ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1 オルフェオ物語|藤堂清

ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1《オルフェオ物語》
Leonardo da Vinci Festival in Kawaguchi Vol. 1 Fabula di Orpheo

2019年8月14日 川口総合文化センター・リリア音楽ホール
2019/8/14 Kawaguchi LILIA Music Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by ヒダキトモコ

<演奏>             →foreign language
オルフェオ:坂下忠弘
エウリディーチェ/メルクーリオ:阿部雅子
モプソ/ダ・ヴィンチ:黒田大介
プロゼルピナ/ドリアス/バッカスの巫女:中山美紀
プルート:彌勒忠史
アリステオ/ミーノス:上杉清仁
ティルシ:中嶋克彦
ドリアス/バッカスの巫女:赤地カレン
ドリアス/バッカスの巫女:乙顔有希
バッカスの巫女の頭:細岡ゆき
牛(舞踏):江澤淳泗

指揮:濱田芳通
管弦楽:アントネッロ
  ヴィオラ・ダ・ガンバ:石川かおり、品川聖
  リラ・ダ・ブラッチョ:天野寿彦、なかやまはるみ
  ルネサンスリュート:高本一郎
  サクバット:和田健太郎、栗原洋介
  リコーダー/ラウシュプフェイフェ/ドゥセーヌ/クルムホルン/コルネット:濱田芳通
  リコーダー/クルムホルン/ドルツィアン:古橋潤一
  パーカッション:濱元智行
  ヴァージナル/オルガン:矢野薫
  ルネサンス・ハープ:西山まりえ

<スタッフ>
演出:中村敬一
美術・原案:レオナルド・ダ・ヴィンチ
セットデザイン:タナカ・ミオ
照明:石川紀子
舞台監督:徳山弘毅

 

この日の指揮者、濱田芳通の著書に「歌の心を究むべし」という本がある。その中で、レオナルド・ダ・ヴィンチと音楽の関係にふれ、さらに彼が上演に関与した可能性がある劇作品《オルフェオ物語》について記述している。
アンジェロ・ポリツィアーノによる台本は残されており、筋書きは知ることができる。だが、どんな音楽が付けられ、どのように演じられていたのかという点に関しては情報がない。レオナルドの手稿には大道具に関するメモが残されており、愛弟子のアタランテ・ミリオロッティがオルフェオを務めたというのが、この作品と彼をつなぐ手がかりとなる。

濱田は、レオナルドと同時代の多くの音楽作品を用い、ポリツィアーノの書いたテキストをあてはめた替え歌によって《オルフェオ物語》を構成した。音楽祭のガイドブックの「演奏ノート」には各場面にどの音楽を使ったという詳細が書かれている。バロック・オペラにおけるパスティッチョの構成を見るようで興味深いものであった。
舞台にはレオナルドの手稿にある岩山を置き、それが左右に開くことで冥界につながることを示した。当時は舞台と客席の境は今ほど明確ではなかっただろうから、オーケストラと歌手が同じ平面にいることは自然なこと。歌手の動ける範囲も狭いし、同時に舞台に立つ人数も少なかっただろう。

オルフェオが蛇にかまれて死んだエウリディーチェを取り戻しにプルートの支配する冥界に行き、地上に戻るまで彼女をみてはいけないという条件のもとで返してもらうが、つい振り返ってしまい連れ戻すことができなかったという、よく知られたストーリー。モンテヴェルディやグルックのオペラもある。
違いは、エウリディーチェが亡くなるまでの経緯が長い。他のオペラでは登場しない、エウリディーチェに想いを寄せ、むりやり迫るアリステオの存在、彼と羊飼いたちの場面などがあること。そして、冥界からもどったオルフェオが他の女性を受け入れず男色にはしり、それに怒ったバッカスの巫女たちに八つ裂きにされるエンディングであること。
この公演では、レオナルド自身が舞台に登場、全体の枠組みの解説役を務めた。また、オルフェオの男色の相手としても舞台にあがった。

演奏面では、指揮者濱田のもと、管弦楽アントネッロのメンバーはそれぞれの楽器の特徴的な音を弾き、吹き、色彩感あふれる音楽をつくりだした。
歌手もみな粒ぞろい。
オルフェオの坂下は軽めのバリトン、爽やかな歌で聴き手を惹きつけた。プルートの彌勒はベテランのカウンターテナー、存在感たっぷりで舞台を引き締めた。プロゼルピナなど3役を務めた中山、役ごとに異なる表情を歌い分けた。エウリディーチェほかを歌った阿部のなめらかな声は古楽にふさわしいもの。

古楽の世界では、その演奏にあたって楽器の選定など奏者が決定しなければいけない事項も多い。しかし、もともとの楽譜がない音楽を作り出すというのは、もっともハードルが高いものだろう。濱田が各場面での音楽として、何故その曲を選んだのかということは書かれておらず、知ることはできないが、おおむね成功していたと思う。これだけの分量の音楽をテキストに合わせて選定するのは大変なことであっただろう。レオナルド・ダ・ヴィンチの音楽活動に迫ろうとする再創造の作業、感服の一言である。

筆者には、バッカスの巫女の凱歌、
Ognun segua, Baco, te!
Bacco, Bacco, euoè!
が耳に残った(もと歌はDomenico da PiacenzaのLeoncello(Ballo))。

演出面では、動ける範囲が狭いだけに、もう一工夫あると現代の目でみて楽しめるものになったのではないかと思う。

以下大まかな流れを写真で見ていこう。

第1幕
エウリディーチェに言い寄るアリステオ

無理やり想いをとげようとするが、彼女は蛇にかまれ死んでしまう

エウリディーチェの死をなげくドリアスたち

彼女の死を知り茫然とするオルフェオ
冥界の入り口に立つオルフェオ
第2幕:
冥界の王、プルート
プルートとプロゼルピナに訴えるオルフェオ
赦しが出て、エウリディーチェを伴って戻るオルフェオ
オルフェオが振り返ってしまい、冥界へ引き戻されるエウリディーチェ
男色にふけるオルフェオとレオナルド、それをみつめるバッカスの巫女たち
打ち取ったオルフェオの首を前に乱舞するバッカスの巫女

関連評:ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1 オルフェオ物語|大河内文恵

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<Performers>
Orpheo ( Sakashita,Tadahiro )
Euridice/Mercurio ( Abe,Masako )
Da Vinci/Mopso ( Kuroda,Daisuke )
Proserpina/Dryas/Baccante ( Nakayama.Miki )
Pluto ( Miroku,Tadashi )
Aristeo/Minos ( Uesugi,Sumihito)
Tyrsi ( Nakachima,Katsuhiko )
Dryas/Baccante ( Akachi,Karen )
Dryas/Baccante ( Otogao,Yuki )
II capo dei baccante ( Hosooka,Yuki )
Vitelin ( Ezawa,Atsushi ) 

Conductor ( Hamada,Yoshimichi )
Orchestra ( Anthonello )
  Viola da Gamba ( Ishikawa,Kaori & Shinagawa,Hijiri )
  Lyra da Braccio ( Amano,toshihiko & Nakayama,Harumi )
  Renaissance Lute (Takamoto,Ichiro )
  Sackbut (Wada,Kenichiro & Kurihara Yosuke )
  Recorder/Rauschpfeife/Doucaine/Crumhorn/Cornetto ( Hamada,Yoshimichi )
  Recorder/Crumhorn/Dulzian ( Furuhashi,Junichiro )
  Percussion ( Hamamoto,Tomoyuki )
  Virginal/Organ ( Yano,Kaoru )
  Renaissance Harp ( Nishiyama,Marie )