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2021年 第7回年間企画賞

Mercure des Artsは執筆陣による選考の結果、2021年(2020年11月1日〜2021年10月31日までの公演)の年間企画賞1〜3位を選出し、ここに発表いたします。

コロナ禍にありながら、獅子奮迅のご努力でステージを企画・上演なさった全ての関係者の方々に改めて敬意を表します。
今回は現代音楽関連公演が並びましたが、『アントニオ・カルダーラ生誕350年記念《オリンピーアデ》と器楽作品』、新作能『長崎の聖母』が次点であったこともお知らせいたします。なお、昨年度に続き神奈川県立音楽堂が1位受賞となりましたが、圧倒的多数の票を集めたこともあわせてご報告いたします。また、地方公演や演劇公演への票が反映されにくい点につき、今後の課題としたいと考えています。

【1位】
ブルーノ・ジネール 《シャルリー ~茶色の朝》
2021年10月30,31日 神奈川県立音楽堂

【2位】
篠原眞 室内楽作品による個展
2021年7月16日 東京オペラシティ リサイタルホール

【3位】
一柳慧芸術総監督就任20周年記念「Toshi伝説」
2021年2月13日 神奈川県民ホール大ホール 「共鳴空間(レゾナントスペース)」
2021年3月20日 神奈川県立音楽堂 「エクストリームLOVE」

 

◆選定にあたって
1位】
冷戦後の極右政党の台頭に警鐘を鳴らし、日本での翻訳も版を重ねてきたフランク・パヴロフの『茶色の朝』をオペラにしたブルーノ・ジネールの《シャルリー〜茶色の朝》の公演は、クルト・ヴァイルのシャンソンや《三文オペラ》のソング、パウル・デッサウの室内楽作品による第一部、オペラ上演の二部で構成された。その企画全体に通底していたのは、「歴史の暗部を忘却から掘り起こし、『文化的記憶』として人々の記憶に問いかける」という、作曲家ジネールの創作の理念である。その創作理念に共鳴し、コロナの状況下でオンラインも駆使しながら、歴史と対話し、その問いを未来に繋げていこうとする神奈川県立音楽堂の公共ホールとしての志の高さと気概を感じた良質なプロジェクトであった。

★参考レビュー
ブルーノ・ジネール オペラ『シャルリー~茶色の朝』|齋藤俊夫
ブルーノ・ジネール : オペラ《シャルリー ~ 茶色の朝》|大田美佐子

 

【2位】
演奏と曲そのものの魅力もさることながら、頻繁な入れ替えを含むすぐれた演奏家のキュレーション、企画者による濃密なインタビューを掲載したパンフレット、演奏会後に提供された高音質のストリーミングと、日本でまだその真価を充分に知られていない作曲家の個展として多方面に配慮が行き届いていた点で、企画賞に相応しい。日本現代音楽史でしばしばそうであったように、演奏家、作曲家だけでなく、仏語でいうfin connaisseur(目利き、いや耳利きか)が果たしうる重要な役割があるということを企画・主催のTRANSIENT代表石塚潤一が(改めて)示した公演であった。

★参考レビュー
篠原眞 室内楽作品による個展|齋藤俊夫
篠原眞 室内楽作品による個展|秋元陽平

 

【3位】
今もなお旺盛な作曲活動を続け、その存在が既に一つの音楽史とも言える一柳慧の神奈川芸術文化財団芸術総監督就任20周年記念イベント。
「共鳴空間(レゾナントスペース)」では指揮に鈴木優人、ヴァイオリンに成田達輝という今最も輝いている若手を起用し、一柳音楽の変わらない若さを知らしめた。
〈クラシカル〉〈トラディショナル〉〈エクスペリメンタル〉3部構成の長大な「エクストリームLOVE」では、〈クラシカル〉で最早クラシック音楽の一部となった現代音楽の姿を見、〈トラディショナル〉で西洋東洋が混じり合う邦楽器による日本現代音楽を聴き、そして〈エクスペリメンタル〉で一柳のプリペアド・ピアノ作品『ピアノ作品第1~7』をプリペアの過程も舞台上で行うことにより前衛・実験音楽が最先端を走っていた1960年当時の一柳と現代音楽の姿を再現した。
「現代音楽」の歴史と現在からさらに未来を覗かんとする、企画者と参加者の好奇心と進取の気概に支えられた濃密なイベントであった。

★参考レビュー
共鳴空間(レゾナント スペース) 「Toshi伝説」一柳慧芸術総監督就任20周年記念|谷口昭弘
『Toshi伝説』一柳慧芸術総監督就任20周年記念 エクストリームLOVE|齋藤俊夫

 

(2021/12/15)