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読売日本交響楽団 第632回定期演奏会 |藤堂清

読売日本交響楽団 第632回定期演奏会 
Yomiuri Nippon Symphony Orchestra 632nd Subscription Concert 

2023年10月17日サントリーホール 
2023/10/17 Suntory Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by ©読売日本交響楽団/撮影:藤本崇 

<演奏>         →Foreign Languages
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ピアノ=ルーカス・ゲニューシャス*
ソプラノ=アンナ・ガブラー**
メゾ・ソプラノ=クリスタ・マイヤー**
バリトン=ディートリヒ・ヘンシェル**
バス=ファルク・シュトルックマン**
合唱=新国立劇場合唱団**
合唱指揮=冨平恭平**

<曲目>
ヒンデミット:主題と変奏 「4つの気質」*
(ソリスト・アンコール)
ゴドフスキー:トリアコンタメロン 第11番「なつかしきウィーン」*
アイスラー:ドイツ交響曲 作品50(日本初演)**

 

ハンス・アイスラーの《ドイツ交響曲》の日本初演が行われた。
指揮者セバスティアン・ヴァイグレの強い希望で実現したプログラムというが、それがよくわかる充実した演奏であった。4人の独唱者すべてが歌詞の細かなニュアンスをしっかりと表現する。合唱もよく整えられており、どの曲もバランスが取れた演奏であった。そしてオーケストラも細部にいたるまで見事な音を聴かせてくれた。作品の持つ力を余すところなく引き出していたと評価できる。

作曲者のアイスラーは、ユダヤ人かつ共産主義者ということで、ナチが政権をとると追われる立場となり、ヨーロッパを転々とした後、1938年にアメリカ合衆国に亡命した。1935年から書き始められ、最終的には1959年ベルリンで初演されたのがこの曲である。彼はその間、第2次世界大戦後の1948年には赤狩りによりアメリカ合衆国を追われ、ドイツ民主共和国(東ドイツ)に落ち着いていた。

曲は11楽章からなり、ベルトルト・ブレヒトの詩を中核に付曲された8楽章と器楽のみの3楽章で構成される。抑圧された者たちと階級闘争の指導者らのことを、激烈な言葉で歌いあげる。
第1楽章〈前奏曲〉では、ソプラノと合唱の「おお、ドイツよ、蒼ざめた母よ」という言葉が強く印象づけられる。短い登場であるが、アンナ・ガブラーも存在感十分。
第2楽章〈強制収容所の闘士たち〉は、メゾ・ソプラノと合唱による。「いなくなってなお忘却されない」「打ちのめされても、思想をゆるがさない」闘士たちを歌う。クリスタ・マイヤーの厚みのある低音は歌詞に合致。
第3楽章は〈オーケストラのためのエチュード〉というオーケストラだけの楽章。
第4楽章〈回想(ポツダム)〉は、祖国という名のもとに戦死した者の棺の葬列がポツダムを進む。それをデモとみなして警察が叩き潰す。バリトンと合唱による歌唱。ディートリヒ・ヘンシェルのリート歌手らしい言葉さばきが説得力を持つ。
第5楽章〈ゾンネンブルクで〉では、メゾ・ソプラノとバリトンが交替で歌う。ゾンネンブルク強制収容所の苛酷な状況が描かれる。
第6楽章はオーケストラだけによる〈間奏曲〉。
第7楽章〈鉛の棺に収められた扇動者の埋葬〉。「労働者こそが権力を握らなければいけない」と訴えたものは扇動者として埋められる。メゾ・ソプラノ、バス、合唱による歌。ファルク・シュトルックマン、65歳という年齢を感じさせないしっかりした歌唱。
第8楽章は〈農民カンタータ〉、4つの部分、「不作」、「安全」、「ささやき声の会話(メロドラマ)」、「農民の歌」からなる。バスと合唱による歌だが、3番目は合唱を背景に会話がかわされる形式。
第9楽章〈労働者カンタータ〉はメゾ・ソプラノ、バリトン、そして合唱による長大な楽章。労働者の位置づけと「階級の敵」について歌われる。ワイマール共和国の実態をナチの本質を訴える。
第10楽章は〈オーケストラのためのアレグロ〉と名付けられた器楽のみの楽章。
第11楽章〈エピローグ〉では、ソプラノと合唱により「私たちの息子たちを見て」と歌われる。

1930年代という時代を背景としナチの圧政のもとでの作品ではあるが、現在のパレスチナ、ウクライナでも通じる状況はあるだろう。意義のある初演が充実した演奏であったことを喜びたい。

前半に演奏されたヒンデミットの《主題と変奏 「4つの気質」》はピアノと小編成の弦楽合奏のための曲。独奏のルーカス・ゲニューシャスが瑞々しく、また弦楽との対話も見事。

関連評:読売日本交響楽団 第632回定期演奏会|田中 里奈

(2023/11/15)

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<Players>
Conductor= SEBASTIAN WEIGLE
Piano= LUKAS GENIUŠAS
Soprano= ANNA GABLER
Mezzo Soprano= CHRISTA MAYER
Baritone= DIETRICH HENSCHEL
Bass= FALK STRUCKMANN
Chorus= New National Theatre Chorus (Chorusmaster=KYOHEI TOMIHIRA)

<Program>
HINDEMITH: Theme and Variations “The Four Temperaments”
(solist encore)
  L.Godowsky: Alt Wien, Triakontameron
EISLER: Deutsche Sinfonie, op.50 (Japan Premiere)