グルック:《オルフェオとエウリディーチェ》新国立劇場|藤堂清
クリストフ・ヴィリバルト・グルック:オルフェオとエウリディーチェ<新制作>
オペラ全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
Christoph Willibald von Gluck : Orfeo ed Euridice
Opera in 3 Acts, Sung in Italian with English and Japanese surtitles
2022年5月19日 新国立劇場 オペラパレス
2022/5/19 New National Theatre, Tokyo, OPERA PALACE
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)
<スタッフ> →foreign language
【指揮】鈴木優人
【演出・振付・美術・衣裳・照明】勅使川原三郎
【アーティスティックコラボレーター】佐東利穂子
【舞台監督】髙橋尚史
<キャスト>
【エウリディーチェ】ヴァルダ・ウィルソン
【オルフェオ】ローレンス・ザッゾ
【アモーレ】三宅理恵
【ダンス】佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ、高橋慈生、佐藤静佳
【合唱指揮】冨平恭平
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
大きな円盤が舞台に置かれ、その中央のエウリディーチェの墓の上に花が積まれている。彼女の死を悼む合唱をひきさくように「エウリディーチェ」と叫ぶオルフェオ。その悲痛な声が心をえぐる。
グルックのこのオペラには、1762年にウィーンで初演されたイタリア語版と1774年にパリで初演されたフランス語版がある。前者では主役のオルフェオをアルト・カストラートが、後者ではオート・コントル(高い声の男声)が歌う。今回の上演はオリジナルのイタリア語版によるものだが、第2幕にフランス語版からの舞曲を加え、またイタリア語版の舞曲の位置も一部移動していた。
今回はカウンターテナーのローレンス・ザッゾが主役。彼はこの声種としては声量があり、ダイナミクスに不足はない。アルトが歌うこともあるが、舞台姿や声質の点で、男性が歌うメリットは大きい。その他は、ソプラノのヴァルダ・ウィルソンのエウリディーチェ、三宅理恵のアモーレという配役。
舞台の背景に大きなユリの花。場面により、白く咲き、あるいは茶色く枯れる。照明の変化でそれが強調される。合唱は舞台の円盤の外側、照明のあたらないところに整列し歌う。コロナ対策のガイドラインを守ってという側面もあろうが、黒ずくめの衣装でギリシャ劇のコロスのような役割と見え、聴けた。
中央の円盤で歌手が歌い、演技し、そのまわりに花を配した簡潔な勅使川原の演出は単純でありながら美しい。オペラを見るとき、演出の細部まで見逃すまいと、舞台の端の方まで目を向けることも多い。今回のように見るべきものが中心にあるという舞台設定、実にすがすがしい。
演出家が勅使川原三郎ということから予想されることだが、ダンスはこのプロダクションの重要な要素である。オルフェオ等の気持ちを代弁するかのように前面で踊るアレクサンドル・リアブコと佐東利穂子の手足の動き、音楽にピタリと合い説得力がある。
歌手の点では、ほとんど舞台にいて歌いつづけたザッゾが名声にふさわしい歌を聴かせた。第1幕第1場でのアリアでの気持ちの高まりと続くレチタティーヴォの怒りの表現、第2幕の復讐の女神を説得する歌での切々とした訴え。第3幕の有名なアリアはもちろん素晴らしい歌であったが、その前のエウリディーチェを必死に説得する場面での苦悩の表情は見事なもの。この二人のやり取りの相手となったヴァルダ・ウィルソンもヴィブラートが少ない厚みのある声で、アリアやレチタティーヴォで対峙した。アモーレの三宅はヴォリュームの点では差があるものの透明感のある声で要求される高音をしっかりこなしていた。
合唱は歌うときの配置による可能性はあるが、もう一段の俊敏さを求めたいところであった。
オーケストラは指揮の鈴木優人の古楽的なアプローチに十分対応しきれなかった。シャリュモーやコルネットのような時代楽器を加えてはいたが、基本編成は小規模(8型)な現代の管弦楽団、響きを作りきれない部分が感じられた。
多少の弱点はあったが、全体としてみるべきところ、聴くべきものはあり、よいプロダクション。公演回数が3回と少なかったのは残念であった。
(2022/6/15)
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CREATIVE TEAM
Conductor: SUZUKI Masato
Production, Choreography, Set, Costume and Lighting Design: TESHIGAWARA Saburo
Artistic Collaborator: SATO Rihoko
CAST
Euridice: Valda WILSON
Orfeo: Lawrence ZAZZO
Amore: MIYAKE Rie
Dance: SATO Rihoko, Alexandre RIABKO, TAKAHASHI Joe, SATO Shizuka
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra