室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『フィガロ』!|藤堂清
2018年3月21日 第一生命ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 池上直哉/写真提供: トリトン・アーツ・ネットワーク
<出演>
ケルビーノ、バルバリーナ&日本語台詞台本・構成・演出:林美智子(メゾソプラノ)
アルマヴィーヴァ伯爵:加耒 徹(バリトン)
伯爵夫人:澤畑恵美(ソプラノ)
フィガロ:黒田博(バリトン)
スザンナ:鵜木絵里(ソプラノ)
バルトロ:池田直樹(バス・バリトン)
マルチェリーナ:竹本節子(メゾソプラノ)
ドン・バジリオ、ドン・クルツィオ:望月哲也(テノール)
アントニオ:晴 雅彦(バリトン)
ピアノ:河原忠之
<曲目>
モーツァルト作曲 オペラ《フィガロの結婚》より
〈序曲〉
第1幕
〈5…10…20…〉(小二重唱)
〈もし夜中に奥様がお呼びになれば〉(小二重唱)
〈どうぞお先に、まばゆい奥様〉(小二重唱)
〈何だと!すぐ行って〉(三重唱)
——————(休憩)——————-
第2幕
〈スザンナ、出ておいで〉(三重唱)
〈開けて、早く開けて〉(小二重唱)
〈この悪たれ小僧、早く出てこい〉(フィナーレ)
——————(休憩)——————-
第3幕
〈この抱擁でわかっておくれ〉(六重唱)
〈そよ風に寄せて(手紙の二重唱)〉(小二重唱)
〈行進曲だ・・・さあ行きましょう〉(フィナーレ)
第4幕
〈そっと近づいてってやろう〉(フィナーレ)
2年前にメゾソプラノの林美智子がプロデュースした「林美智子90分の『コジ』!」、モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》から重唱だけを取り出し、舞台の進行は日本語のセリフで進めるというもの。第一生命ホールという800席に満たない空間にフィットし、好評だったようだ。この日はその第2弾、「室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『フィガロ』!」と題して、《フィガロの結婚》からアンサンブル部分のみを取り出して上演。客席も巻き込み、楽しいひとときとなった。
舞台上にはピアノと椅子が数脚置かれている。ピアノの河原が序曲を弾き始める。スザンナとフィガロの小二重唱、間をセリフでつないで二曲続く。本来バルトロのアリアで歌われる内容は、彼が言葉で説明。マルチェリーナとスザンナが互いに相手をやりこめようとする重唱が始まる。その後のスザンナとケルビーノ、伯爵、ドン・バジリオとのやりとりはやはりセリフ。ケルビーノが見つかった後の三重唱で第一幕は終わり。
ケルビーノとバルトロは、舞台にあがり会話を交わしたり、場面の状況説明をしたり、ケルビーノにいたっては床の上で背を丸め椅子となって伯爵に座られたりといったように、歌う場面はなくとも大活躍。
普段オペラで使われる劇場に較べ小規模なホールだけに、みな力みもなく相手の声としっかりと合わせている。セリフは日本語で、よく考えられていて、短い中でストーリーを伝えるものとなっている。
歌手は舞台のそでからだけでなく、客席の後ろや脇の入り口からも登場。客席の中でしゃべり、演技する。すぐ目の前で展開する動きに近くの客は大喜び、笑いがあちこちであがる。
第2幕の冒頭は、伯爵夫人、スザンナ、フィガロ、ケルビーノ、伯爵、と登場人物は増えていくが、アリアやレチタティーヴォはセリフで置き換えるという方針どおり歌はなしで演技のみ。それでもきちんとストーリー展開がわかるように作られている。音楽は、伯爵、伯爵夫人、スザンナの三重唱からようやく始まる。続く〈開けて、早く開けて〉というスザンナとケルビーノの小二重唱、ケルビーノが歌うのはここが初めて。終わると舞台から飛び降り、客席を駆け抜けていく。フィナーレでは、伯爵、伯爵夫人から始まり、徐々に舞台上がにぎやかになる。アントニオには晴雅彦に遠方から来てもらったとのこと、まさに適役、歌、演技、セリフで、他の歌手とはちがう雰囲気をつくりだす。
第3幕と第4幕はひとまとまりで演奏された。裁判が終わった場面、フィガロがバルトロとマルチェリーナの息子と分かった場面から始まり、〈手紙の二重唱〉をはさんで、両幕のフィナーレという構成。結婚式の場面における花娘二人、一人はケルビーノの林が歌ったが、もう一人はなんとアントニオ役の晴。なんとも大胆。これには客席も大盛り上がり。
若手、中堅、ベテランのチームワークもすばらしく、音楽面はしっかりと聴かせてもらった。どの歌手も個性を持ちながら、他の歌手とのバランスをとることができており、ハーモニーの美しさを味わせてくれた。今後に期待するという意味で、伯爵を歌った加耒徹の明るい声とスタイリッシュな歌に感心したことを記しておきたい。
ピアノの河原の熟練の技にも拍手。ときおりアリアの一部や他の曲の一節をまじえるなどして楽しませてくれた。
アンサンブルだけ抜き出してオペラを上演するという方法、どんなオペラでもできるとは思えないが、《フィガロの結婚》では、舞台進行の上でも、音楽的にも満足できるものであることを示してくれた。日本語台詞台本、構成、演出を一人で担った林に賛辞を捧げたい。
こうなったら、モーツァルトのダ・ポンテ3部作の残り、《ドン・ジョヴァンニ》をとりあげないわけにいかないだろう。
第1幕、第2幕ともフィナーレはアンサンブルだし、場面ごとに重唱は多い。アンサンブルの中で合唱も必要になることと、第1幕のエルヴィーラのアリアからレポレッロの〈カタログの歌〉までの処理が難しいところではあるが。林のアイディアを楽しみにしよう。
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