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9月の短評|藤堂清

♪リッカルド・ムーティ指揮 《アッティラ》(演奏会形式/字幕付)
♪東京フィルハーモニー交響楽団 9月定期演奏会 ヴェルディ《マクベス》(演奏会形式)

Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)

♪リッカルド・ムーティ指揮 《アッティラ》(演奏会形式/字幕付)→出演
2024年9月14日 東京音楽大学 100周年記念ホール

すごいものを聴いた。
歌劇《アッティラ》はヴェルディの9作目のオペラ。1846年に作曲、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されている。彼の初期の作品である。
リッカルド・ムーティはこのオペラを好んでおり、若いころからたびたび取り上げてきているし、録音も多い。今回は東京・春・音楽祭の「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.4」で彼が指導にあたり、その成果発表として二度のコンサートと若手指揮者によるコンサートが行われた。9月3日から9月16日までのアカデミーで細かいところまでムーティの指導が行き届いていたのだろう、東京春祭オーケストラの演奏は、弱音から強音までまったく緊張感が途切れることなく、歌、合唱と一体となっていた。歌手の充実も驚くべきもの。アッティラのイルダール・アブドラザコフの深々とした声、オダベッラを歌ったアンナ・ピロッツィのダイナミクスの大きな歌い口とコロラトゥーラの見事さ、そして、フォレストのフランチェスコ・メーリのスタイリッシュでメリハリの利いた歌唱。それぞれが、現在考え得る最良のキャストといえるだろう。エツィオのフランチェスコ・ランドルフィは少し弱いと感じられたが、それも他の世界トップレベルの歌手たちと較べるからであって、丁寧に歌っていて瑕にはなっていない。これらを統括するムーティの指揮は曲の細かな表情をまったくごまかしなく描き出していく。そのダイナミクスの大きさは驚くべきもの。グイグイと《アッティラ》の世界に引き入れていく。弛緩するところはまったくなく、あっという間に全曲が終わっていた。
すごいものを聴いた。

♪東京フィルハーモニー交響楽団 9月定期演奏会 ヴェルディ《マクベス》(演奏会形式)→出演
2024年9月19日 東京オペラシティ・コンサートホール

《マクベス》はヴェルディの10作目のオペラ、1847年に作曲、フィレンツェ・ペルゴラ劇場で初演されている。前作の《アッティラ》とは異なり、1865年に改訂を行い、現在ではこちらの版で上演されることがほとんどである。従って初期ヴェルディの作品だが、全体としては中期の作品と共通する部分が多い。
5日前にあまりに強烈なヴェルディ体験をしたことがあり、かなり高い水準の公演であったにもかかわらず、強く心を揺すぶられるには至らなかった。
東京フィルハーモニー交響楽団の名誉音楽監督であるチョン・ミョンフン、彼が指揮するとこのオーケストラは実に引き締まった演奏をする。ムーティの《アッティラ》では、歌手は譜面を置き、指揮者の前に並んで歌ったが、こちらは、演奏会形式と言うものの、オーケストラの前のスペースで演技をしながら歌った。マクベスのセバスティアン・カターナ、マクベス夫人のヴィットリア・イェオ、ともに役は手のうちに入っている状態である。安心して聴いていられるのだが、彼ら以上の歌が考えられないほどの完成度とは言いにくい。カターナには、終幕のアリアで今一つ踏み込んだ思いを歌って欲しかった。イェオは全体にきれいにまとめてはいるのだが、低音域に力が欲しい。バンクォーのアルベルト・ペーゼンドルファーは声の力はあるが、くぐもった響きが気になるところがあった。マクダフを歌ったステファノ・セッコは軽く明るい声で、少し役とは差があるように感じた。このオペラで重要な役を果たす合唱だが、新国立劇場合唱団が充実した歌を聴かせた。魔女の合唱は、歌いながらダイナミックな動きをしてがんばっていた。
この時期(《アッティラ》の直後)に聴いたのでなければ、もっと惹きつけられたことだろう。少し残念な結果となった。

(2024/10/15)

♪リッカルド・ムーティ指揮 《アッティラ》
<出演>
指揮:リッカルド・ムーティ
アッティラ(バス):イルダール・アブドラザコフ
エツィオ(バリトン):フランチェスコ・ランドルフィ
オダベッラ(ソプラノ):アンナ・ピロッツィ
フォレスト(テノール):フランチェスコ・メーリ
ウルディーノ(テノール):大槻孝志
レオーネ(バス・バリトン):水島正樹
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:仲田淳也

♪東京フィルハーモニー交響楽団 9月定期演奏会 ヴェルディ《マクベス》
<出演>
指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
マクベス:セバスティアン・カターナ
マクベス夫人:ヴィットリア・イェオ
バンクォー:アルベルト・ペーゼンドルファー
マクダフ:ステファノ・セッコ
マルコム:小原啓楼
侍女:但馬由香
医者:伊藤貴之
マクベスの従者、刺客、伝令:市川宥一郎
第一の幻影:山本竜介
第二の幻影:北原瑠美
第三の幻影:吉田桃子
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平