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二期会ニューウェーブ・オペラ劇場 セルセ<新制作>|大河内文恵

二期会ニューウェーブ・オペラ劇場 セルセ<新制作>
Nikikai New Wave Opera Theatre “SERSE”
2021年5月22日23日 めぐろパーシモンホール 大ホール
2021/5/22, 23  Megro Persimmon Hall

Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

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指揮: 鈴木秀美
演出: 中村 蓉
装置: 松生紘子
衣裳: 田村香織
照明: 喜多村 貴
演出助手: 根岸 幸
舞台監督: 幸泉浩司
公演監督: 大島幾雄

<出演>
セルセ: 新堂由暁(22日)、澤原行正(23日)
アルサメーネ:櫻井陽香(22日)、本多 都(23日)
アメストレ:和田美樹子(22日)、長田惟子(23日)
アリオダーテ:髙崎翔平(22日)、田中夕也(23日)
ロミルダ:牧野元美 (22日)、塚本正美(23日)
アタランタ:雨笠佳奈(22日)、新宅かなで(23日)
エルヴィーロ:菅原洋平(22日)、堺 裕馬(23日)

ダンサー:中村 理、北川 結、池上たっくん、久保田 舞、田花 遥、山田 (両日)

合唱:二期会合唱団
管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)

 

オペラは音楽なのか?演劇なのか?という、おそらく未来永劫、答えの出ることのない命題を突き付けられるとともに、舞踊とオペラが融合したときに観客の心を揺さぶってくるえもいわれぬ感覚を味わった二日間だった。

二期会の新人デビューの場として位置づけられるニーウェーブ・オペラは、ジュリオ・チェーザレ(2015)、アルチーナ(2018)に続き、3回連続のヘンデル。日本でのバロック・オペラ上演の場としてすっかり定着した感がある。

2015年のジュリオ・チェーザレで振付を担当した中村蓉による初演出のこのオペラでは、歌手もダンサーと同じ動きを求められた。オペラに舞踊を取り入れた演出の場合、歌担当は歌手、動き担当はダンサーと役割分担がおこなわれるのが通常である。そうでないオペラとして浮かぶのは、細川俊夫の『松風』で、そこではダンサーとして扱われることを前提として歌手が選ばれ、実際ダンサーと遜色ない動きを見せていた。

序曲の部分でダンサーと歌手が互い違いになって踊っていると、もちろん衣装で誰がダンサーなのかはわかるのだが、一見見分けがつかなかった。1曲目のアリアは有名なオンブラ・マイ・フである。両日とも歌手の声がオーケストラに搔き消されがちだったのは、歌手の声が響かないからではなく演出なのだと思われる(というのも、最後にもう一度同じ曲が歌われるときにはそうでないからなのだ)が、そうであれば、たとえば弦楽器奏者を各パート1人か2人に絞るなど工夫の余地はあったように思う。

22日は、2幕あたりからロミルダの牧野と特にアタランタの雨笠が絶好調。ほかのキャストは声の伸びがもう少し欲しかったもののよく健闘していた。以前のニューウェーブ・オペラではアジリタを入れようとしてそれがネックになっているケースがみられたが、今回アジリタは最低限にしぼり、その代わりに歌としてのレベルの底上げをアリア、レチタティーヴォともにおこなったようで、それが成功していた。むしろ、いったいどれだけ稽古をやったのだろうというほどの、ダンスと動きの多さを全員クリアした上でのこの歌のレベルだと考えれば、殊勲賞ものだろう。

アジリタがなく華やかさに欠ける分は、ダンサーがしっかり補っており、総合芸術としての見応えを充分確保していた。とはいえ、23日のほうは全体的に歌手の声がよく出ており、それだけでも満足できる場面では、演出が少し過剰であるように感じる瞬間もあったので、そのあたりは諸刃の剣であろう。

ヘンデルはやはり音楽そのものに魅力がある。有名なオンブラ・マイ・フ以外にも聞きどころが多く、それはオーケストラ部分によっても支えられていた。各パートのトップに古楽界若手トップ層を持ってきており、通奏低音にも名手を揃えていたおかげで、レチタティーヴォも楽しんで聴けた。

2日間続けて聞くことにより、2日目はストーリーや演出の流れが頭に入っているためより細かい演出や伏線に気づくことができ、さらに楽しめた。オペラなどで何回か公演があると、どの1つに行こうかと考えがちだが、複数回みることにより観客は公演内容をより深めることができる。販売システムの問題など簡単にはいかないかもしれないが、たとえば複数回割引など、複数回の公演をみることを後押しするシステムがあったら、面白いのではないかと思った。

関連評:二期会ニューウェーブ・オペラ劇場公演 ヘンデル:《セルセ》|藤堂清

 (2021/6/15)

    

二期会合唱団:
 ソプラノ:石野真帆、北門華音、佐藤初音、重田栞
 アルト:河野ちはる、小林香奈、佐野円香、山田茉央
 テノール:竹内公一、森田有生、前橋隼也、山本雄太
 バス:岸本大、佐原壮也、吉原裕作、後藤駿也

ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ
コンサートマスター:戸田薫
ヴァイオリン:池田梨枝子、有山志音、遠藤結子、門倉佑希子、小島成顕
重松綾乃、宮崎桃子、宮澤紫、山本佳輝、渡邊優
ヴィオラ:春木英恵、小川萌、田中香帆
チェロ:山本徹、稲垣真奈、大田原聖、山田慧
オーボエ:三宮正満、北康乃、倉澤唯子、笹平幸那
トロンボーン:齋藤秀範
ファゴット:北山乃香
通奏低音:
チェロ:山本徹
テオルボ:佐藤亜紀子
チェンバロ:上尾直毅、福間彩

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Staff
Conductor: Hidemi SUZUKI
Stage Director: Yo NAKAMURA
Set Designer: Hiroko MATSUO
Costume Designer: Kaori TAMURA
Lighting Designer: Takashi KITAMURA
Assistant Stage Director: Sachi NEGISHI
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Ikuo OSHIMA

Cast
Serse: Yoshiaki SHINDO / Takamasa SAWAHARA
Arsamene: Haruka SAKURAI / Miyako HONDA
Amastre: Mikiko WADA / Yuiko OSADA
Ariodate: Shohei TAKASAKI / Yuya TANAKA
Romilda: Motomi MAKINO / Masami TSUKAMOTO
Atalanta: Kana AMAGASA / Kanade SHINTAKU
Elviro: Yohei SUGAWARA / Yuma SAKAI

Dancers: Masashi Nakamura, Yu Kitagawa, Takkun Ikegami, Mai Kubota, Haruka Tabana, Sato Yamada

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: New Wave Baroque Orchestra, Tokyo