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東京二期会 リヒャルト・シュトラウス:《平和の日》|藤堂清

《二期会創立70周年記念公演》
東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
リヒャルト・シュトラウス:《平和の日》<日本初演/セミ・ステージ形式上演>
オペラ全1幕日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
Tokyo Nikikai Concertante Series
Richard Strauss: FRIEDENSTAG (Japan Premiere)
Opera in one act (Semi stage style)
Sung in the original language (German) with Japanese supertitles

2023年4月8日 Bunkamura オーチャードホール
2023/4/8 Bunkamura Orchard Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀衛/写真提供:公益財団法人東京二期会

<出演>        →foreign language
スタッフ

指揮: 準・メルクル
音楽アシスタント: 石坂 宏
舞台構成: 太田麻衣子
映像: 栗山聡之
照明: 八木麻紀
合唱指揮: 大島義彰
舞台監督: 幸泉浩司
公演監督: 佐々木典子
公演監督補: 大野徹也

キャスト

包囲された街の司令官:清水勇磨
マリア その妻:中村真紀
衛兵:北川辰彦
狙撃兵:高野二郎
砲兵:髙田智士
マスケット銃兵:松井永太郎
ラッパ手:倉本晋児
士官:石崎秀和
前線の士官:的場正剛
ピエモンテ人:前川健生
ホルシュタイン人 包囲軍司令官:河野鉄平
市長:伊藤達人
司教:堺 裕馬
女性の市民:石野真帆

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

なかなか聴くことができないこのオペラの実演を味わうことができ、多いに楽しませてもらった。

《平和の日》はリヒャルト・シュトラウスのオペラの中でも演奏機会の少ないものの一つ。《無口な女》と《ダフネ》の間に位置するシュトラウスの後期のオペラであり、音楽的な充実を考えると不思議な印象。ヨーゼフ・グレゴールの台本により1936年に完成、1938年にミュンヘンでクレメンス・クラウスの指揮で初演された。反戦的な内容を含んでいる作品にもかかわらず、1940年までのナチス政権時代には上演が重ねられた。しかしそれが災いしたのか、戦後には極端に演奏機会が減ってしまっている。日本では今回が初演である。

オペラは、17世紀半ばのドイツ、三十年戦争が終盤に差し掛かったころのカトリックの街が舞台。プロテスタント軍に長く包囲され、市民も城塞を守る兵士も飢餓状態。冒頭、衛兵と狙撃兵らが戦争と籠城の現状について対話していると、ピエモンテ人の若者がイタリア語で平和な故郷やそこの娘のことを歌う。色合いの異なる音楽が加わることでドラマに奥行きが生まれる。
街の市民は困窮の極限に追い詰められており、市長、司教、代表者が、城門を開け降伏するよう司令官に懇願する。司令官は皇帝からの親書に従い最後まで街を守り抜くと、聞き入れない。城塞と街を爆破しそれと運命をともにしようする司令官は、市民らに昼までに開門の合図をすると言い、彼らの要求を受け入れたように見せる。兵士たちに街を破壊する決意を歌う司令官、みながその準備に移った後、マリアが登場し戦争のない時代を望み歌う。戻った司令官との長大な二重唱、二人の思いはすれ違ったまま。
大砲の音が響き、最後の戦いが始まったと思った司令官、だが攻めてくる様子は見られない。突然、各地の教会の鐘がいっせいに鳴り響く。そして敵兵は白旗を掲げ、武器に花をさして近づいてくる。市長、司教らが戻ってきて、停戦が実現したことが知らされる。ホルシュタイン人の包囲軍司令官の登場でも停戦を信じようとしなかった司令官だが、マリアの説得にようやく受け入れる。平和を称賛する合唱で幕となる。

今回はセミステージ形式の上演ということで、ステージの前面の狭い空間に簡易な舞台装置を設置し、そこで演技を付けて歌う。したがってソリストは暗譜での歌唱。合唱はステージ後方の紗幕の後に立つ。紗幕は映像の投影にも使われ、場面の状況を表すために利用され、効果をあげた。

演奏面でまずあげるべきは、指揮の準・メルクルと東京フィルハーモニー交響楽団。冒頭の場面での色合いの変化の付け方、人々の懇願とそれを拒絶する司令官の場面の緊迫感などオーケストラが中核を担っていた。
司令官の街を破壊する決意を歌う場面、続くマリアが登場し戦争のない時代を望む場面、そして二重唱。ここではこの両者に少し力みがあった。清水勇磨、中村真紀の二人とも厚みのある声を持っており、十分に説得力のある歌であったが、無理して張り上げていると感じられるところがあったのは残念。たしかにオーケストラが雄弁に歌うところであり、それを越えようと意識したのだろう。オーケストラがピットに入らず、ステージ上で演奏していることも歌手にとっては不利な条件。
皆が平和を称賛する音楽は、オペラというより宗教的なオラトリオといった趣。ソリストが正装で並んで歌ったのも、映像で次々と様々な言語の「平和」を表す単語を飛ばしていったのも、納得できるアイデア。
他のソリストでは、ピエモンテ人の前川健生の明るい声、市長の伊藤達人のしっかりと通る声、包囲軍司令官の河野鉄平のキッチリした型のある歌が印象的であった。

(2023/5/15)

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<PERFORMERS>
STAFF

Conductor: Jun MÄRKL
Music Assistant: Hiroshi ISHIZAKA
Stage Planner: Maiko OTA
Lighting Designer: Maki YAGI
Video Designer: Satoshi KURIYAMA
Chorus Master: Yoshiaki OSHIMA
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
Associate Production Director: Tetsuya ONO

CAST

Kommandant der Stadt: Yuma SHIMIZU
Maria, sein Weib: Maki NAKAMURA
Wachtmeister: Tatsuhiko KITAGAWA
Schütze: Jiro TAKANO
Konstabel: Satoshi TAKADA
Musketier: Eitaro MATSUI
Hornist: Shinji KURAMOTO
Offizier: Hidekazu ISHIZAKI
Frontoffizier : Masataka MATOBA
Ein Piemonteser: Kensho MAEKAWA
Der Holsteiner: Teppei KONO
Bürgermeister : Tatsundo ITO
Prälat: Yuma SAKAI
Frau aus dem Volk: Maho ISHINO

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra