2020年 第6回年間企画賞
Mercure des Artsは執筆陣による選考の結果、2020年(2019年11月1日〜2020年10月31日までの公演)の年間企画賞1〜3位を選出し、ここに発表いたします。
今年は現在もなお続くコロナ禍の影響を、色濃く反映する結果となりました。今回惜しくも入選しなかった公演にも、執筆陣一人一人の推薦理由に時節柄が反映されていたことをここにお伝えします。票数としては全体に分散するかたちとなったのですが、配信や観客数制限など、感染予防対策に悩みつつも決行した公演に多く票が寄せられました。公演の内容のみならず、開催者の姿勢にも印象付けられる一年になったと思います。
【1位】
《サイレンス》
2020年1月18日 ロームシアター京都
2020年1月25日 神奈川県立音楽堂
【2位】
びわ湖ホールプロデュースオペラ「ニーベルングの指環」第3日《神々の黄昏》
2020年3月7日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2020年3月8日 You Tubeでの無料ライブ・ストリーミング視聴
【3位】
川島素晴 plays… vol.1 “肉体”
2020年3月24日 杉並公会堂小ホール
◆選定にあたって
【1位】
川端康成の短編「無言」を原作に、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞音楽賞を受賞したアレクサンドル・デスプラが台本・作曲を手掛けるとあり、芸術に関心を寄せる幅広い層に当初から話題となっていた公演。映像、演出、作曲、演奏という舞台を構成するあらゆる点において完成度が高く洗練されており、作品(企画)の問題意識も非常にクリティカル。「無言」と「音楽」と「劇」とを強い緊張関係に置き、人間のコミュニケーションの本質へと迫っていく姿勢に、突き動かされるものがあった。
★参考レビュー
《サイレンス》(原作:川端康成「無言」)|能登原由美
ボーダーレス室内オペラ「サイレンス」|西村紗知
【2位】
演出、演奏ともに世界トップクラスのスタッフを集め、びわ湖ホールが4年の歳月をかけて取り組んできた「びわ湖リング」の最終章が、新型ウィルスの世界的流行により、予定日のわずか1週間前に中止の決断を余儀なくされた。だが同時に、ダブルキャストによる2日間の公演のいずれも無観客上演とライブストリーミングの配信、さらにDVDの製作・販売を行うことを決定。ウィルスの災禍にあえぐ音楽界、あるいは舞台芸術界全体に一石を投じる試みとなった。そればかりか、公演規模や内容の充実度、その画期的な発信方法などを鑑みれば、これが日本のオペラ史、ひいてはクラシック音楽史に刻まれるべき歴史的事象となったことは間違いないだろう。
★参考レビュー
緊急特別企画|びわ湖ホールプロデュースオペラ「ニーベルングの指環」第3日《神々の黄昏》|能登原由美
【3位】
コロナ禍突入初期、検温はなかったものの手指消毒、パンフは自分で、扉解放、市松模様座席にマスク着用、会話禁止と迅速帰宅の勧め。まだ「ええ!?」と笑えた状況ではあったが軒並み消えるコンサート、この上演に賭けた演者・作曲家の決死の覚悟と感染不安を抱えつつそれを受け止める観衆の異様な緊張。ジム閉鎖により鍛えが半端になったとのまさしく「半端肉体」を晒しソロから複数まで種々の演目に、肉体すなわち人間存在の丸ごとを投げ出し「今を生き切る」。二度と遭遇不可能な「人と時」を刻印する凄まじい「場」として歴史に残ろう。さらに、公演後の動画配信を見た視聴者によれば、爆笑の内にも「体を張るとはこういうことだ!」と本当に自分の体を使って示してしまう「現音バカ一代」の侠気と狂気を知ったとか、これもこの公演の知力・体力・威力を示したと言えよう。
★参考レビュー
ヴォクスマーナ&川島素晴|丘山万里子
(2020/12/15)