クラウディオ・モンテヴェルディ 聖母マリアの夕べの祈り|藤原聡
クラウディオ・モンテヴェルディ 聖母マリアの夕べの祈り
2015年9月23日 上野学園 石橋メモリアルホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<曲目>
モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
<演奏>
有村祐輔(指揮)
ロベルタ・マメリ(ソプラノ)
松井亜希(ソプラノ)
波多野睦美(メゾソプラノ)
ルーファス・ミュラー(テノール)
櫻田亮(テノール)
谷口洋介(テノール)
小笠原美敬(バス)
アンサンブル・パルナス(オーケストラ)
セシリア・コンソート2015(合唱)
合唱の入場からして、この曲にしては人数がかなり多いな、とは感じていたのだが、ザッと数えてみると60人ほどはいただろうか。恐らく最多の部類だろう。オケは通奏低音がつのだたかし(テオルボ)、田崎瑞博(チェロ)。コルネットに濱田芳通、リコーダーに古橋潤一など名手が並ぶ。独唱陣では海外からのゲストにロベルタ・マメリとルーファス・ミュラーが特筆。
演奏であるが、有村の指揮はいい意味で全く奇を衒ったところがなく、オーソドックスの極み。であるから、逆に楽曲の良さを素直に堪能することが出来る(より個性的な演奏を好む御仁がいても不思議ではないが)。合唱は、そのダイナミックさは特筆されるが、発声水準はすばらしいものの表情の起伏という点ではいささか一本調子であった感は否めない。大人数であるがゆえにそこが強調された感もある。独唱陣も総じて高水準だったけれど、中でも一頭地を抜いていたのが明らかにロベルタ・マメリとルーファス・ミュラーである。この両者は、前述の合唱とは反対に、まるでオペラを聴いているかのようなエスプレッシーヴォな歌唱で、よく指摘されることではあるけれど、モンテヴェルディの当曲の宗教曲としての「異質さ」をも感知させるような名唱(なお、独唱陣が3人登場する曲では三角形の形に並ぶ。合唱も曲によって配置を変えていたのが面白い)。演奏全体としては、こういう大曲ゆえにあらゆる点で満足が行く水準とは言いかねたものの、『ヴェスプロ』の真髄を十分に体験できた見事な演奏だったのは間違いあるまい。
ちなみに、この「セシリア・プロジェクト」は有村祐輔の傘寿を祝う目的で2013年に1度限りの『メサイア』公演のために馴染みの合唱仲間が集まったもの、という。しかし、コンソートの代表佐藤諭貴が「米寿の記念に『ヴェスプロ』はいかがですか?」と半ば冗談でその公演パンフに書いたところ話が盛り上り、プロジェクトは継続されて有村の米寿を待たずして今回の開催と相成ったとのことだ。第3弾を匂わす発言も今回パンフ上で佐藤が行っているが、「先生、あの曲やっちゃいますか?」の「あの曲」とはどの曲だろう?(笑) バッハのロ短調ミサでしょうか(筆者の勝手な想像です)。