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スッペ&オッフェンバック生誕200年記念—都響 第887回 定期|藤堂清

東京都交響楽団 第887回 定期演奏会Cシリーズ
【スッペ&オッフェンバック生誕200年記念】
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
Subscription Concert No.887 C Series

2019年10月2日 東京芸術劇場コンサートホール
2019/10/2 Tokyo Metropolitan Theatre
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀田力丸/写真提供:東京都交響楽団

<演奏>        →foreign language
指揮:フィリップ・フォン・シュタイネッカー
チェロ:エドガー・モロー
管弦楽:東京都交響楽団

<曲目>
スッペ:喜歌劇《軽騎兵》序曲
オッフェンバック:チェロ協奏曲 ト長調《軍隊風》(日本初演)
————-(ソリスト・アンコール)————
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009 より Salabande
——————–(休憩)———————
スッペ:喜歌劇《美しきガラテア》序曲
オッフェンバック:歌劇《ホフマン物語》より<間奏曲><舟歌>
オッフェンバック(ビンダー編曲):喜歌劇《天国と地獄》序曲

 

2人の作曲家、スッペとオッフェンバックはともに今年が生誕200年の記念の年となる。スッペはウィーン、オッフェンバックはパリ、活動の場は異なるがともにオペレッタで有名である。この分野でまず名をあげたのはオッフェンバック、スッペは彼のオペレッタの影響を受けウィーンで初めてオペレッタを手掛けた。

この日のコンサートのメインは、オッフェンバックの若き日の傑作、チェロ協奏曲ト長調《軍隊風》。彼がオペレッタに注力し始めるより10年ほど前の作品、日本初演である。
1847年に第1楽章がパリで初演された記録があるが、第2、第3楽章はスケッチのみ残されていると考えられていた。初演の約100年後に親族の依頼により、チェリスト、ジャン=マルクス・クレマンの補筆版が作られ演奏・録音されてきた。その後オッフェンバック家の遺産の中から第2楽章の総譜が発見され、また彼の《チェロと管弦楽のためのコンチェルト=ロンド》が第3楽章のスケッチの改稿版とされ、ジャン=クリストフ・ケックによる全曲の校訂譜が2005年に出版された。「チェロ界のリスト」と呼ばれていたオッフェンバックにふさわしく、高難度の技巧を必要とする演奏時間45分の大曲である。
ソリストのエドガー・モローは1994年パリ生まれの新進、この曲とグルダのチェロ協奏曲を収めたCDを録音している。
指揮者のフィリップ・フォン・シュタイネッカーは1972年ドイツ・ハンブルク生まれ。チェリストとしてマーラー室内管弦楽団、イングリッシュ・バロック・ソロイストなどで活動。その後指揮者としてクラウディオ・アバドやサー・エリオット・ガーディナーのアシスタントとして研鑽を積んだ。2012年以降、新日本フィルハーモニーへの客演を続けてきている。

第1楽章、ティンパニと弦楽器の静かな掛け合いに続き、行進曲風の主題が弦楽器から管楽器へと渡される。長めの主題提示部が終わり、ソリストが入ってくる。モローのチェロは厚みがあり、強奏しているわけではないのだがオーケストラを圧して響く。中間部では次々と耳に残るメロディーが弾き出されていく。細かな音型がちりばめられた独奏部分がクローズアップされ、楽章の終わりに向かって大きな盛り上がりをみせる。
第2楽章は金管楽器をたっぷりと歌わせながら始まり、チェロがゆったりとスケールの大きなメロディーを奏でる。フルートなど管楽器とソロの絡みが美しい。ここでもモローの伸びやかな音はからだを心地よく包む。
第3楽章は金管のファンファーレで始まり小太鼓に先導されてチェロがメロディーを繰り返す。これがオッフェンバックのオペレッタの中の歌のよう。聴き手は自然とその音楽に同化していく。中間部ではチェロの幅広い音域を利用したテーマが切れ目なく展開される。この楽章の後半では最初のメロディーに戻り、それに細かい変化を加えて早いパッセージへ、また高音域を多用して技巧を聴かせ、オーケストラとともにスピードをあげていって曲を終える。
この魅力的なチェロ協奏曲、もっと聴かれるようになってほしい。
ソリスト・アンコールはバッハの《無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009》より <Salabande>。しっとりとした佇まいは、モローの音楽の幅広さを感じさせるものであった。

オーケストラ単独で演奏されたのは、スッペのオペレッタ《軽騎兵》と《美しきガラテア》の序曲、オッフェンバックのオペラ・ブッフ《地獄のオルフェ》(《天国と地獄》)序曲と歌劇《ホフマン物語》から<間奏曲>と<舟歌>。どれもよく知られた曲で、気軽に楽しめるコンサートの曲目として取り上げられることが多い。
スッペの序曲は、オペレッタ全曲を聴いてみたいと思わせる魅力的な音楽。シュタイネッカーの指揮が、オーケストラの自発性を尊重し、個々の楽器の特徴を最大限引き出していることも一因であろう。
オッフェンバックの2曲が他の作曲家による編曲で、近年のオッフェンバック研究が反映されたものでなかったのは残念。

今年もあと2ケ月。二人の主戦場であったオペレッタの世界で、記念年にふさわしい公演が行われることを期待したい。

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(2019/11/15)

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<Performer>
Conductor: Philipp von STEINAECKER
Violoncello: Edgar MOREAU
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

<Program>
Franz von Suppé: Overture to “Light Cavalry”
Jacques Offenbach: Grand Concerto in G major for Cello and Orchestra “Concerto millitaire” (Japan Premiere)
————–(Encore by the soloist)—————-
J.S.Bach: Salabande from “Cello Suite No.3 in C major, BWV 1009”
——————(Intermission)———————
Franz von Suppé: Overture to “The Beautiful Galatea”
Jacques Offenbach: Intermezzo and Barcarolle from “The Tales of Hoffmann”
Jacques Offenbach(arr. by Binder): Overture to “Orpheus in the Underworld”