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バルバラ・ストロッツィ生誕400年記念コンサート|藤堂清

バルバラ・ストロッツィ生誕400年記念コンサート
ディスコルシ・ムジカーリ結成記念公演

Concerto per il 400° anniversario di Barbara Strozzi

2019年9月2日 豊洲シビックセンターホール
2019/9/2 Toyosu Civic Center Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大澤史郎/写真提供:佐々木なおみ

<出演者>        →foreign language
ソプラノ:阿部早希子
カウンターテナー:村松稔之
テノール:福島康晴
バス:目黒知史
バロック・ヴァイオリン:池田梨枝子
バロック・ヴァイオリン:吉田爽子
バロック・チェロ:懸田貴嗣
テオルボ:佐藤亜紀子
チェンバロ:松岡友子
お話:佐々木なおみ

<曲目>(S=ソプラノ A=アルト(カウンターテナー) T=テノール B=バス *=器楽曲)
1. B. ストロッツィ作曲 《マドリガーレ集》第1巻より〈愛に有害な沈黙〉(SATB)
2. B. ストロッツィ作曲 《マドリガーレ集》第1巻より〈かの鶯は〉(SATB)
3. B. ストロッツィ作曲 《マドリガーレ集》第1巻より〈ためらいがちで大胆な恋人〉(ST)
4. B. ストロッツィ作曲 《カンタータ集》作品2より〈秘する恋人〉(S)
5. 作者不詳 ルネサンス時代の伝承歌《お母さん、私を修道女にしないで》(S)
6. B. マリーニ作曲 《ソナタ》作品8(1629 年)より〈ラ・モニカの旋律に基づくソナタ〉(*)
7. B. ストロッツィ作曲モテット集《聖なる王冠》(1656年)より〈誰がこれほど慈愛を〉(ATB)
————————(休憩)————————
8. G. レグレンツィ作曲《教会ならびに室内ソナタ》作品4(1656年)より〈ラ・ストロッツィ〉(*)
9. M. カッツァーティ作曲《2台のヴァイオリンと通奏低音のソナタ》作品 18 (1656年)より〈ラ・ストロッツァ〉(*)
10. B. ストロッツィ作曲《マドリガーレ集》第1巻より〈帰還〉(ST)
11. B. ストロッツィ作曲 《カンタータ集》作品7より〈ラメント〉(S)
12. T. メールラ作曲 《半音階的カプリッチョ》(チェンバロ独奏)
13. B. ストロッツィ作曲 《カンタータ集》作品8より〈2台のヴァイオリン付きセレナータ〉 (S)
14. B. ストロッツィ作曲 《マドリガーレ集》第1巻より〈この曲集の結び〉(ATB)
15. B. ストロッツィ作曲 《マドリガーレ集》第1巻より〈恋する場をあきらめた老年の恋人〉(ATB)
——————–(アンコール)———————–
ニコロ・フォンテーイ作曲《音楽になった風変りな詩》第2巻(1636年)より〈画家の大狂気〉

 

バルバラ・ストロッツィの作品、古楽系のソプラノのリサイタルで歌われることはあるが、同時期の何人かの作曲家の作品とともに取り上げられるケースがほとんど。
この日のコンサートは、イタリア・バロック音楽の研究演奏グループ、ディスコルシ・ムジカーリの結成記念公演。同時に、グループの主宰者佐々木なおみの研究の中核であるストロッツィの生誕400年を記念したもの。彼女のソプラノ・ソロの曲だけでなく、多声のマドリガルやカンタータなど聴く機会の少ない曲もプログラムに並ぶ。

彼女は1619年にヴェネツィアに生まれ、詩人の養父(実の父の可能性が高い)ジュリオ・ストロッツィの仲間が集う文化的環境で育ち、作曲をフランチェスコ・カヴァッリに師事した。父の支援のもと、集まりで歌いはじめ、自作を披露したり、討論会の司会をつとめるなど音楽活動を進めたという。1644年には《マドリガーレ集》第1巻を出版。その後1664年までに計7巻の曲集を出版している。
17世紀前半のヴェネツィアには、1613年にサン・マルコ寺院の楽長となったクラウディオ・モンテヴェルディがいた。ストロッツィのマドリガーレにも彼の影響は感じられるが、この日取り上げられた《カンタータ集》からの二作品のような後期の作品では独自の持ち味が出てきている。
佐々木の解説によれば、彼女を「貧困のうちに音楽史から消えた女性作曲家」とする見方が多かったが、実は高利貸を営み、相当な資産を有していたことが分かってきた。楽譜の出版も継続的に行ってきていることからも、プロの女性作曲家として活動し、認められていたという。この日も、同時期の作曲家による「ストロッツィ女史」と題する二作品が演奏され、当時の彼女への評価を示すとされた。

演奏者は歌手4人と器楽5人、それぞれ古楽分野での活躍が目立つ人々が集まった。この日のメンバーが今後のディスコルシ・ムジカーリの演奏部門の中核となり、このグループの継続的な活動を支えていくことになればと期待したい。
器楽のパートのうち、バロック・チェロの懸田貴嗣、テオルボの佐藤亜紀子、チェンバロの松岡友子の3人がBasso Continuo(BC)を受け持った。懸田、佐藤は国内での活動が中心だが、松岡はスペイン・カタルーニャ高等音楽院に籍がある。ベテランの懸田の弾みのあるリズムが演奏に安定感をもたらす。佐藤のテオルボはしっかり役割を果たしているが、海外の名手のような音色の変化やダイナミクスには欠ける。松岡はメールラの《半音階的カプリッチョ》で独奏し、ポテンシャルを示す。マリーニの〈ラ・モニカの旋律に基づくソナタ〉と後半の2曲ではバロック・ヴァイオリンの池田梨枝子と吉田爽子が加わり、音色に変化をもたらした。
声楽分野では、ストロッツィ自身が歌手でもあったことから、ソプラノの阿部早希子の登場が多い。阿部は、ヘンデルの《テオドーラ》でタイトルロールを歌うなど古楽分野での活動が目立つが、古典から現代までオペラや歌曲にも積極的。この日も透明感のある声が重唱でも映える。ソロで歌われた〈ラメント〉と〈2台のヴァイオリン付きセレナータ〉は、言葉と音楽の結びつきがより深く感じられ、心に残るものとなった。
他の3名の歌手はすべて重唱での登場、カウンターテナーの村松稔之、テノールの福島康晴、バスの目黒知史という布陣。福島は、エクス・ノーヴォ室内合唱団を主宰するなど指揮者としても活動する大ベテラン、この日も演奏経験を活かし落ち着きのある歌であった。村松は東京音楽コンクール第3位といった受賞歴のある若手、なめらかな若々しい声が魅力。現代のものも含む歌曲も積極的に歌っている。日本ではまだ少ないカウンターテナー、これから活躍の場も拡がっていくことだろう。目黒も若手、阿部や村松とともにエクス・ノーヴォ室内合唱団に加わることも多い。音程の安定は重唱の基盤であるバスにとって重要。その責を十分に果たした。

曲ごとに佐々木による解説があり、また歌詞対訳・作品解説も充実したものであった。
だが、この日演奏された曲は残されている121曲の1割にも満たない10曲。ストロッツィの活動の全貌を知るための入り口に立ったというところだろう。作品6~8の一声の曲集の中にどのような宝がうずもれているか、今後も同様の企画が持たれることを期待したい。

次回のディスコルシ・ムジカーリのコンサートは、2020年「イタリア・カンタータの世界/イザベッラ・レオナルダ生誕400年」と予告されている。

(2019/10/15)

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<Performer>

Soprano : Sakiko Abe
Countertenor : Toshiyuki Muramatsu
Tenor : Yasuharu Fukushima
Bass : Tomofumi Meguro
Baroque Violin : Rieko Ikeda
Baroque Violin : Soko Yoshida
Baroque Cello : Takashi Kaketa
Theorbo : Akiko Sato
Cembalo : Tomoko Matsuoka
Explanation : Naomi Sasaki

<Program> (*…Instrumental Piece)
1. B.Storozzi:〈Silentio nocivo〉“Il Primo Libro de Madrigali”(SATB)
2. B.Storozzi:〈L’usignuolo〉“Il Primo Libro de Madrigali”(SATB)
3. B.Storozzi:〈L’amante timido eccitato〉“Il Primo Libro de Madrigali”(ST)
4. B.Storozzi:〈L’amante segreto〉“Cantate, ariette, e duetti”Op.2 (S)
5. Anonymous: Canzone tradizionale〈Madre, non mi far monaca〉(S)
6. B.Marini: Trio Sonata sopra la Monica, Op.8 No.45(1629,*)
7. B.Storozzi:〈Quis dabit mihi〉In collection“Sacra Corona,”ed. Bartolomeo Marcesso(1656,ATB)
———————–(Intermission)————————
8. G. Legrenzi:〈La Strozzi〉“Suonate dà Chiesa, e dà Camera”Op.4(1656,*)
9. M. Cazzati:〈La Strozza〉“Suonate a 2 Violini col suo Basso continuo per l’Organo”Op.18(1656,*)
10. B.Storozzi:〈Il ritorno〉“Il Primo Libro de Madrigali”(ST)
11. B.Storozzi:〈Lamento〉“Diporte di Euterpe”Op.7 (S)
12. T.Merula: 《Capriccio cromatico”(Cembalo Solo)
13. B.Storozzi: Serenata con violini〈Hor che Apollo è a Teti in seno〉“Arie”Op.8 (S)
14. B.Storozzi:〈Conclusione dell’opera〉“Il Primo Libro de Madrigali”(ATB)
15. B.Storozzi:〈Vecchio amante che rende la Piazza〉“Il Primo Libro de Madrigali”(ATB)
————————-(Encore)—————————-
N. Fontei:〈Gran follia di pittore〉“Delle bizzarrie poetiche poste in musica, libro 2”(1636)