東京交響楽団 モーツァルト:《ドン・ジョヴァンニ》|藤堂清

モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》全2幕(演奏会形式・日本語字幕つき)

2017年12月10日 ミューザ川崎シンフォニーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>
指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
演出監修:原 純

<キャスト>
ドン・ジョヴァンニ:マーク・ストーン
騎士長:リアン・リ
ドンナ・アンナ:ローラ・エイキン
ドンナ・エルヴィーラ:ミヒャエラ・ゼーリンガー
レポレッロ:シェンヤン
マゼット:クレシミル・ストラジャナッツ
ツェルリーナ:カロリーナ・ウルリヒ
ドン・オッターヴィオ:アンドリュー・ステープルズ
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平
管弦楽:東京交響楽団

 

東京交響楽団(以下、東響)によるモーツァルトの歌劇《ドン・ジョヴァンニ》、演奏会形式による上演。9月にNHK交響楽団(以下、N響)がやはり演奏会形式で取り上げており、聴き比べるかたちになった。

この日の演奏では、ティンパニやホルンなどに時代楽器を使用し、レチタティーヴォの通奏低音にはハンマーフリューゲル(チェンバロやモダン・ピアノではなく)が用いられた。オーケストラは6型と小規模で、管楽器も二管編成。
このような古楽からのアプローチにふさわしく、全体的に快速なテンポがとられた。東響もジョナサン・ノットの指揮によくついていったが、慣れない楽器のためか多少のミスがみられた。それでも、ティンパニの乾いた音やナチュラル・ホルンのひなびた音には、モダン楽器にはない魅力があった。
N響と較べると、オーケストラの音の厚みや伸びという面ではたしかに差があるのだが、それも演奏スタイルが異なるためであり、どちらが良いといえるものではないだろう。

主役の二人、ドン・ジョヴァンニとドンナ・エルヴィーラが直前に交代したことも影響しただろうか、すべての役が粒ぞろいというわけにはいかず、多少のでこぼこがあった。とはいうものの代役も含め、これでは困るというような歌手はおらず、一定のレベルは保っていた。一方のN響が知名度の少ない若手中心で、それが魅力となっていたのと比較すると、少し安全サイドに寄ったキャスティングであったように感じる。
個々の歌手の印象を少し書いておこう。
ドン・ジョヴァンニのマーク・ストーン、1969年イギリス生まれ、キャリアも長く、オペラ、歌曲でも実績がある。急な代役にもかかわらず安定した歌を聴かせた。ジョヴァンニの貴族としての側面に重点がおかれた役作り。
ドンナ・アンナを歌ったローラ・エイキンは50代半ばの大ベテラン、コロラトゥーラの技術はしっかりとしており、第2幕のアリアを見事に決めた。
ドンナ・エルヴィーラのミヒャエラ・ゼーリンガーはもともとメゾ・ソプラノであるが、高音も強く、音色が多様で、揺れ動く心を表現した。

舞台上のオーケストラの前後にできる空きスペースを使い、歌手にも動きを付けていた。N響の場合と異なり、舞台を取り巻くように客席があり照明を使うことができないというのが演出面では不利な条件となっていた。
印象に残ったのはドン・ジョヴァンニの地獄落ちの場面、騎士長に強制され自らピストル自殺し、そのまま残された彼の体の前で6重唱が歌われる。その途中でジョヴァンニは起き上がり、皆の前を歩き、去っていく。どうも、最近の演出家はドン・ジョヴァンニの再生がお好きなようだ。

古楽アプローチを徹底したことや、実績のある歌手を中心としたキャスティングなど、全体として、指揮者ジョナサン・ノットの考えが貫かれた良い上演であった。彼自身が弾いたハンマーフリューゲもレチタティーヴォに弾みを与えていた。

最後に気になったことを。
プログラムに「ノーカット版」という断りがあり、通常の上演との差異に注目していた。
このオペラ、プラハで1787年に初演され、その翌年ウィーンで上演されている。ウィーンのために新たに付け加えられた曲が三曲あり、通常の公演ではそのうち二曲は演奏されることが多い。この日はそのうち第1幕のドン・オッターヴィオのアリアは演奏されたが、第2幕のドンナ・エルヴィーラのアリアは演奏されなかった。そのほかでは、歌われることの少ないレチタティーヴォの一部が復活されていた。
近年ではプラハ版、ウィーン版と明らかにして上演される機会もあり、今回どちらかを選択して、そのノーカット版を演奏するのかと考えていたので、そこまで徹底されていなかったことは少し残念。

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