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東京都交響楽団 都響スペシャル2020(7/12)|齋藤俊夫

東京都交響楽団 都響スペシャル2020(7/12)
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra Special concert 2020 (7/12)

2020年7月12日 サントリーホール
2020/7/12 Suntory Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 堀田力丸(Rikimaru Hotta)/写真提供:東京都交響楽団

<演奏>        →foreign language
指揮:大野和士
コンサートマスター:矢部達哉
東京都交響楽団

<曲目>
コープランド:『市民のためのファンファーレ』
ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 op.21
デュカス:舞踏詩『ラ・ペリ』より「ファンファーレ」
プロコフィエフ:交響曲第1番 ニ長調 op.25『古典交響曲』

 

日の光を思わせるコープランド『市民のためのファンファーレ』を聴き、「ああ、これから音楽界も復活していくに違いない」と思った。
ベートーヴェンの1番も、1楽章のガッシリとした低弦の響きに支えられたたくましい楽想、2楽章の可愛らしいカノンでの室内楽的な精緻なアンサンブル、舞曲というには荒々し過ぎるがそこが良い第3楽章、全奏者が一体となって、ノリにノって、しかも俗っぽくなく品のある、そして力に満ちた第4楽章のアレグロ、全てが歓喜に満ちていた。

デュカス『ラ・ペリ』より「ファンファーレ」の不可思議な和声は夢心地。
プロコフィエフ『古典交響曲』のアイロニーとユーモアが一体となった奇抜な、グロテスクでもあるプロコフィエフ節。大野和士はそれを大胆に解剖し、スタッカートを極端なまでに鋭く切り、テヌートをそれと対照をなすように押し出す。第4楽章のモルト・ヴィヴァーチェはとにかく快速。管も弦も一糸乱れずに、されど他に負けじと急速に駆け抜ける。痛快至極。

だが、その後毎日指数関数的に増えていき、全国に拡散・拡大していく新型コロナウイルスの報道を見聞きするにつれ、〈今の自分〉が、どんどん〈演奏会に歓喜していた自分〉から離れていってしまい、昨日7月29日に全国の新型コロナウイルス新規感染者が1259人を数えた今日となっては、2週間と数日前のこの演奏会の感興が遠く感じられる。

都響・大野和士の演奏は素晴らしかった。あの時は筆者を含めた聴衆皆が、室内で一人録音を聴くのとは異なる、本物の音楽に出会えた喜びを分かち合えたはずだ。
しかし、現在の、何もかもが分断され、あらゆるものに対して疑心なくしては生きていけなくなるコロナ禍の新しい波の中で、「あの時、喜んではいけなかったのではないだろうか」という疑問が湧き、さらに、今、音楽に歓喜すること自体すらも誰かに嘘をついているような後ろめたさを覚えてしまうのだ。これは筆者が臆病者だからだろうか。

それでも、筆者は生演奏での音楽を希求しており、音楽がやまないことを祈っているのだ。後ろめたい嘘をついているような気持ちを味わうとしても、またコンサートホールに行きたくてたまらないのだ。これは矛盾であろう。だが、筆者にとっては正直な矛盾である。音楽は無力かもしれないが、音楽は人間にとって絶対に必要なのだから、どうか音楽よ、やまないでくれ、そう願うしかないのだろうか。

(2020/7/30記)

(2020/8/15)


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<players>
Conductor: Kazushi ONO
Concertmaster: Tatsuya YABE
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

<pieces>
Copland: Fanfare for the Common Man
Beethoven: Symphony No.1 in C major, op.21
Dukas: Fanfare pour précéder “La Péri”
Prokofiev: Symphony No.1 in D Major, Op.25, “Classical Symphony”