紀尾井 明日への扉18―カルテット・アマービレ|藤原聡
2017年12月19日 紀尾井ホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
カルテット・アマービレ
Vn篠原悠那、北田千尋、Va中恵菜、Vc笹沼樹
<曲目>
デュティユー:弦楽四重奏曲『夜はかくの如し』
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 Op.13
シューベルト:弦楽四重奏曲第14番 ニ短調『死と乙女』D810
(アンコール)
シューベルト:弦楽四重奏曲第12番 ハ短調『四重奏断章』D703
難関としてあまねく有名なミュンヘン国際音楽コンクール。その弦楽四重奏曲部門と言えば、われわれ日本人には未だに1970年の東京クヮルテット優勝、というのが近しい話題であろう。当時これがいかに驚きを以って迎えられたかは様々に語られているところだが、時代は大きく下って2016年、同コンクールにおいて3位入賞並びに特別賞を受賞したのがこのカルテット・アマービレである。桐朋学園大学在籍中に結成された同団体はメンバー全員がまだ20代前半という若さであり、それだけにミュンヘンでの3位入賞はまさに快挙と言ってよいだろう。筆者は今回初めてその演奏を聴く。尚、当夜の演奏曲目は全てミュンヘンのコンクールで演奏した曲の中から選んだものとのこと。
雰囲気作りのためにステージの照明を落とし、譜面台の青いライトだけで演奏された1曲目のデュティユーからして、なるほど非常に精密な演奏で好感。音も美しい。特に薄いテクスチュアからなる箇所では楽器間の精妙なバランス調整が巧みで構成感もしっかりとしている。総じてこの曲の美しさをよく引き出していたように感じる。
第2曲目はメンデルスゾーンの『第2番』であるが、こういう古典的でオーソドックスなレパートリーになると彼らの巧みさと共に現段階での「弱点」も垣間見える。デュティユー同様精緻さはここでも変わらず、その意味では聴き応えある演奏と言えるのだが、何より4人それぞれの主張が弱い。合わせること自体が主眼となっているような「模範的かつ優等生的な」アンサンブルになっており、それゆえ表現も単調に傾く気配なしとしない。
可憐さとすばしっこさの同居した第3楽章の「インテルメッツォ」でも主部の歌がいささか単調で、かつ中間部とのテンポと力感の変化もあまり活きておらずに全体としてノッペリと聴こえてしまう。終楽章導入のレチタティーヴォ風走句はかなり迫力があったが、それでも線が細いように感じる。全体として細やかかつ爽やかで精緻な点は好感大であるが、より線の太さと表情のメリハリがないと全体の印象が単一のものとなってしまう。この点は今後の課題のように思えた。
尚、当コンサートの5日前にはアマービレが3位入賞を果たした先述の2016年ミュンヘン国際コンクールで優勝したカルテット・アロドの演奏に接したのだが、そのアロドも偶然にもメンデルスゾーンの『第2』を演奏したのだ。恐らくコンクールのために練り上げた曲を持って来たがゆえの一致だと思うが、演奏傾向が正反対で非常に興味深い。
休憩後は『死と乙女』。ここではメンデルスゾーンで指摘した弱点がより顕著になる。ここでも非常にまとまりと見通しの良い演奏を聴かせてくれた点は素晴らしかったのだが、やはり踏み込みが弱い。各奏者の「顔」が見えにくい。「個」と「全体」のバランス、と言う点で考えれば、恐らくは「全体」への意識が前面に出る余り「個」が生きてこない。以上、何だか本田圭佑の物真似をする某お笑い芸人の言い草のようだが(苦笑)、サッカーとクラシック音楽におけるアンサンブルが非常に似ているのは言うまでもない。チェロの笹沼樹(たつき)によるスピーチの後、アンコールに『四重奏断章』。伸びやかな演奏が見事だった。これは満足した。
カルテット・アマービレの卓越した実力は現段階で既に紛れもないが、これからさらに上を目指して欲しいと思う。今後継続的に実演に接して行きたい団体だ。
(2018/1/15)