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新演コンサート/株式会社カモシタピアノ
Text by 鴨下ゆかり(Yukari Kamoshita)
『良い音と良い音楽をたくさんの方にお届けする』という目標を掲げて活動している㈱カモシタピアノが創業したのは、2020年7月、正に新型コロナウィルスパンデミックの渦中でした。はじめは東京の新宿御苑前で輸入ピアノ専門の販売店「輸入ピアノ.com」として開業しましたが、ご縁があって2021年1月から、クラシック音楽のコンサートマネジメントとして歴史のある「新演奏家協会(新演)」のメンバーが加わり「新演コンサート」として、マネジメント部門を始動しました。まだ、創業して半年と間もない上にコロナ禍でコンサートビジネス・音楽ビジネスが大打撃を受ける中、私の周囲の人達は「なぜそんなリスクを冒すのか?やめた方がいい」と会社の将来を案じてアドバイス下さる方がほとんどでした。確かに、目の前で起きている状況からは業界の先の見通しも見えず、自分一人ではなくスタッフの生活を守る事を考えると勇気のいる事だったのかもしれません。
コンサートマネジメント部門を始動した当初数カ月は緊急事態宣言が解除されてはまた発令、そして期間の延長と共に予定していたコンサートも延期になるなど、出だしから厳しい状況だった事は周知のとおりです。3月に入り初めて東京オペラシティのリサイタルホールで「梅津三知代ハープリサイタル」を開催することが出来た時には、感染症対策で緊張感漂う中にも久しぶりにホールでコンサートを楽しんだというお客様方の表情を垣間見ることが出来、少し安堵しました。私にとっては、プロフェッショナルなコンサートマネジメントの舞台裏の全てが興味深くあっという間に時間が過ぎましたが、アーティストやスタッフは過去に体験したことの無いような気持ちだったのだと思います。久しぶりの現場を終えたスタッフの笑顔がとても印象に残っています。
私は音楽大学卒業後、演奏活動と学校教員やピアノ講師をしておりましたが、海外でほぼ壊れた状態のピアノしか無い地域でピアノ指導を行ったことをきっかけに、ピアノ修理・調律の道へ進みました。「良い音楽」を伝えるためには、「良い音」が無いといけない。その為には「良い音」を保つためにメンテナンスをする人材が不可欠と単純に思ったからです。長年ピアノと共に歩んできたつもりでしたが、修理・調律の世界は初めて知る事ばかりで、朝から深夜まで工房で埃まみれの生活をしばらく続けました。
その後、現在の会社の前身である会社へ転職し輸入ピアノ販売に携わるようになったのですが、この世界も知らなかったことばかりで、ピアノのメーカーがこんなにたくさんあったのかと、目から鱗の日々でした。100年近く前に製造されたピアノが、オーバーホールをして活き活きと音楽を奏でられるようになることにも感動しました。楽器にメンテナンスを施し最高の状態にしたとしても、その楽器の魅力を充分に引き出すことが出来なければ、ただの置物です。そこで、アーティストを招いてピアノを奏でてもらおうとサロンコンサートを企画しました。「サンデーモーニングコンサート」シリーズでは、若い学生アーティストに演奏をしていただきました。若さ溢れる演奏は、その先の彼らの人生と共にどう変化していくのだろうか、という期待も含まれているのが魅力で、彼らが将来活躍できる場を作り続けたいと思った事が「新演コンサート」を始めた原動力となっている気がします。
2022年9月には「ベルリン便り~メンデルスゾーンが聴きたい~」というタイトルで石原悠企(Vn.)藤原秀章(Vc.)野上真梨子(Pf.)の若手アーティスト3氏を招いて、新演コンサート初企画のコンサートを開催しました。ライブ動画配信も行う等、弊社にとっては実験的な試みでした。興行という視点から考えると決して大成功とは言えませんでしたが、3氏のエネルギーに満ち溢れた演奏が次なる期待を聴衆に植え付けたという事がお客様アンケートから読み取ることが出来、それは成果だったと思います。
実は、コロナ禍でコンサート業界は大打撃を受けてはいましたが、楽器業界はさほど影響は受けていませんでした。むしろ業績を伸ばしたところもありました。ピアノの業界も在宅時間が増えたことによる「巣ごもり需要」で、ネットで気軽に購入できる電子ピアノの売上が伸び、もともと電子ピアノを持っていた人が、アコースティックピアノへの買い替えをし、家にほったらかしにされていたアコースティックピアノを修理・調整して弾こうという人が増えた為、今も各地の修理工房は大忙しです。
それは、海外でも同じで、弊社が正規輸入代理店を務める Steingraeber & Söhne 社からは、過去最高益のニュースと共に「我々は新型コロナウィルスに勝利した。音楽は何事にも屈しない」という強いメッセージが届きました。個人レベルで楽器演奏の機会が増えているという事は、憧れとなる演奏を聴きたいと思う人口も増えているはずで、この一連の流れは確実にコロナ収束後のコンサート業界への種まきになっていると感じ、とても勇気づけられています。
実際にピアノ屋にお越しになるお客様と話をしていると、コロナ禍以降は動画コンテンツから「良い音楽」「良い音」の情報を得られている方がとても多いと感じています。皆さん親切におすすめの動画を教えて下さったり、お店で一緒に視聴することも多々あります。アーティストによる演奏動画もかなり増えました。特に、国際音楽コンクールのライブ配信が行われたことは、お客様の共通の話題になっており、音楽業界にとってはとても画期的な出来ごとだったのではないでしょうか。
コンサート業界の冬の時代に生まれ変わった「新演コンサート」も3年目に入りました。統計的にはまだクラシックのライブコンサートの動員数は、以前のようには戻っていませんが、満席になるコンサートはクラシック音楽界でもあると聞きます。
お客様が戻らないのであれば、お客様を作れば良いと思っています。『良い音と良い音楽をたくさんの方にお届けする』とは、若い世代のアーティスト達がこの先息の長い活動が出来るよう音楽の土壌を作り、耕し、種を撒く地道な活動だと思っています。これからもたくさんの方にクラシック音楽をより身近に感じてもらえるよう頑張らねば、と、様々な時代を潜り抜け今お店に鎮座するピアノ達を眺めながら考えています。
鴨下ゆかり(Yukari Kamoshita)
株式会社カモシタピアノ 代表取締役
(2023/1/15)
【公演情報】
★佐渡建洋(さどたけひろ) 室内楽シリーズVol.1 ~道~
2023年3月4日(土)14:00開演
東京オペラシティリサイタルホール
ヴァイオリン=山本美樹子
チェロ=佐古健一
ピアノ=佐渡建洋
〈曲目〉
ハイドン:ピアノ三重奏曲 第38番 ニ長調
ピアノ三重奏曲 第39番 ト長調 「ジプシー」
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調 作品97 「大公」
〈後援〉東京藝術大学音楽学部同声会/東京藝術大学音楽学部同声会 東京支部
〈マネジメント・ご予約・お問合せ〉新演コンサート 03-6384-2498
http://www.shin-en.jp/schedule20230304
〈東京音楽コンクール入賞者リサイタル〉
★丸山晟民(まるやまあきひと)ピアノ・リサイタル
2023年3月12日(日)14:00開演
東京文化会館小ホール
〈曲目〉ショパン:24の前奏曲 作品28
ラモー:ガヴォットと6つのドゥーブル
ラヴェル:クープランの墓
〈主催〉丸山晟民ピアノ・リサイタル実行委員会
〈共催〉公益財団法人東京都歴史文化財団 東京文化会館
〈後援〉一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
〈協賛〉株式会社カモシタピアノ
〈マネジメント・ご予約・お問合せ〉新演コンサート 03-6384-2498
https://www.t-bunka.jp/stage/17114/