撮っておきの音楽家たち|ルース・スレンチェンスカ|林喜代種

ルース・スレンチェンスカ(ピアニスト)

2018年4月21日 サントリーホール
photos & text by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

現役93歳のピアノ奏者。東京では初公演。屈託のない笑顔を時折り見せながら、長時間のリハーサルを緊張感を持って終えた。本番もその笑顔を絶やさず2時間を弾き切る。その演奏は全ての無駄を削ぎ落とし本質に迫るすっきりした演奏で聴く者を魅了した。特にベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」の演奏は圧巻だった。1925年アメリカ、カリフォルニア生まれ。3歳でヴァイオリニストの父からピアノの手ほどきを受け、4歳で公開演奏、5歳でカーティス音楽院に入学。6歳でベルリン、8歳でニューヨークデビュー。9歳のとき急病のラフマニノフの代役を務める。14歳までにヨーロッパ、アメリカ全土で演奏するもスパルタの父に反発して19歳で家出をして、カリフォルニア大学バークレー校で心理学を学ぶ。26歳の時ステージにカムバック。以後40代後半まで全世界で3500回を超える演奏とCD録音。サウス・イリノイ大学レジデンス・アーティストとして演奏を続けながら教育にも力を注ぎ多くの優秀なピアニストを育てる。自らはホフマン、ラフマニノフ、シュナーベル、バックハウス、コルトーなどの巨匠に学ぶ。日本へは2003年78歳で初来日。2017年まで9回来日、岡山で多くのコンサートを行なう。また「昨日までの私の演奏は忘れて下さい。今日の方がさらに良いから」など示唆に富む言葉を発している。プログラムにあるスレンチェンスカ語録を紹介。「どんな人にとっても一日9時間ピアノの前に座って練習するのは正常なことと言えますか?しかも一番難しいことは練習することではなく、そのような苦しい練習のあとでもまだ音楽が好きでいられることです」「音楽の学習はまず‘聴く‘ことから始めなくてはいけません」「わたしは過去には一切関心を持たない。私が一番興味を持っているのは将来のことだけです」「もしあなたが二流のピアニストでいいと思ったら、永遠に二流のままでしかない。わたしですか?私は二流になりたくないが、私は他の人と比較しません。私は一番良かった自分としか比べません。もし今日の出来が良かったのなら次はもっと良くなるはずです」「若者よ、楽しみなさい、前進せよ、そしていつも微笑みを持って!」「老いは成長の始まりなのです」 ルース・スレンチェンスカの第一印象は手に張りがあり若々しく美しく若い人の手を見ている(写している)ようだった。

(2018/5/15)