Pick Up (20/1/15)|「That’s クラシック!」|JOE
「That’s クラシック!」~Space Travel Orchestra~
That’s Classic! ~Space Travel Orchestra~
Text & Photos by JOE
クラシック音楽にも新しい時代の波が押し寄せて来ている──そう強く感じた夜だった。
ソニー音楽財団主催による「That’s クラシック!」シリーズは、これまでのクラシックコンサートの常識を打ち破り、カメラや携帯電話での撮影OK、SNSでの拡散OK、服装自由、おしゃべりOK!だという。
第1回目のテーマは「宇宙」。ということでSF映画『2001年宇宙の旅』でお馴染みのR.シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』で幕を開ける。川瀬賢太郎指揮・東京フィルハーモニー交響楽団の演奏に、映像や光の演出が加わり、私はたちまち壮大な宇宙空間へと吸い込まれていった。
…と1曲目の余韻に浸るのもつかの間、ナビゲーターが登場し「ありがとうございましたぁ、素晴らしい演奏でした!」と割って入ってきて、指揮者とペラペラおしゃべりを始める。え、、ちょっと待って、せっかく天のはるか彼方へと思いを巡らせていたのに、急に現実に引き戻さないで…と面食らったのは私だけだろうか。大袈裟なほど話が盛り上がっている舞台に微妙な視線を投げかける中、次の曲紹介では、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」が、1977年に打ち上げられたNASAの無人探査機ボイジャーとともに宇宙へ旅立ったことを知る。地球外知的生命体へ向けての、地球からのプレゼントだったそう。へぇ、天文学者たちも粋なことを考えるのね…などといつのまにか頷いている私がいる。そして、おかげでこれまで何度となく聴いてきたこの名曲を、まったく新しい角度から聴くことになったのである。無限に遠い星で、もし宇宙人がこの曲に出会ったら、どう感じるんだろう…ベートーヴェンもまさか自分の曲が将来宇宙に連れていかれるなんて、思いもしなかっただろうに!などと、想像したりして。
さらにステージ上に映し出される宇宙に気分も上がって、思わずスマートフォンでパシャリ。そんな新感覚を楽しんでいると、またナビゲーターが現れる。ホルストの『惑星』、映画『スター・ウォーズ』のメイン・タイトル、スメタナの『モルダウ』、シベリウスの『フィンランディア』と続くが、最後までこのパターンの繰り返しだった。
こういった類のナビゲーターシステム、最近のコンサートではよくあるが、ときにありがたく、ときに迷惑であり、まさに紙一重だと思う。作品紹介やその曲目を選んだ意図などを説明されたりすると「なるほどね。」となり、特に今回のようにテーマが設定されているとなおさら、納得の1曲となる。確かに私にとって「運命」の新体験は、定番作品に新しい意味がプラスされたというメリットがあった。が一方で、演奏を聴く前にイメージを植え付けられた、とも言えよう。プログラムにも曲目解説はあるが、読む読まないはこちらに委ねられる。曲間のナレーションだと、否応なしに情報をインプットされてしまう。聴く側の想像の自由が、奪われてしまうのだ。かといって、全面的に悪でもない。人によって受け取りがさまざまだからこそ、提供する側のさじ加減が難しいところだろう。メリットがあるとすれば曲の解説や作曲家、楽器紹介など、知識としての情報に限る。ナビゲーターなる第三者の「感想」などは、やはり迷惑でしかない。演奏が素晴らしかったかどうかなんて、私が感じることで、誰かに押し付けられる感情ではないのだ。それこそ聴く側の自由が奪われる以外の何物でもない、ということに、発信者は注意を払ってほしいものだ。
さてしかし企画としては面白いコンサートだった。まるで宇宙船に乗っているかのような視覚的な演出と音楽の相乗効果で、非日常的な空間、時間を過ごせたことは間違いない。またその瞬間を自分のツールに残すことができるのも、嬉しい。ナントカ映えするステージのSNSでの拡散は、運営者サイドにとっては恰好の宣伝となる、そういった思惑が見え隠れしたとしても、これも一つの、クラシックの新しい楽しみ方だ。
もちろん、賛否両論あるだろう。帰りがけに後ろの席から「映像とナレーションは余計だったよな。」という声が聞こえたのも事実だ。純粋にクラシックの演奏を堪能したい人。より深く芸術性を求めたい人。単純にエンターテインメントとして楽しみたい人。初めてクラシック音楽に触れてみようと思う人。着飾って行きたい人、ラフにフラッと立ち寄りたい人。コンサートに求めるものは、人それぞれだ。みんな違ってみんないいわけで、新しいかたちが生み出されてくる中、各々が好きなものを選び取って享受すればいい。確かなことは、音楽の楽しみ方に、こうでなきゃダメだ、というものは何もない、ということだ。
「That’s クラシック!」
2019年12月11日 東京オペラシティ コンサートホール
<出演>
川瀬 賢太郎(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
篠原 ともえ(ナビゲーター)
<曲目>
ツァラトゥストラはかく語りき(R. シュトラウス)
組曲「惑星」より『木星』(ホルスト)
交響曲 第5番「運命」より第1楽章(ベートーヴェン)
スター・ウォーズより「テーマ」(J. ウィリアムズ)
交響詩「わが祖国」より『モルダウ』(スメタナ)
フィンランディア(シベリウス)
他
(2020/1/15)
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JOE
東京都立芸術高校音楽科〜法政大学哲学科卒。
東京ニュース通信社勤務、現在フリー。