女性作曲家ピアノ曲 マラソン・コンサート|丘山万里子
知られざる作品を広めるコンサート(11)
女性作曲家ピアノ曲 マラソン・コンサート
(セシル・シャミナードの誕生日に)
Piano Selections by Women Composers
2019年8月8日 杉並公会堂小ホール
2019/8/8 Suginami Koukaidou Small Hall
Reviwed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
<曲目&演奏> →foreign language
①エイミー・ビーチ(1867-1944):夏の夢
1.ブラウニー 2.ヨーロッパコマドリ 3.夕暮れ
4.キリギリス 5.小妖精のタランテラ 6.おやすみ
マリー・ジャエル(1846-1925):4手のためのワルツ集(全13曲)op.8より
第1番、第3番、第4番、第6番、フィナーレ
pf,4hands:正住真智子、弘中佑子
②エミリエ・マイヤー(1812-1883):
3つのフモレスケ op.41
1.ニ長調、2.ホ長調、3.ハ長調
ハンガリー風 Ungaraise, op.31
セシル・シャミナード(1857-1944): アラベスク op.61
pf:五味田恵理子
③セシル・シャミナード:スカーフの踊り op.37 no.3
ルイーズ・ファランク(1804-1875):ロシアの主題による変奏曲
pf:山口裕子
④ヨゼファ・バルバラ・フォン・アウエルンハマー (1758-1820):
「おいらは鳥刺し」による変奏曲
ハンガリーの主題による変奏曲
pf:岸本雅美
〜〜〜〜〜〜〜
⑤リリ・ブランジェ(1893-1918):ピアノのための3つの小品
古い庭で、明るい庭で、行列
pf:弘中佑子
⑥セシル・シャミナード:ピエレットop.41
テクラ・バダジェフスカ(ボンダジェフスカ=バラノフスカ)(1834-1863):
乙女の祈り
甘い夢想
叶えられた祈り
pf:エミィ轟シュワルツ
⑦セシル・シャミナード:森の精 op.60
ルイーゼ・アドルファ・ル・ボー(1850-1927):
3つの古風な舞曲 op.48
1.サラバンド 2.ガヴォット 3.ジーグ
夕べの調べ op.64
pf:西原侑里
⑧アガーテ・バッケル=グレンダール 1847-1907):
バラード op.36 no.5
セレナード op.15 no.1
演奏会用練習曲 Etude de concert, op.11 no.3
夏の歌op.45 no.3
pf東浦亜希子
「知られざる作品を広める会」代表の谷戸基岩氏と『女性作曲家列伝』(平凡社選書/1999)編著など女性音楽史研究の第一人者である小林緑氏の強力コンビによる2部構成(午後/夜)のコンサート、大入り満員である。
「知られざる作品を広める会」第11回であるから、その精力的な活動には頭がさがる。二氏のこだわりの凝縮された企画で、方や元レコード・プロデューサーとしての経験値と年間休みなく通う音楽評論家としての谷戸氏の知見、方や鋭いジェンダー論を展開する小林氏の音楽学者としての知見、その相乗の果実を味わえるわけだ。
当日は二氏協業による『女性作曲家ガイドブック2016』とその補遺2019年も用意され、まさに万全。
筆者はマラソン午後の部ほぼ3時間で退却したが、夜の部もエレーヌ・ド・モンジェルーなど興味深い名が並んでおり、残念ではあった。
谷戸氏の「感動しよう、などと身構えず、リラックスして楽しんでほしい。一つでも二つでもこれは気に入った、と思えるものがあればそれでいい。」という言葉に肩の力を抜きつつ、小林氏が時折口走る「女性だからって、こんな待遇はないでしょ」的差別摘発発言に頷いたりもする。
以下は筆者の「これは気に入った」。
何と言っても筆頭はリリ・ブランジェ(1893~1918)。これが聴きたくて行ったのだ、そして、やっぱりさすが、群を抜く。姉のナディアが彼女を愛し、おそらくその天才に嫉妬もしたであろう早逝のリリ。この『ピアノのための三つの作品』はローマ大賞受賞のご褒美として滞在したメディチ荘で書かれたもの(1914)。もちろん、シャミナード(1857~1944)らより一世代若く、また時代・社会環境も異なるが、それでもその音の扱いには現代をひらく先駆性と感性の鋭敏が読み取れ、「男とか女とか、何それ?」と浮かぶ笑みを筆者は確かに目撃した。和声の精妙、色彩感の独特、加えてどこかに不穏さが。それを弘中祐子が見事に表出。
次はミーハーの極みだがテクラ・バダジェフスカ『乙女の祈り』。何しろ、幼少時からピアノの発表会で耳タコものの、プロのピアニスト実演体験皆無のこの曲。エミィ轟シュワルツはいともあっさりシンプルに弾きあげ、それがまた良かったのだ。変な装飾とかディナーミク演出とか一切せず、湿気なきセンチメントの美しさがあった。
この知られすぎた名曲を含む知られざるバダジェフスカの3作、とりわけ『叶えられた祈り』は、『乙女』と変わらぬ趣味に塗りたくられて食傷したゆえ、これを並べた意図にいたく感心した次第。
次に、ヨゼファ・バルバラ・フォン・アウエルンハマー(1756~1820)の2つの変奏曲。『おいらは鳥刺し』は実に気の利いた一品で、ちゃんとオペラのシーンが、歌声が浮かんでくる。オール・モーツァルトのコンサートか何かのデザートにおすすめのお洒落で楽しい作品だ。岸本雅美が素敵にコロコロ、ちゃらちゃらと軽やかに聴かせてくれた。
もう一作はハンガリーの主題である分、ドラマティックで表現も多彩、ファンタジーに満ちており、山あり谷ありのスケールの大きさが魅力。
この人、モーツァルトの弟子で容姿をボロクソに言われたとのことで、肖像画も残っていないが、モーツアルトの言葉は「残った」。オペラ・アリアの演奏曲が得意で即興演奏も高い評価を受けたそうだ。
プログラムの柱となったシャミナードは、なるほど作曲家としての構えの大きさと腕の確かさを持つ。その他の人々がお茶の間で楽しめる肩肘はらぬ作品であったのに対し、『アラベスク』でのシンフォニックな効果など、お茶の間から出て世間へ広く、賢く目配りした広がりを感じさせた。それぞれを取り巻く環境の差異がここには覗き見える。
昨今の現代音楽シーンでの女性作曲家の活躍を鑑みるに、やはり時代・社会の意識の変化(自己と環境)は大きい、と思う一方で、男女共々、己と世界をしかと見つめ立っているかどうか、いささか考え込みもしたのである。
(2019/9/15)
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<Pieces&players>
①Amy Beach(1867-1944):Summer Dreams, op.47
1. The Brownies、2. Robin Redbreast、 3.Twilight、4.Katy-dids、5.Elfin Tarantelle、6. Good Night
Marie Jaëll(1846-1925):)Valses pour piano à quatre mains, op.8
1、3、4、6、Finale
pf,4hands /Machiko SHOJU, Yuko HIRONAKA
②Emilie Mayer(1812-1883):
Drei Humoresken, op.41
Ungaraise, op.31
Cécile Chaminade(1857-1944): Arabesque, op.61
pf/ Eriko GOMITA
③Cécile Chaminade: Pas des écharpes, 3e air de ballet, op.37 no.3
Louise Farrenc(1804-1875): Air russe varié, op.17
pf /Yuko Yamaguchi
④Josepha Barbara von Auernhammer(1758-1820):
Sei Variazioni dell’ aria “Der Vogelfänger bin ich ja”
Six Variations sur un thème hongrois
pf/ Masami KISHIMOTO
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⑤Lili Boulanger(1893-1918): Trois morceaux pour piano
D’un vieux jardin、D’un jardin clair、Cortège
pf/ Yuko HIRONAKA
⑥Cécile Chaminade:Pierrette, op.41
Tekla Bądarzewska(1834-1863):
La prière d’une vierge
Douce rêverie (mazure)
La prière exaucée
pf/Emy TODOROKI=SHWARTS
⑦Cécile Chaminade:Les Sylvains, op.60
Luise Adolpha Le Beau(1850-1927):
Drei alte Tänze, op.48
1. Sarabande、2. Gavotte、3. Gigue
Abendklänge, op.64
pf/Yuri NISHIHARA
⑧Agathe Backer-Grøndahl(1847-1907):
Ballade, op.36 no.5
Sérénade, op.15 no.1
Etude de concert, op.11 no.3
Sommervise, op.45 no.3
pf/ Akiko HIGASHIURA