Pick Up (2023/10/15)|ラ・フォンテヴェルデ 第34回定期演奏会 音楽風刺劇オスペダーレ|大河内文恵
ラ・フォンテヴェルデ 第34回定期演奏会 音楽風刺劇オスペダーレ(演奏会形式)
La Fonteverde 34th Subscription Concert Dramma Burlesco L’Ospedale
2023年9月8日 Hakuju Hall
2023/9/8 Hakuju Hall
Text by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
撮影・写真提供/Promusica continuo Co. Ltd
<出演> →foreign language
恋わずらい:染谷熱子
愚か者:上杉清仁
官吏:中嶋克彦
貧者:谷口洋介
外国人:鈴木美登里
医者:小笠原美敬
バロック・ハープ:伊藤美恵
チェロ:鈴木秀美
チェンバロ:上尾直毅
口上訳:新太シュン
楽譜校訂・翻訳・解説:松本直美
「音楽学ってなんか難しそう」とこれまで思っていた人も、「こんなに面白いオペラを発掘してくれるならアリかも?!」と宗旨替えしたのではないだろうか? 本公演は、ロンドン在住の音楽学者である松本直美氏が長年写本の中で眠っていたこの作品を、昨年批判校訂譜として出版したことに端を発している。すでにロンドンでは2団体が上演したそうだが、本邦では初演である。
上演に先立って、松本氏の講演がおこなわれた。《オスペダーレ》と出会ったきっかけから始まり、当時のイタリアの音楽事情の解説を経て、ではいったい誰が作曲したのか(写本には作曲者の名前はない)という探索の話、パンフレットのプログラム・ノートと重複する内容もあったが、ユーモアを交えつつ語られ、上演前のワクワク感が増す。とはいえこの時点では、松本氏の語る「どれもいい曲なんです!」という言葉の真の意味を誰も理解できていなかっただろう。
このオペラの出版台本に付加された前口上と後口上については、本日は俳優の新太シュンが担当した。新太が出てきた瞬間から、皆の目と耳は舞台上に釘付けになった。台詞は出版台本そのままで書き換えていないそうだが、いやいや17世紀って今と全然変わらなかったの?と思えるほど、リアルである。結構な長さの前口上の間、場面は次々に展開していくし、語り手の性格もどんどん変わっていく。前口上が終わった時点で、今日のチケット代の元は取れたと思ったのは筆者だけではあるまい。
音楽風刺劇と題されたこのオペラは、現代でいうところの病院にあたる「オスペダーレ」が舞台で、医者の前に次々と患者があらわれ治療されていくことでストーリーが進む。本篇は、ラ・フォンテヴェルデの各メンバーの歌だけでないポテンシャルが遺憾なく発揮され、一瞬落語に来ているのかと思うほどだった。恋わずらい、官吏、愚か者、貧者と4人の患者がいずれも「それ、病院に行って治るもの?」と思えるような属性なのだが、それに対する医者の処方も桁外れにズレていて可笑しい。
演奏会形式だったため、大きなセット等はなく、椅子が4脚置かれているだけの簡素なものだったが、衣装は一人一人役柄にぴったりのものを身に着け、小道具まで飛び出した。
ところどころモンテヴェルディを思わせるような曲調だったり、マドリガーレっぽかったりと音楽の特徴を的確に表現しながら、笑わせるのだから、自分でも感動しているのか笑っているのかわけがわからなくなる。
バロック・ハープとチェロ、チェンバロと通奏低音のみの器楽伴奏が、これまた多彩で、歌をしっかり支えるだけでなく、こちらも隙あらば笑いを取りに来る。
上演時間は正味1時間ほどだったが、充実の時間だった。17世紀のしかも誰が作ったのかもわからないオペラで楽しめるのだろうか?と思っていたのは全くの杞憂だった。このオペラを見つけて世に出した松本氏と、それをこうした形で目で見て、耳で聴ける形にしてくれた本日の公演メンバー全員に感謝したい。音楽は音にしてみて初めてその存在が明らかになるという、言葉にすれば陳腐で当たり前なことが実感できた時間だった。
(2023/10/15)
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<performers & staff>
Innamorato: Netsuko SOMEYA
Matto: Sumihito UESUGI
Cortigiano: Katsuhiko NAKASHIMA
Povero: Yosuke TANIGUCHI
Forestiero: Midori SUZUKI
Medico: Yoshitaka OGASAWARA
Chorus: Shun ARATA
Baroque Harp: Mie ITO
Violloncello: Hidemi SUZUKI
Cembalo: Naoki UEO