注目のコンサート|2018年7月
♩7/1 オーケストラ・ニッポニカ第33回演奏会「アカデミズムの系譜」
日本近現代音楽を専門とするオーケストラ・ニッポニカ第33回演奏会は、「アカデミズムの系譜」と題して、戦争直後の東京音楽学校で教鞭を取り、フランス流の音楽を日本にもたらした池内友次郎に始まり、貴島清彦、島岡譲、矢代秋雄、野田暉行と、彫琢されたエクリチュールによる作曲を生涯追求した作家群を取り上げる。コンセプト重視の前衛音楽(その作家の多くはアカデミズム外で育ち活躍した)とは異なる日本現代音楽とその歴史を顧みる貴重な機会となろう。指揮は野平一郎、独奏チェロにルドヴィート・カンタ。
7/1@紀尾井ホール
http://www.nipponica.jp/concert/next_concert.htm
調布国際音楽祭に「バロック・ヴァイオリニストの女王」ポッジャーが登場。無伴奏ヴァイオリン作品によるアルバム『守護天使』からタルティーニ、マッテイス、アルバムタイトルとなったビーバーの『守護天使』、そして無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013をポッジャー自身によりヴァイオリン用に編曲したバージョンが取り上げられる。ここに同じバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番も加わり、500席という親密な空間で2時間弱、ひたすらポッジャーの至芸を堪能出来る貴重な時間が提供される。
7/1@調布市文化会館たづくり くすのきホール
http://chofumusicfestival.com/cmf2018/home/concert/rachel-podger/
チェンバロの魅力に様々な光をあてるチェンバロ・フェスティバル in 東京(芸術監督:曽根麻矢子)の第5回は<バッハへの道、バッハからの道>。バッハを基点にバッハ以前・バッハ以降の作品を通しチェンバロの変遷をたどる。
今回は「幻の楽器」リュート・チェンバロ(ラウテンクラヴィーア)の音が甦る。リュート・ソング全盛時代のパーセルやダウランドの曲とともに。カウンターテナー藤木の声とともに往時の響きに心を寄せたい。
7/1@浜離宮朝日ホール
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/event/2018/07/event1088.html
♩7/1、4、8、12、15、21,22 新国立劇場 開場20周年記念 ジャコモ・プッチーニ《トスカ》
新国立劇場の開場20周年である2017/2018シーズンの最後をかざる公演。人気演目ということもあり、アントネッロ・マダウ=ディアツの演出によるこのプロダクション、2000年9月の初演以来、8回目の上演となる。今回は新国立劇場とびわ湖ホールの提携公演として行われ、東京の後、21,22日にびわ湖ホールでも上演される。それもあり、新国立劇場合唱団とびわ湖ホール声楽アンサンブルの共演が注目される。キャストで目を引くのはキャサリン・ネーグルスタッドのトスカで、この役は世界の主要歌劇場で歌い絶賛されてきた「当たり役」。ホルヘ・デ・レオンのカヴァラドッシ、クラウディオ・スグーラのスカルピアと他の配役にも穴がない。指揮者には、若き俊英ロレンツォ・ヴィオッティをむかえる。2000年の際の指揮者がマルチェッロ・ヴィオッティ、50歳の若さで急逝したロレンツォの父であったことを思うと、この機会を逃がすわけにはいかない。
7/1,4,8,12,15 新国立劇場オペラパレス
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/9_009645.html
7/21,22@びわ湖ホール
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/2017/12/01/1-7.html
その滑らかな美声と美貌で聴衆を虜にするソプラノ、モイツァ・エルトマン。古典・ロマン派・現代と幅広い作品にしなやかに対応する音楽性を発揮し、我が国でもバッハ・コレギウム・ジャパンやN響との共演が記憶に新しい。今回のリサイタルではモーツァルトとメンデルスゾーンの2人に絞り込み、珠玉の歌曲群の美質を最良の形で示してくれることだろう。演奏会を締め括るKV528のコンサート・アリア(大作!)も楽しみだ。共演ピアニストはロジャー・ヴィニョールズからの変更でゲッツ・ペイヤー。
7/3@紀尾井ホール
http://www.kioi-hall.or.jp/20180703k1900.html
♩7/6、7 日本フィルハーモニー交響楽団 第702回定期演奏会
広上淳一が日本フィルへ登場し、2年前の定期以来となる尾高惇忠作品を指揮する。2016年の「ピアノ協奏曲」委嘱初演は、同団の<日本フィル・シリーズ>久々の新作としても注目を集めた。今回の交響曲「時の彼方へ」(初演は作曲家の弟・尾高忠明指揮の仙台フィル)ではどのような響きを紡ぐか。その尾高作品を挟む形で置かれるのが、モダン・オケ定期では今や珍しくなったJ.S.バッハ作品。不動の名作「管弦楽組曲第3番」、充実の声楽陣とおくる「マニフィカト」で、彼らならではの音楽に期待したい。
7/6,7@サントリーホール
https://www.japanphil.or.jp/concert/21744
♩7/6〜8 ミュンヘン・カンマーシュピーレ《NŌ THEATER》
劇作家で演出家、小説家として高い評価を受けてきた岡田利規が、2017年2月にドイツ有数の公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレで新作を発表した。《NŌ THEATER》と題した本作は、能の様式を用いながら資本主義に跳梁された現代の日本社会の闇を描いたもの。音楽は、現代音楽家、内橋和久が即興演奏で担当。今回はその日本公演となるが、なんと国内ではこの京都公演のみという。日本の伝統的な演劇形式を用いながら外部から照らし出される日本の姿を、ぜひ見てみたい。
7/6~8@ロームシアター京都・サウスホール
https://rohmtheatrekyoto.jp/program/7856/
2008年から2010年にかけ、トッパンホールでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行ったティル・フェルナーが、今度はシューベルトに挑む。(ツィクルス第1回は昨年12月の予定だったが、本人の故障により今回が初回となる)前述したベートーヴェン、シューマンなどでも深い洞察に基づく曲の組み合わせで魅せるピアニストだけに、今回取り上げられる4作からも新たな作曲家像が浮かび上がることだろう。「ウィーン出身=伝統的」という図式を敢えて排し、虚心に耳を傾けたい。
7/7@トッパンホール
http://www.toppanhall.com/concert/detail/201807071700.html
♩7/8 エリック・ハイドシェック with カメラータ・ジオン
コルトーにその才能を認められたフランスの名匠ハイドシェックの来日50周年記念特別公演。モーツァルトのピアノ協奏曲の第2楽章ばかりを集めたオール・モーツァルト・プログラム。第14、16、12、21番である。80歳を超えるこのピアニストが繰り広げるモーツァルトのアンダンテ世界・・・必聴だろう。共演は田部井 剛(指揮)、カメラータ・ジオン(室内アンアンブル)。
7/8@東京文化会館小ホール
http://www.concert.co.jp/concert/detail/1788/
♩7/11 東京現音計画 #10 コンポーザーズセレクション5
2012年に結成された「東京現音計画」の10回目の記念公演。ひとりの作曲家にプログラミングを託す「コンポーザーズセレクション」としては5回目となり、山根明季子がプログラム監修を務める。自らの作品の上演・新作初演に加え、オランダの作曲家ヤコブ・テル・ヴェルデュイ (ヤコブTV)、ドイツのヨハネス・クライドラーを紹介する。プログラムの最後に置かれたクライドラーはマティアス・シュパリンガーの弟子で、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会のクラーニヒシュタイン音楽賞も受賞している。国内外の新鮮な同時代作品の上演が楽しみだ。
7/11@杉並公会堂小ホール
http://tokyogenonproject.net/?p=667
作曲家・山本和智を中心に2009年に始まった特殊音楽祭とは、文字通り「特殊な音楽を皆で楽しもう」という祭である。今年は「電子・電気音楽特集」として、エレクトロニクスの達人・有馬純寿、木下正道&池田拓実&多井智紀のユニット「電力音楽」、そして山本和智が製作した、映像を演奏する楽器「ヴィデオロン」などが集められる。普通の音楽を期待することはそもそも祭の趣旨に外れる。現代日本音楽界の1つの極点を目の当たりにできるであろう。
参考リンク:ミュージック・クロスロード
http://mercuredesarts.com/2018/02/14/music_crossroad-taniguchi/
京フィル室内合奏団
http://mercuredesarts.com/2017/05/13/kyoto_phil_cham_notohara/
7/14@和光大学学生ホール
https://www.kokuchpro.com/event/tokuon2018/
♩7/14、15 東京交響楽団 オラトリオ「ゲロンティアスの夢」
『威風堂々』で知られるエルガーの傑作。この作曲家の3大オラトリオ(他2曲は『使徒たち』と『神の国』)の中では1番その名が通っているが、それでも広く親しまれているとは言えず、実演の機会も極めて限られる。それだけに今回かのジョナサン・ノットがこれを東響で取り上げることは僥倖だ。ヘンデルのオラトリオの系譜をエルガーはいかに継承したのか?
7/14@サントリーホール
http://tokyosymphony.jp/pc/concerts/detail?p_id=j3pX%2B1%2FS7rQ%3D
7/15@ミューザ川崎
http://tokyosymphony.jp/pc/concerts/detail?p_id=xFXJjuQBEsg%3D
フルシャの後任として東京都交響楽団の首席客演指揮者に任命されたアラン・ギルバート、その就任記念公演がこれ。シューベルトの交響曲第2番は「いい曲だから、ぜひ聴いて欲しい!」と指揮者が力説する佳曲、そしてメインはマーラーの『巨人』。後者のマーラーは2016年7月にアランが都響に客演した際に圧倒的な名演奏を聴かせた交響曲第5番に次ぐ演目で、これもひたすら期待が高まる。尚、当日の使用楽譜は現行版ではなく『花の章』が含まれる5楽章制のハンブルク稿であり、編成や楽想、オーケストレーションが異なる部分がある。これもまた楽しみではないか。
7/15,16 @サントリーホール
https://www.tmso.or.jp/j/concert_ticket/detail/detail.php?id=3156&year=2018&month=
♩7/18、20 日越外交樹立45周年記念ベトナム国立交響楽団2018
今、アジアのオーケストラが脚光を浴びつつあるが、この楽団の存在は日本ではまだそれほど知られていないかもしれない。すなわち、日越外交樹立45周年を記念して来日するベトナム国立交響楽団である。指揮をするのは、当楽団を率いてすでに17年となる音楽監督の本名徹次。ソリストに注目の若手チェリスト、宮田大を迎え、ドヴォルジャークのチェロ協奏曲と交響曲「新世界」を演奏する他、ベトナム人作曲家、チョン・バンの作品を披露する。ちょうど夏本番を迎える頃、南国ベトナムからやってくる音楽の熱さをぜひ堪能したい。
7/18@ザ・シンフォニーホール
http://www.symphonyhall.jp/?post_type=schedule&p=12872
7/20@サントリーホール
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20180720_M_3.html
♩7/18,19,21,22 東京二期会オペラ劇場 《魔弾の射手》
東京二期会オペラ劇場の公演、注目はペーター・コンヴィチュニーの演出だろう。2013年の《マクベス》以来で、5年ぶりとなる。ハンブルク州立歌劇場との共同制作となっているが、現地では1999年にプレミエ公演を行ったプロダクションである。それを本公演に向けてどのように改訂してくるか、コンヴィチュニーの指示がどのように浸透するか、といった点にも着目したい。指揮はアレホ・ペレス、ブエノスアイレス生まれの44歳、ザルツブルク音楽祭で《ファウスト》を振り、注目をあびた。宝塚出身の女優、大和悠河がザミエル役。どのような効果を生むことになるか興味深い。
7/18,19,21,22 東京文化会館 大ホール
http://www.nikikai.net/lineup/freischutz2018/index.html
恒例のN響「夏」公演、今年指揮を務めるのはフィンランドの名匠ユッカ=ペッカ・サラステ。一定年齢以上のN響ファンにはマーラー「第6番」が思い出されるだろうし、近年でもシベリウス「第2番」で雄大かつ緻密な名演を聴かせたのが記憶に新しい。現在ドイツのWDR響(ケルン放送響)のシェフを務める彼のブラームス、十八番のシベリウスで遺憾無くその手腕が発揮されるだろう。ヴァイオリン協奏曲で共演するのは才媛バイバ・スクリデ、今やベルリン・フィルの常連ソリストでもある彼女の描くシベリウスは大いに楽しみだ。
7/20 NHKホール
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=743
♩7/21〜8/12 フェスタサマーミューザKAWASAKI 2018
もはやクラシック・ファンにはすっかりお馴染みとなった夏のフェスタサマーミューザだが、今回も要注目公演がズラリ、中でも特に押さえたい公演を列挙する。オープニングとフィナーレのコンサートではノットと秋山和慶がそれぞれ登場、前者では大西順子が登場しての『ラプソディ・イン・ブルー』、そして実演ではまず聴けないであろうリーバーマンの『ジャズ・バンドと管弦楽のための協奏曲』が披露される。後者は「祝バーンスタイン生誕100年」と題され『キャンディード』抜粋と『ディヴェルティメント』が演奏されるが、ジョン・ウィリアムズのテューバ協奏曲にも注目。洗足学園音楽大学公演(指揮は秋山和慶)では『ボレロ』や『マ・メール・ロワ』を牧阿佐美バレヱ団や谷桃子バレエ団らが登場して「生演奏+バレエ」で聴かせ、そして見せる。『サマーナイト・ジャズ』と読響の『シネマ&ポップス』では前者に小野リサが、後者には森山良子がゲスト出演。都響はミンコフスキによる『くるみ割り人形』全曲、藤岡幸夫&日本フィルではラフマニノフの交響曲第2番をヴァレンベルクがピアノ協奏曲にアレンジした「協奏曲第5番」(ソロは反田恭平)の日本初演。ここで触れなかった公演も何らかの意味で話題大、チェックされたし!
7/21~8/12@ミューザ川崎シンフォニーホール
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
♩7/24 山根一仁vn、上野通明vc、北村朋幹pf vol.1
トッパンホールが育てた秘蔵っ子たち3人、山根一仁vn、上野通明vc、北村朋幹pfがピアノ・トリオのシリーズを開始。ベートーヴェンのピアノ・トリオを軸に毎回奏者たちが選曲とのこと。その第1回はショスタコーヴィチ、ベートーヴェン、ブラームスの「第1番」で幕開けとはいかにも清新だ。ピチピチの3若衆が3人の偉大な作曲家たちの若き日をどのように描き上げるか。暑さも忘れる魂の「灼熱」ステージが現前に違いない。
7/24@トッパンホール
http://www.toppanhall.com/concert/detail/201807241900.html
西川竜太率いる現代日本合唱界の精鋭・ヴォクスマーナ第40回定期演奏会は、巨匠にしてその実験精神老いる事なき松平頼暁を始めとして、彼の精神を継ぐが如き異才を集め、全曲委嘱新作・初演に挑む。平石博一、南聡は(意外なことに)ヴォクスマーナ初登場。さらに知る人ぞ知る鬼才・池田拓実の新作も楽しみだ。
7/24@東京文化会館小ホール
http://vox-humana.wixsite.com/vox-humana/concerts
♩7/30 アンサンブル金沢 第405回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2018年9月よりオーケストラ・アンサンブル金沢の芸術監督に就任するミンコフスキ、同オケと待望の東京公演、しかも演目はドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』。7月30日に地元金沢で演奏したのち東京へ持って来る次第だが、表層的なストーリー展開よりも登場人物の内面的・心理的変遷が重要となる『ペレアス~』であるだけにコンサート形式による上演にはうってつけであろうし、共同で舞台製作を行なうボルドー国立歌劇場から地元の歌手陣を招聘するだけにこの極めてフランス的なオペラの最上の上演が望めよう。ミンコフスキのイマジネイティヴな指揮に最大限の期待。
7/30@石川県立音楽堂
http://www.oek.jp/event/1045-2
8/1@東京オペラシティコンサートホール
http://www.oek.jp/event/1046-2