大阪フィルハーモニー交響楽団 第51回 東京定期演奏会|藤原聡
2019年1月22日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 青柳聡/写真提供:大阪フィルハーモニー交響楽団
<演奏>
ヴァイオリン:神尾真由子
指揮:尾高忠明
<曲目>
武満徹:『トゥイル・バイ・トワイライト』~モートン・フェルドマンの追憶に
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
(ソリストのアンコール)
パガニーニ:24のカプリース op.1~第24番
エルガー:交響曲第1番 変イ長調 作品55
2017年2月に井上道義の指揮で行なわれた第50回以来、2年ぶりの大阪フィル第51回東京定期演奏会は井上の後任として2018年4月より同フィルの音楽監督に就任した尾高忠明によって敢行された。今回のプログラム中、エルガーの『交響曲第1番』はこの指揮者にとって十八番中の十八番であり、今まで札幌交響楽団やNHK交響楽団、東京交響楽団などと演奏している。今回これを大阪フィルと持って来たのはやはり得意曲で同フィルの実力を東京で披露したい、いうことであろう。初めて接する尾高&大阪フィルの実演ではこの両者がどのようなコビネーションを聴かせてくれるのか楽しみなところである。
1曲目の武満からして、この両者は既に極めて高度の達成を見せる。尾高の指揮の下、稠密で色彩感のある大阪フィルの弦楽器が素晴らしい音色を聴かせるが(昔のこのオケを想像すると信じ難い進境ぶりだ)、一般的なこの曲のイメージからすればかなり表情的、もっと言えば肉感的とでも形容できる演奏のように感じた(数年前のアラン・ギルバートと都響はオケの性格もあろうが淡彩)。細やかなデュナーミクの変化、オケ全体の有機的な合奏の絡み合いは尾高と大阪フィルの意思疎通の賜物だろう。筆者は武満の音楽が必ずしも得意ではないが、この演奏には非常に引き込まれた。聴き易いという言い方が適切なのかは分からぬが、これが演奏の力。
神尾真由子を迎えてのブルッフでは、ソロが極めて大柄、濃厚な演奏を聴かせる。その意味では大変な聴き応えではあったのだが、ヴィブラートがいわゆる「ちりめんヴィブラート」的に聴こえてしまってそれが原因とも思われる全体の表情の単調さがいささか気になった。音自体も美しいというよりは若干の粗さを感じさせる。尾高と大阪フィルはソロと非常に呼吸の合ったていねいなサポートを展開しており、ソロには申し訳ないがオケの見事さにしばしば耳が行ってしまった。神尾の良さはむしろアンコールのパガニーニで発揮されたように思う。
いよいよトリのエルガーであるが、さすがに尾高という名演奏ぶりであった。尾高と先述したオケとの従来の実演は筆者も何度か聴いていてその都度感服させられたものだが、今回がもっとも骨太で熱気のこもったダイナミックなものだったと思う。もっとも、その熱気ゆえにオケが時々粗い音を出したり、トゥッティで全体が混濁気味になる瞬間がなかったとは言わないが、この演奏に漲る共感と気概の前では些細なことだ。殊に第3楽章のアダージョの深々とした歌は尾高がこの曲の演奏においてさらに深化していることの証左であろう。彼らには『交響曲第2番』もぜひ演奏してもらいたい。
終演後。何度目かのカーテンコールで聴衆の拍手をさえぎった尾高、「サントリーホールは素晴らしいホールですが、私たちが普段演奏している大阪のフェスティバルホールもまた非常に素晴らしいホールです」(正確さは保障しないが大意)とスピーチして再度満場の喝采、そして解散。粋なものであった。この日の充実の演奏の後にはアンコールがなくても何ら物足りなさはない。いつになるのかは存知上げぬが、大阪フィルの次回東京定期演奏会を楽しみに待とう。
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(2019/2/15)