Menu

Absolute – MIX Presents 2021 Electro – Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に minimalism – hybrid sound program B|齋藤俊夫

Absolute – MIX Presents 2021 Electro – Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に minimalism – hybrid sound program B Electro – Acoustic Music Collection
Absolute – MIX Presents 2021 Electro – Acoustic Music, Focusing on Hirokazu Hiraishi’s Music, minimalism – hybrid sound program B Electro – Acoustic Music Collection

2021年12月10日 彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
2021/12/10 Saitama Arts Theatre Music Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by Kazue Yokoi/写真提供:Absolute-MIX 実行委員会

 

<曲目・演奏>        →foreign language
フィリップ・グラス:『Strung Out』アンプリファイされたヴィオラのために(1967)
  ヴィオラ:甲斐史子
『平石博一のエレクトロニック・ミュージック作品』
  DJ Yazawa
 平石博一、矢沢朋子共作『Far away from here』ピアノとエレクトロニクスのために(2001)
  ピアノ:矢沢朋子
 平石博一『Walk Man』ピアノとエレクトロニクスのために(1999)
  ピアノ:矢沢朋子
菅谷昌弘、矢沢朋子共作:『Gyration』ピアノとエレクトロニクスのために(2001)
  ピアノ:矢沢朋子
キャロリン・ヤーネル:『Love God』ピアノとエレクトロニクスのために(2010)
  ピアノ:矢沢朋子
平石博一:『シャルロット すさび』ピアノとエレクトロニクスのために(Absolute-MIX 委嘱作品、世界初演)
  ピアノ:矢沢朋子
トニー・プラボウ:『Commonality』ヴィオラとエレクトロニクスのために(1998)
  ヴィオラ:甲斐史子
トニー・プラボウ:『The Funeral Pyre』ヴィオラ、声とエレクトロニクスのために(2000)
  ヴィオラ:甲斐史子、ソプラノ:太田真紀
ヨハン・ヨハンソン:『Untitled』ピアノとエレクトロニクスのために(2010)
  ピアノ:矢沢朋子

 

まずはフィリップ・グラス『Strung Out』、うん、グラスだ。いかにもグラスって感じのミニマル・ミュージックだ。PAで会場全体に響き渡るヴィオラのパターン反復と、パターンのフェイズ・シフトにただ身を委ねるだけで良い。気持ち良いが、いささか知に訴えるところは少ない。だが、これから楽しいエレクトロニック・ミュージック作品の連続だ!という開幕を告げるには最適な選曲。

『平石博一のエレクトロニック・ミュージック作品』は矢沢朋子が「DJ Yazawa」としてパフォーマンスするという趣向……と書いているが、実は筆者は「DJ」という仕事はターンテーブルを使って色々して場を作る人、と漠然としか知らず、ターンテーブルでDJは何をどうしているのかわからない。それゆえ聴いた音楽のどこの何がDJ Yazawaの仕事なのかはわからないままで書かざるを得ない。さらに、今回矢沢朋子はDJ Yazawaとしての仕事と、『Far away from here』『Walk Man』のピアノ演奏を連続して行ったのだが、どこからどこまでがこれらピアノ&エレクトロニクス曲2作品だったのか正確に把握出来なかったことも正直に述べておきたい。

言い訳はここまでにして、DJ Yazawaによる平石博一のエレクトロニック・ミュージックは……いや、なんというか、現代音楽畑の筆者にはこれを形容する語彙があまりにも少ないが、素晴らしく見晴らしが良い、澄んで整然とした音空間が幾層にも重なり合って、またその層の上下関係(または前後関係)が目まぐるしく変化する。感覚としてはバッハの『音楽の捧げもの』や『フーガの技法』における対位法の声部の多層構造にも似ている。構造と同程度に重要なのは音色で、いかにも電子音といった音色から、金属打楽器やヴォカリーズに似た(あるいは実際にそれらをサンプリングした)音色まで、多種多様な音色が現れる。さらに音の位置パラメータがグルグルと動き回り、祝祭的華やかさで会場を彩る。だが音が熱くなることはなく、常に冷たさ(クールさ)を保ち続けていた。
エレクトロニック・ミュージックの中、矢沢が弾いたキーボードでの『Far away from here』(これは平石と矢沢の共作)、『Walk Man』もまたクール。大量の電子音の渦の中で生演奏を繰り広げるというのは、これもクラシック畑の語彙ながら、協奏曲におけるオーケストラの中のソリストのようだった。電子の雲の中からスパッと光る稲妻のようにピアノの音が耳に届くのが実に爽快。脳を切り刻むようで、しかし全く痛くない平石&Yazawaの音楽にしびれる数十分間であった。

菅谷昌弘・矢沢朋子『Gyration』、電子音による軽めの砂嵐が変容していく中、ピアノが独り高音・高速のパッセージを空間に散りばめていき、ビートが音の大地を形成する。音楽のジャンルとしてはエレクトロニカであろうか。いや、この際ジャンルにこだわるのは野暮と言うものだろう。心地よい刺激の中、ピアノが下降していき、最低音域で消えゆく。電子音も消えていき、終曲。

キャロリン・ヤーネル『Love God』は、ピアノが低音を強打反復したり、電子音も不穏に乱れ踊るような超高音や超低音が響くなど、先の菅谷のエレクトロニカ作品よりもずっと音が重く、厳しい。ヤーネル作詞の『Love God』の歌を矢沢が弾き語りしたのだが、どうやら「愛の神はもう死んでしまった、復活することはない」といった悲しい歌のようでもあり、ここにきてぐっと〈現代音楽〉寄りの、渋い作品に心打たれた。

休憩挟んで、平石博一『シャルロット すさび』は、故岩名雅記監督の同名映画のテーマ曲を作曲家自身が編曲したもの。エレクトロニクスの持続音の中でピアノが空間にトン、トン、と音を置いていく。音は明るいが、光が刺すと同時に影も落ちていく感触がある。最後はエレクトロニクス、ピアノ、共に天に向かって昇華していった。

インドネシアの作曲家トニー・プラボウのエレクトロ・アコースティック音楽『Commonality』、音が漸次的に変色していくが透明なエレクトロニクスのドローンの中で、ヴィオラが重く不透明な、民俗的な香りのするフレーズを奏でる。ヴィオラはある時は叫ぶように、ある時は痙攣的に、苦しみ、痛み、怒りを表出するが、エレクトロニクスのドローンからはそのような感情は聴こえてこない。人間的なヴィオラと、人間性などとは無縁なエレクトロニクスはすれ違っただけだったのか、あるいは2人(?)は向かい合ったのかはわからないが、最後はエレクトロニクスとヴィオラが共に上昇して消えゆく。聴いていて、言語は伴わない作品だったが、もしかすると政治的ですらある重い問いかけが心に残る作品であった。

同じくトニー・プラボウ『The Funeral Pyre』は低・中・高のドローンが変色しつつ音響の場を作る中、ソプラノとヴィオラが東南アジア的な、神秘的・秘教的な音楽を展開する。驚くべきは甲斐史子と太田真紀の引き出しの多さで、2001年9月11日を予言したかのような歌詞(本作は2000年作)が彼女らの東南アジア的ヴィブラート、発声・発音法により神妙極まりない音楽を作り出していた。

ヨハン・ヨハンソン『Untitled』は、ポスト・クラシカルに典型的な弱音・反復・余韻嫋嫋の作品で、筆者はこの手の音楽はいつもなら避けるのだが、今回のコンサートの最後に聴くと、悪くないと感じてしまった。矢沢のピアノが叙情に流されずにハッキリと物を言う音楽だったから、だろうか。長い演奏会の最後にふうっと深呼吸することができた。

しかし、主催やマネジメントは痛感しているであろうから筆者が言うべきことではないのかもしれないが、演奏会場に彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールを選んだことは残念であった。会場の大きさに対して聴衆があまりにも少なかったのである。選曲も演奏も素晴らしかったが、それゆえ、会場選定が悔やまれる。

(2022/1/15)

—————————————
<Pieces&Players>
Philip Glass : Strung Out for Amplified Viola
  Viola: Fumiko Kai
Electronic Music Works by Hirokazu Hiraishi
  DJ Yazawa
 Co-written by Hirokazu Hiraishi & Tomoko Yazawa: Far away from here for Piano & Electronics
  Piano: Tomoko Yazawa
 Hirokazu Hiraishi : Walk Man for Piano & Electronics
  Piano: Tomoko Yazawa
Co-written by Masahiro Sugaya & Tomoko Yazawa: Gyration for Piano & Electronics
  Piano : Tomoko Yazawa
Carolyn Yarnell  : Love God for Piano & Electronics
  Piano : Tomoko Yazawa
Hirokazu Hiraishi : CHARLOTTE-SUSABI for Piano & Electronics(World Premier)
  Piano : Tomoko Yazawa
Tony Prabow : Commonality for Viola & Electronics
  Viola: Fumiko Kai,
Tony Prabow : The Funeral Pyre for Viola, Voice & Electronics
  Voice : Maki Ota, Viola : Fumiko Kai
Johann Johansson : Untitled for Piano & Electronics
  Piano: Tomoko Yazawa