PickUp (2022/4/15)|東京・春・音楽祭(2題)|藤堂清
♪ 東京・春・音楽祭(記者会見)
2022年3月18日東京文化会館大ホール・ホワイエ
Reported by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)
東京・春・音楽祭の開幕にあたり記者会見が行われた。登壇者は東京・春・音楽祭実行委員会・委員長鈴木幸一と事務局長芦田尚子の二名。
プログラムの細かい説明はなく、音楽祭開催にあたっての理念が中心となった。特に鈴木の音楽祭にかける思いがよく伝わるものであった。
鈴木は言う。
- 1968年のチェコスロヴァキアの『プラハの春』、アレクサンデル・ドゥプチェクによる改革運動が、ソヴィエト連邦軍とワルシャワ条約機構軍の軍事介入により破綻したのちのプラハ、ソ連の戦車に埋め尽くされた町にいた。混乱を避けるため離れようとしたとき、プラハの住民に言われた言葉は忘れられない。『プラハの春音楽祭』までは残って見届けてほしいと、我々は音楽祭があるから生きていけるのだと。
- 2020年、2021年と二年にわたり、コロナの感染拡大の影響で、計画していた出演者の多くが来日できず、多くのコンサートが中止に追い込まれてきた。
今年のプログラムは、新たな一歩を踏み出すことができる企画となったと思う。コロナの大きな影響にもかかわらず、東京・春・音楽祭をつなぐことができたと考えている。聴く人の思い出となるような音楽を、それを生み出す音楽祭を頑張って継続していきたい。 - 初日のコンサートを指揮するリッカルド・ムーティが来日し、練習を行っている。彼とシューベルトの《未完成交響曲》について話をする機会があった。どちらの楽章が好きかと聞くので、私は第1楽章が好きだと答えた。彼は第2楽章が好きだという。この楽章は祈りであり、その祈りが深いほど後は続けられなくなっていく。未完成の理由と考えると。
- ほとんどすべてのコンサートは上野から世界へ向けてライブ配信される。それを知ったムーティは、ウクライナをめぐる情勢を考えると聴衆に向け、世界に向け、何か言葉がいるのではと言っていた。実際初日の冒頭、彼は短いスピーチを行った。
- インターネットはもともと軍事技術だが、それを通じ、世界とつながる音楽祭としたい。
ネットでのオペラ配信は画像も音も20年前とくらべものにならないくらい良くなった。日本中、世界中で同時に見ているということになれば、コンサートも変わっていく可能性がある。
事務局長として芦田は、以下の三点を述べる。
- 有料公演70、すべて聴衆を入れて行う。そのほかに子供のための公演5,現時点での中止が4公演。
渡航の制限は少なくなったが、ウクライナ情勢のためフライトが不安定となっている。しかし、参加する音楽家はサクラの季節に日本で音楽をする意欲が強い。
美術館・博物館の運営が平常に戻りつつある。これを受けミュージアム・コンサートを実施する。 - ライブ・ストリーミング配信とした理由。
収録に金をかけない。
4Kカメラ据え置き。見たいときに見たいポイントを絞れる機能あり。カメラワークなしで値段を安くする。音はよいものを提供。 - 公演をコロナから守る。
出演者には、事前のPCR検査を行い、抗原検査を毎日続ける。皆協力的。
ムーティのオペラ・アカデミー、今年は中止。ムーティはアカデミー参加者にはオンラインではなく、リアルに聴いてもらう環境(場所、人)が望ましい。今年はコロナのためまだそれができない。予定の《仮面舞踏会》は2023年に行う。
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♪ 東京・春・音楽祭(三宅理恵・ミュージアム・コンサート)
2022年3月23日 国立科学博物館 地球館地下2階常設展示室
Reported by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:ヒダキトモコ
ミュージアム・コンサートと子供のためのワーグナーはこの音楽祭を特徴づけるもの。後者については以前に取り上げた。
今回は、ミュージアム・コンサートの実例として三宅理恵のリサイタルをとりあげる*)。
演奏内容は優れたもの。
三宅理恵の明るい軽い声、この日も快調で、前半のパーセルからドリーブまで細かな音の動きがピタピタと決まり気持ち良い。松尾のギターも出過ぎず引っ込み過ぎず、声とのバランスがよい。アンコールも含めギター用の編曲は松尾によるものとのこと。後半は映画音楽メドレーという毛色の異なる曲も歌った。最後の武満〈死んだ男の残したものは〉では、三宅がウクライナの現状を思っての言葉を足した。
国立科学博物館でのミュージアム・コンサートは以前に聴いたことがある。そのときの会場は日本館講堂で、音楽のために作られているわけではないだろうが、舞台も客席もある閉じた空間で、聴きにくいということはなかった。当日行ってはじめて気付いたのだが、今年はまったく違う会場であった。地球館地下2階常設展示室、そこには恐竜や大型動物の実物大骨格模型がぶら下げられたり並んでいたりする。歌い手らの頭のはるか上に骨が並んでいるが反響板としては弱いし、演奏者の背後にも広い空間が拡がっている。パイプ椅子が並べられた客席の間には博物館の表示が立っていたりもする。正面なら直接音が聴けるかと考えて席を選んだが、背後の空調音のような雑音が大きく、音楽に集中することが難しかった。
ミュージアム・コンサートは今回のように会場に制約を受けることがある。しかし比較的狭い場所が使われることが多いため、聴衆との距離はそれほどなく、間接音の助けがなくとも音楽を聴くのに問題が起こることはあまりない。会場の選定・設定にあたっては、広さだけでなく、雑音の有無も考慮していただきたい。
*)今号では他の2つのミュージアム・コンサートの評を掲載している。
◆東京・春・音楽祭 2022 ミュージアム・コンサート 東博でバッハ Vol.55 藤木大地 カウンターテナー|秋元陽平
◆成田達輝~現代美術と音楽が出会うとき|丘山万里子
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ミュージアム・コンサート
三宅理恵(ソプラノ)
2022年3月23日
国立科学博物館 地球館地下2階常設展示室
〈出演〉
ソプラノ:三宅理恵
ギター:松尾俊介
〈曲目〉
パーセル:ひとときの音楽
ヘンデル(松尾俊介編):歌劇《リナルド》より「私を泣かせてください」
シューベルト(松尾俊介編):《白鳥の歌》D957より第1曲「愛の使い」
タレガ:アルハンブラの思い出(ギターソロ)
ロッシーニ(松尾俊介編):アラゴネーゼ
ロドリーゴ:《4つの愛のマドリガル》より
第1曲「何で顔を洗おうか」
第4曲「母さん、ポプラの林へ行ってきた」
ドリーブ(松尾俊介編):カディスの娘たち
————(休憩)————–
ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ 第5番 より 第1楽章 アリア:カンティレーナ
映画音楽メドレー:ムーン・リバー~エーデルワイス~禁じられた遊び~虹の彼方に
加藤昌則:旅のこころ
武満徹:死んだ男の残したものは
小さな空
———(アンコール)———–
グノー(松尾俊介編):歌劇《ファウスト》より「宝石の歌」
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Spring Festival in Tokyo 2022
Museum Concert
Rie Miyake(Soprano)
<Date / Place>
March 23, 2022
National Museum of Nature and Science, Global Gallery, B2F, Permanent Exhibition Space
<Cast>
Soprano:Rie Miyake
Guitar:Shunsuke Matsuo
<Program>
Purcell:Music for a while
Handel(arr. by Shunsuke Matsuo):Lascia ch’io pianga(”Rinaldo”)
Schubert(arr. by Shunsuke Matsuo):”Schwanengesang” D957 – Liebesbotschaft
Tárrega:Recuerdos de la Alhambra
Rossini(arr. by Shunsuke Matsuo):Aragonese
Rodrigo:”Cuatro madrigales amatorios”
Con que la lavare?
De los álamos vengo, madre
Delibes(arr. by Shunsuke Matsuo):Les filles de Cadix
————-(Intermission)————-
Villa-Lobos:Bachianas brasileiras No.5, I. Aria: Cantilena
Movie Music Medley:Moon River~Edelweiss~Jeux interdits~Over the Rainbow
Masanori Kato:Tabi no Kokoro
Toru Takemitsu:
Shinda Otoko no Nokoshita Mono wa
Chiisana Sora
—————-(Encore)—————-
Gounod(arr. by Shunsuke Matsuo):Air des bijoux(”Faust”)
(2022/4/15)