Menu

KYOHEI SORITA Produce MLM Double Quartet|丘山万里子

KYOHEI SORITA Produce MLM Double Quartet

2018年3月1日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
Photos by 荒川潤/写真提供:日本コロムビア、イープラス

<演奏>
pf:反田恭平
vn:岡本誠司、大江馨、小林壱成、桐原宗生
va:有田朋央、 島方瞭
vc:伊東裕、森田啓佑

<曲目>
ショスタコーヴィチ:弦楽八重奏のための2つの作品
  小林、桐原、大江、岡本、有田、島方、森田、伊東
チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出
  大江、反田
ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第1番「悲しみの三重奏曲」
  岡本、森田、反田
〜〜〜〜〜〜〜
R・シュトラウス:弦楽六重奏のためのカプリッチョ
  大江、桐原、島方、有田、伊東、森田
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番より 第3楽章
  岡本、小林、有田、伊東
J.S.バッハ:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052
  Cond/pf 反田、岡本、大江、桐原、小林、有田、島方、伊東、森田

(アンコール)
反田恭平:Tender… For MLMDQ(世界初演)

 

2012年桐朋音高在学中に日本音楽コンクール優勝、2014年モスクワ音楽院に留学、2016年サントリーホールでのデビューリサイタル3日間チケット完売とブレイク街道爆進中の新進ピアニスト反田恭平24歳。その彼のプロデュースで、今、最も生きのいい弦の8人が顔を揃えてのダブル・カルテット、同世代アンサンブル(20歳から26歳まで)とは聞き逃せない。
MLMは「音楽を愛する青年たち」を意味するロシア語の頭文字とのこと。
会場は若い女の子たちがいっぱい、加えておばさまたちで何やら華やぎムード。ほぼ満席に近い。さて、この人気はどこから来るのか。

弦の8人はみな桐朋、東京藝大に学び、日本音楽コンクールなどで顔を合わせ、ドイツ、オーストリアに留学中もいれば、オケで弾いている人もおり、反田と親しいメンバーばかり。まさにこれからの日本を背負う俊英集団である。
各人については、それなりに接してきたものの、こんな風に揃うのを聴くのは初めて、期待大だ。

ショスタコーヴィチの10代の若書きの2つの小品。
プレリュード、まずは彼らの鋭利な弓使いが発する目の詰んだ響きのラインのシャープさにゾクッとする。と思うと、ショスタコらしい抒情のメロディアスな流れに、時折不協和の軋み。青白い青春の息遣いが聴こえてくる。友人の死への追悼とされるが、静けさの中に漂う鈍い痛みのようなものがひたひた滲み寄せ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各声部の絡みが美しい。
スケルツォは冒頭からジグザグ幾何学模様のダイナミックな動きで加速、鋭く刻まれるリズム、むき出しの肌を爪でなぞるようなグリッサンド、不協和があちこち点滅。激しい音の身振りに作曲家の「前衛」への欲動がみなぎり、前のめりの覇気がそのまま奏者8人に満ち満ちて、期待通り。第1vn小林の要所要所での引き締めも効いた。

チャイコフスキーは、大江のリリカルな歌を優しいタッチで盛り立てる反田のピアノに、ほう、と感心。ピアニストはたいてい鳴らし過ぎが多いので(若い人は特に)。

ショスタコ同様、こちらもラフマニノフ10代の作品『悲しみの三重奏曲』。
チェロとヴァイオリンの漣にそうっと載ってゆくピアノのテーマ、上向音形が波状にやるせなく感傷を上塗りしてゆく。それぞれの楽器が大きな振れ幅で浮沈するドラマティックな構成、ここでは反田がラフマニノフらしい華やかなピアニズムを披露。終尾、葬送の重い足取りとともに消えてゆく弦の調べの寂寥には聴かせるものがあった。
つい思い出したのは、やはりモスクワで学んだ入江一雄pfと小林、伊東が昨年組んだステラ・トリオで聴いたチャイコフスキーの『偉大な芸術家の思い出に』の大熱演。その『偉大な〜〜』をもとに書かれたこの三重奏曲だが、作曲家それぞれの作曲時期、音楽スタイル、核になるピアニストの技量、ロシアのロマンとは、などなど考えもしたのだった。

後半はベートーヴェンが出色。静謐なハーモニーの移ろいを繊細に聴かせ、時折、心の裡を訴えるようなひそやかな声が各人から漏れてくる。胸をしんとさせる秀演であった。
その前に弾かれたシュトラウスは精緻なアンサンブルではあるものの、色彩が不足。

最後のバッハは全員揃っての反田の弾き振り、当夜のメインと思われるが、メリハリを効かせた反田のドライビングに応えた颯爽たるバッハであった、とだけ言っておく。

この一夜に、反田のピアニストとしての人気の所以を探るのは難しい。
だが、若いながらにこのような企画を実現させる行動力は立派で、おかげで日本の若手旗手たちを堪能できた(トップを誰が取るかも含め、アンサンブルの妙も楽しめた)。
あまりしゃしゃりでない姿勢は(司会をになったが、多弁を弄さずメンバーを引き立てた)好もしい。
アンコールに自作曲はファン・サービスでもあろうが、なくもがな。

私はこの種の人気沸騰には距離をおく方だが、あっけらかんとMCで各自、番宣する若いメンバー、屈託なく笑う客席のこだわりのなさに、コマーシャリズム云々と目くじら立てず、こんなふうに若い同世代演奏家が集まれる機会をたくさん作り、老若たくさんの人に聴いてもらうのがまずは大事かも、と、気分がほぐれたのは確かだ。

 (2018/4/15)