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Absolute-MIX presents 2021 Electro-Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に minimalism-hybrid sound programA|齋藤俊夫

Absolute-MIX presents 2021 Electro-Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に minimalism-hybrid sound programA
Absolute-MIX presents 2021 Electro-Acoustic Music – Focusing on Hirokazu Hiraishi’s Music – minimalism-hybrid sound programA

2021年11月22日 仙川フィックスホール
2021/11/22 SENGAWA FIX HALL
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by Kazue Yokoi/提供:Absolute-MIX 実行委員会

<演奏>        →foreign language
ピアノ:矢沢朋子、井上郷子、川口慈子
ヴィオラ:甲斐史子
エレクトロニクス:有馬純寿

<曲目>
(全作品、平石博一作曲)
『HIROSHIMA』 (2002)
『Glass Wall』 (2015)
『Silver Bridge』 (2021)
『White Window』 (2015~2021)
『SPACE』 (2021)
(以上、エレクトロニクス作品)
『Scenes 1』 (1995)
  ヴィオラ
『響きは大気の彼方からやってくる』(1987-1995)
  ヴィオラ、ピアノ(矢沢)
『Across the sky』(1995)
  ヴィオラ、ピアノ(矢沢)
『Up to date』(1990)
  ピアノ4手連弾(井上、川口)
『九十九折五番』(2017)
  ピアノ(矢沢)
『Lattice Fringe』(2021, Absolute-MIX 世界初演)
  ピアノ(井上)
『A Vision』(2005)
  ピアノ(矢沢)
『A Rainbow in the mirror』(1992)
  ピアノ(井上)

 

8チャンネルのスピーカーによる音1つ1つの位置パラメータの移動・跳躍が目まぐるしく、いや、まばゆく輝く『HIROSHIMA』を聴いて、「これはSFだ!」との考えが筆者の脳に閃いた。
声部らしきものが大量に感じられるが、ポリフォニーではなくミニマル・ミュージック的多声部書法で、物凄い音数なのに音楽の透明度が全く濁ることがない。高音の声部(?)が音楽的に主導権を持っていると感じていると、急に高音が消えて低音声部が主導権を握ったり、単純な音型だと感じていた声部が徐々に複雑化していきいつの間にか音楽全体を掌握したり、とミニマル・ミュージックをさらに進化させた平石の音楽に賛辞として「SF的音楽」という言葉を贈りたい。ウルトラマンだのスターウォーズだのガンダムだのに使われる音楽、というのではなく、音楽的思想の根源に〈Sense of Wonder〉が宿っている音楽、すなわちSF的音楽である。

『Glass Wall』のノイズ混じりの濁った音と澄んだ音が位置パラメータを変えつつグリッサンドして作られる音の海と波、『Silver Bridge』の金属的な打撃音がランダムなようで旋律的なものを感じさせる謎の聴覚体験、『White Window』のごくごく繊細な音から轟音まで幅広い質の音が様々なスピーカーから発せられる驚きと楽しみ、『SPACE』の音色、音高、位置パラメータの変化が旋律的ではないが、ただのランダムでもなく、複雑性と単純性が綯い交ぜとなって、突然終わる不可知的論理性。
ただ電子音を使っただけではなく、論理と感性を最高度に働かせて構築されたこれらの作品の根源にあるSF性に筆者は感嘆することしきりであった。なんと不思議(Wonder)な音楽が今でも可能なのかと。しかも心地よく音楽に浸れる不思議であった。

休憩後はアコースティック楽器による作品展。平石博一の、スティーブ・ライヒの正統な後継者たるミニマル・ミュージックの作曲家としての顔と、”minimal”の語義的な、つまり「最小限」の音に徹した静かな作品の作曲家という2つの顔が見られた。

『Scenes 1』は訥々と話しかけるように音楽に読点が多く静的なのだが、旋律が異物によって途切れつつ進んでいっている、と思っていたら、いつの間にか異物の方が旋律と化してしまうというエッシャー的な音楽。
『響きは大気の彼方からやってくる』も、音量が大きい場面もあるのだが、何故か月影の中で静けさと語り合っているようなデュオ。第4楽章で陽が昇り始めたように動きが増え、光が強くなって了。
『Across the sky』は音に濁りを混ぜたダイナミックなヴィオラ、あくまで清澄でクールなピアノが兎に角カッコいいデュオ。ミニマル・ミュージックの流れを汲むが、このスピード感、ダイナミズムはそんじょそこらのミニマルの亜流(例えばポスト・クラシカルなどと呼ばれる一群の音楽)とは違い、媚びへつらい泣きを入れるような軟弱な所はカケラも見せずに終曲。現代音楽の気概を見せつけられた。
連弾の『Up to date』もまたミニマル・ミュージックの王道を行く作品。4×2=8拍の単純な音型の反復に始まり、その原型がどんどん変形していく。その変形のプロセスには物語的構造も感じられた。基本形の反復は最後まで貫かれて、ラストは2人でスカッと爽やかに終了。ミニマル・ミュージックの基本的仕掛けにまだこんなに可能性が満ちていたとは、と感嘆した。
『九十九折五番』は12音技法とは異なるが、音列に基づいた作品。人為を拒んだ音列技法に宿る論理性と静寂に身体と耳が引き締まる。後半に入るとペダルを用いて音楽のスケールが一変して大きくなるが、そこにも論理が一本筋を通している。
『Lattice Fringe』も極めて論理的だが、どういう論理だかは聴くだけではわからない。先の『九十九折五番』がウェーベルン的に無機的だとするとこちらはベルク的な表出性があるとも感じられたが、ベルクにしては冷た過ぎる。謎と不思議に満ちた時間が過ぎていった。
笙のハーモニーに魅せられて書いたという『A Vision』、ペダルを使って静かにゆっくりと和音が置かれていく。和音の前後に繋がりのようなもの、ある種の旋律めいたものがが聴こえ始め、劇的、いや、悲劇的な感触を醸し出す。
『A Rainbow in the mirror』、反復しつつ進行する単旋律にペダルの効果が乗算され、大きく豊かな、だが清澄な流れを音楽が作り出す。時折ペダルを踏まずにフォルテシモで硬い音が入るのがまた刺激的。「しかめっ面した、いわゆる現代音楽とはかなり違う」と作曲者は韜晦気味に書いているが、いや、立派な現代音楽であった。

筆者が平石博一の名前を知ったのは1994年発売のCDに収録された吹奏楽曲『時は時の向こうにある』であり、ライヒより平石を先に知ったのだが、電子音楽作品、アコースティック作品、ともに論理的であっても感性が痩せることのない独自の道を歩んできたことが今回確認できた。エレクトロニクスの有馬純寿を含む演奏者たち全員が作品をしっかりと読み込み、理解した上での再現で、平石の音楽世界が見事に立ち現れた幸福な一夜であった。

(2021/12/15)

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<players>
Piano: Tomoko Yazawa, Satoko Inoue, Yasuko Kawaguchi
Viola: Fumiko Kai
Electronics: Sumihisa Arima

<pieces>
(All pieces are composed by Hirokazu Hiraishi)
HIROSHIMA (2002)
Glass Wall (2015)
Silver Bridge (2021)
White Window (2015~2021)
SPACE (2021)
(The above are Electronics works)
Scenes 1 (1995)
 Viola
The Sound is coming a long way through the Air (1987-1995)
 Viola、Piano(Yazawa)
Across the sky(1995)
 Viola、Piano(Yazawa)
Up to date(1990)
 Piano four-hand performance (Inoue, Kawaguchi)
Spiral Path of Piano No.5 (2017)
 Piano (Yazawa)
Lattice Fringe(2021 World Premier)
 Piano (Inoue)
A Vision(2005)
 Piano(Yazawa)
A Rainbow in the mirror(1992)
 Piano (Inoue)