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山形交響楽団 さくらんぼコンサート2019東京公演|藤堂清   

山形交響楽団特別演奏会 
さくらんぼコンサート2019東京公演
Yamagata Symphony Orchestra CHERRY Concert 2019 in Tokyo

2019年6月28日 東京オペラシティ・コンサートホール
2019/6/28 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 

<演奏>     → foreign language
指揮:阪 哲朗
ソプラノ:森 麻季
バリトン:大西 宇宙
管弦楽:山形交響楽団 

<曲目>
モーツァルト/セレナード 第6番 ニ長調《セレナータ・ノットゥルナ》K.239
モーツァルト/歌劇《ドン・ジョヴァンニ》K.527 より
 ・ドンナ・アンナのアリア
   <酷いですって!いいえ…そんなことはおっしゃらないで下さい、愛しい人よ>
 ・ドン・ジョヴァンニのカンツォネッタ<窓辺においでよ>
モーツァルト/歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》K.588 より
 ・フィオルディリージのロンド<恋人よ、どうか許してください> 
 ・グリエルモのアリア<彼に目を向けてください>
モーツァルト/歌劇《ドン・ジョヴァンニ》K.527 より
 ・ドン・ジョヴァンニとツェルリーナの二重唱<お手をどうぞ>
—————–(休憩)—————–
ヴェルディ/歌劇《リゴレット》より
 ・序曲
 ・ジルダのアリア<慕わしい人の名は>
 ・リゴレットとジルダの二重唱<娘よ!お父様!>
モーツァルト/交響曲 第36番 ハ長調《リンツ》K.425 

 

山形交響楽団(山響)が毎年さくらんぼの季節に東京で行っているコンサート、今年は4月に新たに常任指揮者に就任した阪哲朗のお披露目でもあった。阪は1990年代よりヨーロッパ各地の歌劇場で、専属指揮者や音楽総監督を歴任してきている。この日のプログラムもオペラが大きな割合を占めた。ソプラノの森麻季、バリトンの大西宇宙をソリストにむかえ、モーツァルトとヴェルディをとりあげた。
彼の前任の常任指揮者であり、現在芸術総監督をつとめる飯森範親による全曲録音があるモーツァルトの交響曲は、このオーケストラにとって大切なレパートリー。ナチュラルホルン、バロックトランペット、バロックトロンボーン、古楽仕様のティンパニを使い、モダン楽器では出せない音色を聴かせる。
この日も前半と最後の交響曲ではこの楽器編成で演奏を行った。後半のヴェルディとは音色だけでなく、ダイナミクスの幅も違い、山響の表現力の幅を示すものとなった。このような積極的な取り組みは、小編成だからできるのかもしれないが評価に値する。楽器は楽団が用意しているようだ。

1曲目の《セレナータ・ノットゥルナ》では、ヴァイオリン2、ヴィオラ、コントラバスを指揮者の前に出して立奏させ、他の弦楽とティンパニがそれを囲むというかたち。前の4人は合奏協奏曲における独奏群という扱いだが、その役割を十全に果たした。
ついでモーツァルトのオペラから5曲、森、大西が2曲づつと二重唱。
森麻季の2曲はともに長く、また技巧的でもある。決して大きな声ではないが、ヴィブラートが少なくピュアな響きがオーケストラの音に載って会場に拡がる。言葉をクリアに歌うことも彼女のような高い声ではたいへんだろう。20年以上におよぶキャリアの中でそれを保ち続け、歌う頻度も落とさないで来ている。この日は彼女にとって3日連続のコンサートの初日だったのだが、そのためにセーヴすることもなく歌い切った。指揮者の阪が、歌手の呼吸や音のふくらませ方を把握し、オーケストラをコントロールしていた。
大西の歌った2曲のアリアは、昨年のリサイタルでもとりあげていた曲。彼の厚みのある響きはオーケストラをバックにしたときの方が映える。これからも長所を活かし、いろいろな役、歌に挑戦していってほしい。とはいうものの、グリエルモのアリアでは、もう少し子音が明瞭に聴こえたらと感じた。

後半はヴェルディの《リゴレットから3曲。
<娘よ!お父様!>での大西の若々しいリゴレット、その声はモダン楽器に持ち替えたオーケストラの厚い響きとマッチして威力を増す。経験を積めば成熟した歌になっていくだろうが、この勢いは今だけのもの。二重唱での森の細かな言葉さばきも光る。 

全体として阪のオペラ指揮者としての能力の高さを感じるコンサートであった。二人の歌手のブレスや、音の響かせ方の違いに配慮し、歌いやすいようにオーケストラをコントロールしている。
始まったばかりの山響との活動、オペラをどう取り込んでいくかに注目したい。

首都圏以外を本拠地とするオーケストラ、山形交響楽団だけでなく、年1,2回の東京公演を行うところが多い。在京オーケストラが数あるなか、東京圏の人間が地方に聴きにいくのは指揮者やソリストによほどの魅力がないとむずかしいだろう。「来てくれる」ことで、それぞれのオーケストラの活動を知ることができ、その状況への興味もわいてくる。このような機会を大切にしたいものだ。
コンサート会場のロビーには、さくらんぼなど山形の特産品の売店がならび多くの客を集めていた。またプログラムには山形の企業・団体からの支援の記載が並んでいた。地方での音楽活動における地元とのつながりの大切さを感じさせられた。こういった関係が続くことを期待したい。
 

(2019/7/15) 

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(Players)
Tetsuro Ban, Conductor
Maki Mori, Soprano*
Takaoki Onishi, Baritone+

(Program)
Wolfgang Amadeus Mozart:Serenade No.6 in D Major, K.239 “Serenata Notturna”
Wolfgang Amadeus Mozart:Don Giovanni, K.527
Crudele! Ah no, mio bene – Non mi dir*
Deh, vieni alla finestra+
Wolfgang Amadeus Mozart:Cosi fan tutte, K.588
Per pieta, ben mio, perdona*
Rivolgete a lui lo sguardo+
Wolfgang Amadeus Mozart:Don Giovanni, K.527
La ci darem la mano*+
———————intermisson———————-
Giseppe Verdi:Rigoletto
Overture
Gualtier Malde – Caro nome*
Figlia! Mio padre!*+
Wolfgang Amadeus Mozart:Symphony No.36 in C Major, K.425, “Linz”