Menu

NHK交響楽団 第1917回 定期公演 《トゥランガリラ交響曲》|藤堂清

NHK交響楽団 第1917回 定期公演 Bプログラム
NHK Symphony Orchestra, Tokyo No.1917 Subscription Program B 

2019年6月19日 サントリーホール
2019/6/19 Suntory Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 

<演奏>      → foreign language
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ:ロジェ・ムラロ 
オンド・マルトノ:シンシア・ミラー 
管弦楽:NHK交響楽団 

<曲目>
メシアン:トゥランガリラ交響曲

 

オリヴィエ・メシアンの代表作であり近年では演奏される機会が多い。NHK交響楽団も、1962年小澤征爾(メシアン監修、イヴォンヌ・ロリオPf.)、1985年外山雄三、1988年エサ・ペッカ・サロネン、1998年シャルル・デュトワ、2008年準メルクル、2011年アンドレ・プレヴィン、と多くの指揮者のもとで演奏してきている。
1949年にレナード・バーンスタインによって初演されたこの曲、70年を経てクラシックの名曲、20世紀の古典として定着したことを感じた。 

大編成(18型)のオーケストラ、ソロ楽器であるピアノとオンド・マルトノ、さらにチェレスタとジュ・ドゥ・タンブルの二つの鍵盤打楽器を並べて、舞台前面にはほとんど空きがない。響きの長いサントリーホールで演奏すれば、飽和状態に陥るのではないかと危惧したが、ヤルヴィのバランスのとり方は絶妙。ぎりぎりまで音量を上げるが、音がつぶれるようなことはない。聴き手は音の洪水の中にありながら、楽器の音をきちんと聴き取れる。
オーケストラのパートごとの音が揃っていることも寄与している。それには、この日客員コンサートマスターを務めたロレンツ・ナストゥリカ・ヘルシュコヴィチの貢献もあった。彼は1992年からミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターであり、体全体を使った団員への指示は、演奏全体に大きな影響を及ぼしていた。 

この曲では、ピアノとオンド・マルトノがソロを担当する。この日の二人のソリストはそれぞれ魅力的。
ピアノのロジェ・ムラロはメシアンのスペシャリストという評価が高い。〈愛の歌Ⅱ〉での長いピアノ・ソロ、協奏曲におけるカデンツァのように聴衆を惹きつけた。
オンド・マルトノのシンシア・ミラーの演奏は、この楽器の機能について考えを変えるように仕向けるものだった。音程を変化させながら音圧はほぼ一定の音を出すことが多いが、パルス的で強い音が使われていた。ピアノと対抗するように響かせたが、こういう音は、いままで印象に残ったことがなかった。

パーヴォ・ヤルヴィの演奏は実に見通しがよい、ソロも含む音楽全体が思い入れなしに目の前に立ち現われてくる
ブーレーズがメシアンのこの曲を酷評していたことは知られている。だがもし彼が評価し、演奏していたなら、遅くとも作曲者の亡くなった1990年代には、レントゲン撮影(少し古い表現だが)したような表現を我々は知っていたことだろう。ほぼ30年遅れではあるが、この日、「愛」をなまめかしく歌い上げるのとは異なる《トゥランガリラ交響曲》を聴いた。それは同時に、演奏にあたってメシアン自身が監修しつづけてきたこの作品が、作曲者からの自由を得たともいえるだろう。 

でも、と思う
デュトワ、プレヴィン等の熱さの中にもこの曲の本質があるのではないか 

(2019/7/15) 

 

—————————————

〈Performer〉
Conductor:Paavo Järvi
Piano:Roger Muraro
ondes Martenot:Cynthia Millar
Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo 

〈Program〉
Olivier Messiaen:Turangalila-Symphonie