Pick Up (19/9/15)|落合陽一 × 日本フィル VOL.3 第2夜 《交錯する音楽会》|大田美佐子
落合陽一 × 日本フィル VOL.3 第2夜 《交錯する音楽会》
Yoichi Ochiai & JPO Project Vol.3 Part 2. The Crossing Un-Orchestra
2019年 8月27日 東京芸術劇場 コンサートホール
2019/8/27 Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall
Reported by 大田美佐子(Misako Ohta)
Photos by 平舘平
写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団
受賞ラッシュとなった日本フィルと落合陽一のプロジェクトの続編、「落合陽一 × 日本フィル vol.3 – 交錯する音楽会」を体験した。ひとことで、予想していたよりも新鮮で、素晴らしい体験だった。日本のオーケストラというシステムも百年を目の前にしている。そのなかで、次世代のオーケストラ文化にとって「インクルージヴ」とは何なのかを、深く考えさせられた。20日の「耳で聴かない音楽会2019」もぜひ体験してみたかった、とつくづく思った。
二部の構成で、前半は「Un- Orchestra」と題して、近衛秀麿の《越天楽》、ヨハン・シュトラウスの《雷鳴と雷光》、そして小山清茂の《管弦楽のための木挽歌》が演奏された。オーケストラが舞台上で演奏することと、「場」の問題について考えさせられる曲目であった。後半は「交錯する音楽会」と題して、《展覧会の絵》マーラーの交響曲、ドビュッシーの《海》など、クラシック音楽のシンボルでもあるような珠玉の名曲の一部が、卓越した映像とともに演奏された。
最初の演奏、近衛秀麿の管弦楽編曲版の《越天楽》では、まず照明に衝撃を受けた。なんとも言えないあたたかみのある光で、親密かつミステリアスな空間が現出し、音が立ち上る。舞台の照明が違うだけで、音への向き合い方が変わることを実感した。感覚を開くことの新鮮さに加えて、オーケストラの演奏も素晴らしかった。管弦打、バランスの取れた先鋭を集めた「日本フィルの音」を堪能した。こういう特殊な企画では、指揮者の企画に対する理解の深さがものを言う。指揮者も演出家のひとりとして関わっているか否かが重要だ。その意味でも、海老原光の指揮は、全体の流れを捉えていて秀逸だった。クラシックのコンサートではプログラムに書いてある曲目を演奏するという前提があるが、プログラムにはすべての曲目が書かれているわけではない。この点も戦略的な試みのひとつだろう。観客は予定調和から解き放たれるために、曲順や曲目などは、かえって知らないほうがいいのかもしれない。
第二部は名曲と映像との響宴である。映像はオーケストラの楽器のひとつとして迎え入れられ、オーケストラとともに映像が動く。映像作家も演出家もスコアを吟味して、映像を制作し演出したという。個人的には、ムソルグスキーやドビュッシーでは、音楽と映像の表現としての新規性は感じられなかったが、マーラーでは、音楽と映像とが織りなす美しさに完全にノックアウトされて、心が揺り動かされた。
ただそれは筆者にとり、まったく新しい経験というわけではなかった。まず想い浮かんだのは、2008年に兵庫芸術文化センターで観たパリ・オペラ座の《トリスタンとイゾルデ》のビル・ヴィオラの映像表現、あるいはびわ湖のリングでのヘニング・フォン・ギールケの映像表現。オペラ、楽劇では、音の体験がより深まるような映像表現が求められるので、その映像表現の完成度が高ければ高いほど、ドラマの理解は深まる。
では今回の試みで何が新しかったのかを考えてみた。おそらく、「インクルージブ」の意味の理解が鍵となるのかもしれない。そこには、異業種間交流のような「コンサートを作る側」の包摂性と、様々なアプローチを許容する観客の包摂性のふたつの側面があるだろう。今回、「交錯する音楽会」の観客には、若者がとても多くみられた。ゲーム世代の若者を惹きつける巧みなしかけがあった。映像も音楽もこれだけのクオリティーがあれば、普段からゲームやアニメを通して視覚から大量の刺激を受けている若者世代にとっても、オーケストラの表現を新鮮に感じることができる緒にはなるだろう。「出会い」の順番は、音楽からでなくても、映像で解釈された名曲を通してでも構わない。そこから、新しい世代の音楽聴取にどんな発展があるのかは、未知数でも楽しみでもあるのだけれど。
最後に、こういう企画にはお金がたくさんかかることを考えた。新宿のカフェで久々に飲んだ抹茶ラテは1300円。一杯の飲み物にしては高額だ。それでも納得できたのは、絶景を楽しむことができる環境と、その食の質と、出された紙ストローにポリシーを感じたからだ。この贅沢なコンサートも、未来を見据えて、予算の問題にはさらなる工夫と社会の理解が必要かもしれない。そうして、未来を深く見据えるならば、これからもこのプロジェクトには明るい展開があるような予感がした。
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(2019/9/15)
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<出演>
演出:落合陽一
指揮:海老原光
ファシリテーター:江原陽子
ビジュアルデザイン:WOW
照明:成瀬一裕
日本フィルハーモニー交響楽団
<曲目>
小山清茂:管弦楽のための木挽歌
マーラー:交響曲第5番 第4楽章《アダージェット》
ドビュッシー:交響詩《海》より第3楽章「風と海との対話」
他
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◆ Performances by:
Hikaru EBIHARA (Comductor)
Japan Philharmonic Orchestra
Direction: Yoichi OCHIAI
Visual Performance: WOW
Creative Director: Kosuke OHO
Lighting: Kazuhiro NARUSE
◆ Program:
KOYAMA Kiyoshige: “Kobiki-uta” for Orchestra
Modest MUSSORGSKY (arr. Ravel):
Promedade -The Gnome from Suite “Pictures at an Exhibition”
Gustav MAHLER: Symphony No.5 4th movement “Adagietto”
Claude DEBUSSY “La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre,
III. Dialogue du vent et de la mer