレモロなど、それぞれ特定の音型に特化した六つの練習曲。練習曲とは、肉体と音響とのつながりを自分でコントロールできるようになるためのものだろう。同時に、そのコントロールの精緻さを観客に示せば、立派なパフォーマンスとなる。「協奏的練習曲―2台のマリンバのための」も同様だ。これは二人の奏者が協奏というより一対一でシンメトリーをなすようにして、互いの音響を浴びせ合っている。中心音はない。リズムパターンが反復される。

 

「トルスV―3台のマリンバのための」。入りには素早いミクロポリフォニーのような音響体。あとからシロフォンも加わる。細かい音でざわめく音響をつくっても、微生物めいた気色悪さはない。ゴング、ビブラフォン、ティンパニ、グロッケンも用いられる。

子供のいる家庭の会話の様子をモティーフにしているという「組曲《会話》―独奏マリンバのための」は、影絵のようだ。会話している人の姿、声、言葉これらすべてが、マリンバの音のみで出力されてこちらに届く。三善版『子供の情景』だと思った。この日のうちで最も訥々とした音使いの作品。

「トルスIII―独奏マリンバのための」。乖離した配置の音からなる主題と、密集した配置でうごめくようにトレモロで奏される主題、それに加えて、マレットを変えて静かに奏されるアリア。これらが絡み合って発展する。

「リップル―独奏マリンバのための」。同音連打のトレモロにはじまり、これに近くの別の音が加わり、いったんアラベスクの音型に切り替わるものの、また和音のトレモロが鳴り始める。そののち、またアラベスクと和音のトレモロの繰り返し。

得がたい音楽経験であった。彼らの活動にこれからも注目したい。

 

(2020/12/15)

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<Artists>
Kuniko Kato, Mar., Perc.
Yoko Shinozaki, Mar., Perc.
Junko Hara, Mar., Perc.
Karen Takaguchi, Mar., Perc.

<Program>
Akira Miyoshi :
SIX PRELUDE ETUDES, for Marimba with 2 Mallets(2001)
ETUDE CONCERTANTE, for Two Marimbas(1977 rev. 1979)
TORSE V for 3 Marimbas(1973)
SUITE”CONVERSATION” for Marimba(1962)
TORSE III for Marimba(1968)
RIPPLE for solo marimba(1999)
※Encore
Rentaro Taki / Akira Miyoshi(arr.):Kojo No Tsuki
Akira Miyoshi:from ”Anne of Green Gables”