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神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第372回定期演奏会|谷口昭弘

神奈川フィルハーモニー管弦楽団
第372回定期演奏会
Kanagawa Philharmonic Orchestra
The 372nd Subscription Concert

2021年10月23日 ミューザ川崎シンフォニーホール
2021/10/23 Muza Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
写真提供:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

<演奏>        →foreign language
指揮:小泉和裕
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

<曲目>
モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K. 550
(休憩)
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op. 64

 

小泉和裕が指揮をする神奈フィルの定期は、とりわけ緻密なアンサンブルが聴けるのが楽しみだ。モーツァルトの40番にしても、第1楽章から程よくブレンドされた弦楽により歌われるさりげない第1主題の歌は、木管が映える第2主題と好対照だった。展開部では呼応しあう2つの楽器群がやさしい鼓動を織りなしていた。第2楽章では静かな佇まいの中にすきのない、淀みない小さなドラマが展開し、やわらかな第3楽章のソノリティの中にも光が投じられていた。
第4楽章はふくよかな均整美の中に多くの楽想が盛り込まれていることを、聴き手が自然に受け止める丁寧さが印象に残る。一見さりげなく、変哲もないところにアンサンブルの妙技が盛り込まれている。それを前提として要所要所にあるべき心のざわめきが展開されていた。フォルムを崩さず、かといって機械的なところは全くないオーガニックな流れを楽しんだ。そしてチャイコフスキーのような、超えるべき運命としての短調ではないモーツァルト時代の短調の意味とは何だろう。そんなことをずっと考えていた。

チャイコフスキーの5番は、ほの暗く、しかし骨太のクラリネットから。低弦はあまり重くはないが、節々に付けられた決然としたアタックに、抗しがたい力が込められていた。ソナタ主部は速度と音色の移り変わりが多面的な第1主題部につづき、第2主題部は直線的な猛烈な盛り上げから終結部へと鳴りを増していく。展開部では新主題の提示部や再現部手前はぐっとテンポを落として際立たせる。モーツァルトでは見せなかった大胆さが際立つ。
しかし、この日の演奏で何よりも心を揺さぶられたのは、やはり第2楽章だろう。ニュアンス豊かに、暖かく饒舌に語る独奏ホルンから生まれそこから続いていく淀みなく流れる楽想の連続は、聴く者を高ぶらせる。オーケストラのメンバーも、ある者は旋律を歌わせて魅了し、ある者は、うっすらと、それでいて確固とした和声で旋律を支える。またある者は行く先々で彩り豊かな音色を添えていく。「緩徐楽章」と一口にいうけれど、安らぎから不安、絶望から希望へ、大きなスケールで展開された物語に、すっかり心を奪われてしまった。
組み合わさったパズルのピースのように細やかなアンサンブルが奏でる小粋なワルツを第3楽章で楽しんだ後の第4楽章は、一見破綻することのなく慎重に進めているようでいて、実は最後まで輝かしい祝祭的雰囲気を失うことなく聴き手を興奮の中に巻き込む堂々としたフィナーレだった。抑えきれずにブラボーと叫んでしまった聴衆がいたのもやむを得ないと思えるくらいの充実の45分だった。

短調の交響曲を2つ組み合わせたプログラムだが、時代も違えば生まれた場所も違う。編成も違うし楽想の展開の仕方や規模も違う。ジャンルとしての一体感と表現の多様性を堪能した公演でもあった。

(2021/11/15)


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<Performers>
Kanagawa Philharmonic Orchestra
Kazuhiro Koizumi, conductor.

<Program>
Mozart: Symphony No. 40 in G minor, K. 550
Tchaikovsky: Symphony No. 5 in E minor, Op. 64