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ヴィオラスペース2019 vol.28 東京公演:コンサートII「世界一周」|齋藤俊夫

ヴィオラスペース2019 vol.28 東京公演:コンサートII「世界一周」
Viola Space 2019 vol.28 Tokyo Concert II ”TRAVEL AROUND THE WORLD”

2019年6月5日 上野学園石橋メモリアルホール
2019/6/5 Ishibashi Memorial Hall, Ueno Gakuen
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 藤本史昭(Fumiaki Fujimoto)/写真提供:テレビマンユニオン

〈曲目・演奏〉        →foreign language
エリザベス・レニー:『ザ・ギャザリング』6声のヴィオラのためのアフリカ組曲より
 I.到着
 II.オリヴァーの子守唄
 V.アフターパーティ
  ヴィオラ:ルオシャ・ファン、大島亮、エリザベス・レニー、セジュン・キム、井上典子、金田滉司

ダリウス・ミヨー:『4つの顔』
 I.カリフォルニアの女
 II.ウィスコンシンの女
 III.ブリュッセルの女
 IV.パリの女
  ヴィオラ:大島亮、ピアノ:有吉亮治

フェデリコ・モンポウ作曲/ウィリアム・ヴィヴィアン・マリー編曲:ピアノ・セレクション
 ・ひそやかな音楽 第1番、第3番
 ・秘めごと~『内なる印象』より
 ・前奏曲 第4番
 ・歌と踊り 第6番
  ヴィオラ:今井信子、ルオシャ・ファン、セジュン・キム、大島亮

ベンジャミン・デイル:『序奏とアンダンテ』作品5
  ヴィオラ:アントワン・タメスティ、市坪俊彦、辻菜々子、金田滉司、田口夕莉、井上祐吾

ガース・ノックス:『ストレンジャー』
  ヴィオラ:アントワン・タメスティ、ヴィオラ・ダモーレ:ガース・ノックス

西村朗:8つのヴィオラのための『桜』
  ヴィオラ:今井信子、ルオシャ・ファン、井上祐吾、セジュン・キム、大島亮、辻菜々子、井上典子、佐々木亮

ブレット・ディーン:『テスタメント』(日本初演)
  ヴィオラ:佐々木亮、塩加井ななみ、藤原右京、石渡彩馨、本田梨紗、貝森萌、
       蕨春菜、布施海里、佐藤友希乃、島英恵、大島愛華、大畑祐季乃
  指揮:アントワン・タメスティ

アストル・ピアソラ作曲/三浦一馬編曲:『ル・グラン・タンゴ』
  ヴィオラ:佐々木亮、チェロ:江口友理香、バンドネオン:三浦一馬

 

まず南アフリカ出身のレニー作品だが、『アフリカ組曲』と銘打っているものの、筆者には「どこがアフリカなのか」は全くわからなかった。たしかに美しくは書かれているものの、西洋クラシックと異なる音楽は全く聴こえず、「イギリス・北欧の新調性主義の新作」や「中国の新作映画の劇伴音楽」「20世紀前半の中南米の作品」と言われたらコロッと信じてしまったであろう。アフリカと言っても東西南北古今東西様々なのだろうが(そもそもあれだけ大きな大陸なのだから)、筆者はこの作品にアフリカを感じることはできなかった。

ミヨー作品は「カリフォルニアの女」「ウィスコンシンの女」「ブリュッセルの女」「パリジェンヌ」という副題がつけられた短い4曲からなる。これが実にヴィオラのグラマラスな音とマッチしていて色気がある。土地ごとの地酒を味わうがごとく土地ごとの女の色気を音楽化するドンファン・ミヨーに一時でも憧れるに十分であった。

モンポウは「日本的」とすら錯覚してしまうようなゆったりとした時間の中で、子供の頃みた夕焼けの切なさを思い出させる。幼年期、わけもなく寂しくなったり、理由はわからねど景色が美しく感じられたり恐ろしく感じられたりした、そんな郷愁にも似た感情が喚起された。

モンポウと正反対にデイルは実に豪奢。ヴィオラならではの太い音が6つ重なるとかくも芳醇な響きを奏でるのか。6人でアゴーギグやヴィブラートを思い切りかけるといささか味が濃厚すぎるきらいもあったかもしれないが、「今、ヴィオラの音に浸りきっている」という贅沢な気分にさせられたのはこの作品が本演奏会で一番であったろう。

後半は現代音楽の近作。

ノックス作品は寂しく悲しい『ストレンジャー(見知らぬ人)』の音楽。戦争で負傷した老将校が帰郷すると、そこでは見知らぬ人として扱われるという、悲しいアイルランド民謡『負傷した軽騎兵』を題材とし、ヴィオラ・ダモーレの金属的な音と、ヴィオラの弱音が遠く呼び合うがごとく、あるいは一方が他方の木霊のように、呼応しつつすれ違い、ストレンジャーの孤独を表現する。舞曲風な部分、特殊奏法を使った荒々しい部分もあるのだが、全て虚空に消えていく。静かに終曲した時、会場にはひんやりとした空気がたちこめていた。

一転して西村朗『桜』は本当に桜なのか、桜の下で飲む酒なのかわからないが、「侘び寂びしおり」などとは無縁な猥雑な、されど確かに日本的な、とにかく異常なエネルギーに満ちていた。8つのヴィオラが良く鳴り良く響き良く絡み合う。終盤、おそらく誰もが知っている「さくら」の歌が入ってきたが、全く原曲とは違う印象で、濃い。ディミヌエンドして終曲したものの、いや、これも日本の桜かもしれないが、スゴい桜もあったものだと驚愕した。

ディーン『テスタメント』はベートーヴェンの「ハイリゲンシュタットの遺書(テスタメント)」を巡る物語的構造を持った作品。だが、物語的構造と言っても、短調で悲劇を描き、そこから次第に長調に移っていって大団円を迎える、と言った古びたものでは断じてない。おそらくベートーヴェンの旋律の断片と、特殊奏法の音にならないささやき声、しわがれ声や、松脂をつけないで弓奏しての軋んだ音などがしっかりとコンポジションされ、ベートーヴェンの苦しみと戦いを見事に表現していた。全員で攻撃的なまでに激しく踊り、わめく部分はベートーヴェンの絶望か、それとも新しい音楽への道を見つけた喜びか。最後は不協和音を皆で反復して力強く終曲。実にたくましい音楽であった。

最後はアンコール的なピアソラ。骨太な闘志とメランコリーとダンディズムにグッとくる。これに色々言うのは野暮というものであろう。

「世界一周」はさすがに無理だったものの(イスラーム圏や西域のシルクロード、東アジアやオセアニアなど、世界はもっと広い)しかし、ヴィオラの可能性を切り拓いてくれた意欲的な企画に拍手。

(2019/7/15)

 

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<Pieces&players>

Elizabeth Rennie:The Gathering – An African suite for massed violas in six voices (2009)
 I:Arrival IV:Oliver’s Lullaby V:The afterparty
  Luosha Fang / Ryo Oshima / Elizabeth Rennie / Sejune Kim / Noriko Inoue / Koji Kanada, viola

Darius Milhaud:Quatre Visages pour alto et piano, op.238(1943)
 I:La Californienne II:The Wisconsonian III:La Bruxelloise IV:La Parisienne
  Ryo Oshima, viola / Ryoji Ariyoshi, piano

Federico Mompou (arr.William Vyvyan Murray):Piano selection
 Música Callada 1,3
 Secreto from “Impressions íntimas”
 Prelude no.4
 Cancion y danza no.6
  Nobuko Imai / Luosha Fang / Sejune Kim / Ryo Oshima, viola

Benjamin Dale:Introduction and Andante for six violas, op.5(1911/13)
  Antoine tamestit / Toshihiko Ichitsubo / Nanako Tsuji / Koji Kanada / Yuri Taguchi / Yugo Inoue, viola

Garth Knox:Stranger – For viola and viola d’amore(2013)
  Antoine Tamestit, viola / Garth Knox, viola d’amore

Akira Nishimura:SAKURA for eight violas(2011)
  Nobuko Imai / Luosha Fang / Yugo Inoue / Sejune Kim / Ryo Oshima / Nanako Tsuji / Noriko Inoue / Ryo Sasaki, viola

Brett Dean:Testament – Music for 12 violas(2002)[Japan premier]
  Ryo Sasaki / Nanami Shiokai / Ukyo Fujiwara / Ayaka Ishiwatari / Risa Honda / Megumi Kaimori / Haruna Warabi / Kairi Fuse / Yukino Sato / Hanae Shima / Aika Oshima / Yukino Ohata, viola / Antoine Tamestit, conductor

Astor Piazzolla (arr.Kazuma Miura):Le Grand Tango
  Ryo Sasaki, viola / Yurika Eguchi,cello / Kazuma Miura, bandoneon