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新国立劇場 ブリテン:《夏の夜の夢》|藤堂清

ベンジャミン・ブリテン:《夏の夜の夢》
  全3幕〈英語上演/日本語及び英語字幕付〉
Benjamin BRITTEN : A Midsummer Night’s Dream
  Opera in 3 Acts (Sung in English with English and Japanese surtitles)
ニューノーマル時代の新演出版
New Production in the time of “A New Normal”

2020年10月12日 新国立劇場
2020/10/12 New National Theatre Tokyo
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>        →foreign language
指揮:飯森範親
演出・ムーヴメント:レア・ハウスマン
(デイヴィッド・マクヴィカーの演出に基づく)
美術・衣裳:レイ・スミス
美術・衣裳補:ウィリアム・フリッカー
照 明:ベン・ピッカースギル
(ポール・コンスタブルによるオリジナルデザインに基づく)
児童合唱指揮:米屋恵子/伊藤邦恵
音楽チーフ:城谷正博
演出チーフ:澤田康子
照明補:鈴木 武人
舞台監督:高橋尚史

<キャスト>
オーベロン:藤木大地
タイターニア:平井香織
パック:河野鉄平
シーシアス:大塚博章
ヒポリタ:小林由佳
ライサンダー:村上公太
ディミートリアス:近藤圭
ハーミア:但馬由香
ヘレナ:大隅智佳子
ボトム:高橋正尚
クインス:妻屋秀和
フルート:岸浪愛学
スナッグ:志村文彦
スナウト:青地英幸
スターヴリング:吉川健一

児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

新国立劇場の2019/2020シーズンのオペラ公演は、2月の《セビリアの理髪師》を最後に中止されてきた。2020/2021シーズンより再開、その第1弾がこのブリテンの《夏の夜の夢》。
コロナの感染拡大を防ぐために手立てを尽くし、公演が実現された。
出演者は指揮者も含め海外から招聘する予定であったが、滞在ビザを得るのが困難なため、すべて国内組に変更となった。
新国立劇場では新制作となるこの演目、2003年にベルギー・モネ劇場で初演されたデイヴィッド・マクヴィカーの舞台を利用し、レア・ハウスマンが演出することになっていた。来日できなくなる可能性を考慮し、リハーサルなどの公演準備をオンラインで行うことも可能との提案があり、その準備も進めてきていたが、結果的にそれを活かした「リモート演出」で上演された。
舞台上では、出演者同士の接触を減らすよう考慮する必要がある。歌手同士は相手を向いて歌わない。合唱も含め、互いの動線が重ならないようにする。これらは演出上の制約となるが、できる限りそれと感じさせないように工夫された。
作っていく過程もできあがった舞台も、「ニューノーマル時代の新演出版」と呼ぶにふさわしいものとなった。

オペラの題材はシェークスピアの同名の戯曲。作曲者ベンジャミン・ブリテンとパートナーのピーター・ピアーズによる台本は、原作の半分ほどに切り詰められてはいるが、基本的にシェークスピアの書いた言葉を使っている。
妖精の世界のオーベロン、タイターニア、パックそして児童合唱、人間世界では、二組の男女ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナ、そして6人の職人たち、この3つのグループが、オーベロンとパックの仕掛けに翻弄されるが、それぞれ収まるところに収まり、最後はパックの口上で幕となる。
本来は森の中での出来事という設定だが、マクヴィカーの演出では廃屋の中、屋根からは満月がのぞいている。照明の変化も美しく、久しぶりに見る本格的な舞台に感動。
妖精たちがパックを交えて大はしゃぎする場面が幕開き後まもなくあるが、後方の扉から登場した彼らは、舞台全体に広がりそれぞれの位置からあまり動かずに歌い演技する。原演出ではバラバラに動き回っていたのだろうが、「ニューノーマル時代の新演出版」としてはやむを得ない対処というべきか。
ライサンダーとハーミアの駆け落ちペアも、手を取り合ったり、抱き合ったりということもなく、相手を外して歌う。片思いのヘレナも相手のディミートリアスにではなく、客席に向かって訴える。細かくセリフを追いかけていけば、演技との齟齬はあるが多少のことには目をつぶるしかない。
アテネの太守シーシアスの結婚のお祝いで上演する劇の練習のために森に集まる職人たちは折り畳み椅子を持参。間をあけて並べることで、ソーシャル・ディスタンシングをとることが容易になる。
コロナ禍、そしてリモート演出という制約の中、様々な工夫がなされたことがうかがえる。衣装や照明、そして舞台の動きからこのオペラの楽しさを十分に味わうことができた。

演奏はすばらしいものであった。
飯森の指揮のもと、小編成の東京フィルハーモニー交響楽団が緻密で豊かな音色を奏でた。初めて振ったとは思えない細部まで神経の行き届いた演奏、室内楽的な精妙さと言える。
オーベロンの藤木は、今や日本のカウンターテナーの代表といってもよいだろう。広い音域でむらのない響き、言葉をそれにきちんとのせていく。同じ声域でも女声とは異なる倍音を聴かせ、舞台上で男の役として説得力を持つ。作曲家ブリテンがこの役に想定していたアルフレード・デラーのようなすこし前のカウンターテナーと較べると、この声種の歌手の充実ぶりにはおどろかされる。
恋人たち4人の中では、ヘレナの大隅が際立っていた。ディミートリアスに自分を認めてほしいと訴える場面、見向きもしなかった彼だけでなくライサンダーまでが求めてくるという展開に皆でからかっているのだろうと怒りを爆発させる時などなど、彼女の多様な表現力が活かされている。ライサンダーの村上、ディミートリアスの近藤、ハーミアの但馬も高いレベルの歌唱で、重唱が聴き応えがあった。
パックは狂言回しのような役割で、彼の早合点で波乱が起こるのだが、とにかくほとんどの場面で舞台上を動きまわっている。セリフが大切な役であるが、河野の英語は聞き取りやすく、その点でもはまり役。
他の歌手も充実していた。アンダーに指名されて準備はしていたのだろうが、多くが代役でもしっかりとした歌唱を聴かせてくれたことに日本のオペラ界の成長を感じた。
TOKYO FM少年合唱団の精度の高い歌唱も見事なもの。

2020/2021シーズンのオープニングで、新国立劇場がよい再スタートを切ったことを喜びたい。

(2020/11/15)

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<STAFF>
Conductor : IIMORI Norichika
Stage Director & Movement : Leah HAUSMAN
Set & Costume Design : Rae SMITH
Lighting Design : Ben PICKERSGILL
Children Chorus Master : YONEYA Keiko ITO Kunie
Movement Adviser : David GREEVES
Assistant Director : SHIMADA Miroku HASHIMOTO Hideyuki
Music Chief : JOYA Masahiro
Prompter : NEMOTO Takuya
Director Chief : SAWADA Yasuko
Korrepetitor : ONODERA Miki YAZAKI Takako
Original Language Coach : Timothy HARRIS
Surtitles : MASUDA Keiko
English Surtitles : Steven TIETJEN
Stage Manager : TAKAHASHI Naohito
Assistant Set & Costume Design : William FRICKER
Assistant Lighting Design : SUZUKI Takehito
<CAST>
Oberon : FUJIKI Daichi
Tytania : HIRAI Kaori
Pack : KONO Teppei
Theseus : OTSUKA Hiroaki
Hyppolita : KOBAYASHI Yuka
Lysander : MURAKAMI Kota
Demetrius : KONDO Kei
Hermia : TAJIMA Yuka
Helena : OSUMI Chikako
Bottom : TAKAHASHI Masanao
Quince : TSUMAYA Hidekazu
Flute : KISHINAMI Aigaku
Sung : SHIMURA Fumihiko
Snout : AOCHI Hideyuki
Starveling : YOSHIKAWA Kenichi
Children Chorus : TOKYO FM BOYS CHOIR
Orchestra : Tokyo Philharmonic Orchestra