カルテット・アロド演奏会|藤原聡
2017年12月14日 王子ホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
カルテット・アロド
Vn:ジョルダン・ヴィクトリア、アレクサンドル・ヴ
Va:コランタン・アパレイー
Vc:サミー・ラシド
<曲目>
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421
バンジャマン・アタイール:弦楽四重奏のための『アスル』(午後の礼拝)
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 Op.13
(アンコール)
メンデルスゾーン:弦楽四重奏のための4つの小品 Op.81~カプリッチョ
2013年に結成というからまだ4年ほどの団体歴しかないカルテット・アロドは、2014年にFNAPECヨーロッパ・コンクールで第1位を、2015年にはコペンハーゲンで行なわれたニールセン国際室内楽コンクールで1位を(同時にカール・ニールセン賞及び新作演奏賞を)、そして2016年には難関のミュンヘン国際コンクールでも優勝している。一般的に言えばコンクール入賞はあくまで「過程」だろうし、真に成熟した音楽を奏でるにはここからがスタートと思う。また、これで直ちに大活躍出来るというものでもないだろうが、それでもなおその入賞歴は華麗と言うしかない。喩えて言えば既に履歴書で圧倒されるという感じだ。さて。
モーツァルトの『第15番』で幕を開けた当夜のコンサートだが、かすれたようなソット・ヴォーチェからの導入で早くもその独特のセンスが感じ取れる。比較することに意味があるとも思われないが、どうしたってつい先日聴いたエベーヌ弦楽四重奏団と似たものを感じざるを得ない(後でプログラムを見れば、彼らはエベーヌの元ヴィオラ奏者であるマチュー・ヘルツォクに師事したとのこと)。独墺系の団体からは聴けない類の妖しい色合いを辺りに振り撒く。この団体を実演で聴いてすぐに気が付くのは、弱音の繊細さと相反するようだが音の大きさだ。また、合わせることにまるで汲々としておらず、それぞれがソリスティックに振舞ってそれでもなお不思議な調和を見せる、といった類の何とも形容が難しいアンサンブルであること(これまたどうしたって比較してしまうのが5日しか間を置かないで聴いたカルテット・アマービレである。まるで対照的なのだ。アロドとアマービレは同じ2016年のミュンヘンで入賞しているのでなおさら)。
また、この演奏はいわゆるモーツァルトっぽくない。繰り返しで表情が大きく変わるし、思いがけない箇所で内声を強調する(特に2ndの強力なこと…)。古典的な演奏とは全く言えないが、と言っても好き勝手にやっているのとも違う。エベーヌもそうだが、弦楽四重奏の演奏の最先端はもはやこういう域に達しているのだ。古色蒼然としたジャンルと思われがちな弦楽四重奏も着実に進化している。人によってはやり過ぎと感じるかも知れないが、筆者は非常に面白く聴いた。
2曲目は、フランスの作曲家バンジャマン・アタイールが2017年にカルテット・アロドのために書いた2017年の最新曲。プログラムによれば「イスラム教の午後の礼拝の模様を描いた大作」。とは言え礼拝、というイメージから想像される静謐さとはまるで大違いの激しい曲で、バルトークを思わせる箇所も。まさにアロドの持ち味を最大限に生かすために作曲されたと見てよい。全体は4部に分かれるが続けて演奏され、ことに第4部の激烈なフーガは圧巻。頭でこねくりまわしたような音楽ではなく生理的に「ノレる」曲ゆえ、いわゆる現代作品とは趣がまるで違う。お陰で終演後は大喝采。
さて、前半で既にグッタリするような猛烈な演奏を聴いた後の後半では爽やかに…という訳にも行かず、鋭角的なメンデルスゾーンの『第2』(これがまたアマービレと同じ曲なのだ)。極めてスタイリッシュな演奏で、メンデルスゾーンの初期ロマン派的な純朴さとは全く異なる演奏が展開されている。その意味で聴き応えがあったのは推進力に富んだ(富み過ぎ?)両端楽章であり、次いで第3楽章のインテルメッツォ(単純とも言えるこの音楽が多彩な表情を纏って耳に次々飛び込んで来る!)。但し第2楽章のアダージョはもっと内省的な表情が欲しくなった、と素直に告白しておく。アンコールは同じくメンデルスゾーンの弦楽四重奏のための4つの小品から『カプリッチョ』。これは彼らのスタイルが曲によく合っていて素晴らしかった。
総じてこのカルテット・アロド、繊細さもあるが多くの最先端の団体らしくいかにも洗練されて切れ味がよく、全てが割り切れて晦渋なところが全くない(しかし若い世代でもパヴェル・ハースSQのようにより複雑な味わいのある多層的な音楽をやる連中もいるので、まとめては論じられないとは思うが)。その意味では「とっつき易い」とも言えるだろうが、他方弦楽四重奏としては違和感がある、という向きもいるかと思う。筆者はその中間くらい(?)。でも、このジャンルに興味があるのなら聴いてみねばなるまい。その実力はやはり瞠目すべき物だから。
関連評:カルテット・アロド |小石かつら
(2018/1/15)