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新国立劇場 ロッシーニ:《チェネレントラ》|秋元陽平

ジョアキーノ・ロッシーニ:《チェネレントラ》
(日本語・英語字幕付き原語上演)
Gioachino ROSSINI : La Cenerentola
(Opera in 2 Acts in Original Language with Japanese & English supertitles) 

2021年10月6日 新国立劇場
2021/10/6 New National Theatre Tokyo
Reviewed by 秋元陽平(Yohei AKIMOTO)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi) 

<制作>        →English
【指 揮】城谷正博
【演 出】粟國 淳
【美術・衣裳】アレッサンドロ・チャンマルーギ
【照 明】大島祐夫
【振 付】上田 遙
【舞台監督】髙橋尚史

<キャスト>
【ドン・ラミーロ】ルネ・バルベラ
【ダンディーニ】上江隼人
【ドン・マニフィコ】アレッサンドロ・コルベッリ
【アンジェリーナ】脇園 彩
【アリドーロ】ガブリエーレ・サゴーナ
【クロリンダ】高橋薫子
【ティーズベ】齊藤純子
【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

『チェネレントラ』の重要なモチーフの一つに、「思考の混乱」がある。突如として見染められたヒロインの混乱、ひそやかな美しさを見出した王子の混乱、策略が崩れ去ったときの父親と義姉たちの混乱……これらは、しばしば台詞のなかでコミカルに繰り返され、錯綜する糸として隠喩化される。この思考の混乱は、つまり湧き上がる思い、情念が生み出す心の混乱である。とはいえ、それはマクベス夫人のような狂気でも、ラシーヌ的妄執でもない。それはむしろロッシーニを讃えたスタンダールがしばしばその小説のなかで描いたような、運命を切り開こうとする人間が、自らの内に溢れるエネルギーを発見して感じる当惑に近い。ロッシーニの愉快なはからいで、複数人がスタッカートで同時にこれらの思惑と混乱を観客に打ち明ける時、それはまさに運命がしかけたドタバタ喜劇の醍醐味となる。惜しむらくは、しばしば安全運転のためこうしたロッシーニ一流の「早口」で声量が落ちてしまっていたが、それでもこうしためまぐるしさの魅力充分だ。
脇園彩演じるチェネレントラは、歌唱においても演技においても、まったくもって主役に相応しいパフォーマンスを見せた。彼女はまず理不尽な仕打ちの被害者であるが、よよと泣き崩れるばかりというわけではなく人並みにムッとするし、スポットを当てられれば舞い上がり、少し調子に乗ったりもする。彼女は自ら運命を切り開き、勢いづいて大胆に振る舞ったかと思えば、自分の新しい側面を発見して、戸惑いを隠せない。こうしたこと全て、脇園が役柄を深く読み込んでいるからこそ身振りの一つで伝わってくるのだろう、ということは強調しておきたい。メゾソプラノの声の魅力というものを改めて思い知らされるようだ——広い音域を、まるで達人のクラリネットの音のように豊かな中音域から輝く高音域まで駆け上がる。王子を演じたルネ・バルベラは、地味な警備員の格好のまま圧倒的な声のかがやきのみで威厳を見せつけ、この逆転劇のドラマを支えた。酔っ払いの父親、たくましい姉たち、入れ替わりの従者の演技も、ただの道化師ではなく、いわば喜劇俳優としての上品さがあり、大人の好演だ。
チネチッタを舞台にした解釈は、その設定を緻密に引っ張るわけでもない以上、冒頭のテロップを用いた説明も過剰であったと思うが、それにしても、この設定が可能にした舞台美術と衣装の素晴らしさを見ると、感覚美を引き出すことに成功した演出であったと思わざるを得ない。このプロダクションはタブロー把握、色彩感覚にひときわ優れている。冒頭の撮影現場の照明の色のばらけ方、障子に写ったカメラの影の描く模様、二人の姉のどぎつい色調とチェネレントラのキュートなローズ、それらが客席から見られたときの効果がよく計測されている。それだけに、オーケストラにはさらなる歯切れの良さが欲しかった!既に指揮者によってそのように懸命に方向づけされていたとはいえ、ロッシーニなのだから、さらに鞠が弾むような、性格的でない音がひとつもないような切れ味があってもよかった。
さて、チェネレントラは慈悲深くも自分をいびった家族を許すことにするのだが、これは「女性には許す優しさがあるのが望ましい」という話では全くない。だって彼女も言っている、許すことは彼女の場合それでも復讐であり、自由な選択なのだ、と。Vendettaのあとに脇園が一息おいて、舞台が静まり返ったとき、そういうニュアンスの気概を感じたのだった。

関連評:新国立劇場 ロッシーニ:《チェネレントラ》|藤堂清

(2021/11/15)


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<Creative Team>
Conductor: JOYA Masahiro
Production: AGUNI Jun
Set and Costume Design: Alessandro CIAMMARUGHI
Lighting Design: OSHIMA Masao
Choreographer: UEDA Haruka
<Cast>
Don Ramiro: René BARBERA
Dandini: KAMIE Hayato
Don Magnifico: Alessandro CORBELLI
Angelina: WAKIZONO Aya
Alidoro: Gabriele SAGONA
Clorinda: TAKAHASHI Nobuko
Tisbe: SAITO Junko
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra