みなとみらい クラシック・マチネ 伊藤亜美vn&佐野隆哉pf|丘山万里子
みなとみらい クラシック・マチネ
伊藤亜美 vn & 佐野隆哉 pf
2017年9月20日 横浜みなとみらい小ホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
Photos by 藤本史昭/写真提供:横浜みなとみらいホール
<演奏>
伊藤亜美vn
佐野隆哉pf
<曲目>
サン=サーンス:ハバネラOp.83
ドビュッシー:12のエチュード 第2集
第7曲〜第12曲
マスネ:タイスの瞑想曲
ラヴェル:ツィガーヌ《演奏会用狂詩曲》
〜〜〜
アンコール
ポンセ:エストレリータ
平日の午後、ガラス張りのロビーから海が見える。降り注ぐ柔らかい日差し。ウッドデッキの屋上庭園(ホワイエ)にはくつろぐ人の姿。
みなとみらいの小ホール、私は実は初めて。堂々たるオルガンを据える大ホールとは違った趣になんとなくリラックスした気分になる。
三々五々集まってくる年配客はカジュアルな人もいれば気合の入ったお洒落婦人もいて、ほぼ満席だ。
第1部は12:10開演、第2部14:30開演で、私はその第2部を聴く(1日券1800円、各部1000円とはありがたい)。
伊藤は東京藝大卒後ローザンヌ、マンチェスター、グラーツで学び、2013年カール・フレッシュ国際ヴァイオリンコンクール第2位。
佐野は東京藝大からパリ国立高等音楽院に学び、2009年ロン=ティボー国際コンクール第5位など。
二人とも内外でソロに室内楽に活躍する若手実力派のコラボである。
最後のラヴェルに聴きごたえがあったのは、曲の性格から言って当然だろう。伊藤の本領発揮というところだろうか。
長いソロ部分でのたくましい低音と確かな技巧、充実した重音の鳴り、切れ味の鋭さとロマ(ジプシー)特有のある種の叫びまで、たっぷりと聴かせる。過剰な演出がないところに、この人の自信の表れを見る。
ピアノが入ってからの両者のスリリングな展開、めくるめく表情の変化は原色の絵の具でぱっぱとシーンを塗り替えるような鮮やかさがある。太く波打つ線描もあれば、投げつけられる礫(つぶて)もあり。終盤での二人の白熱の追い込みに客席の息もどんどん荒くなり、最後の一音、弓を宙に放った途端の熱烈なブラボーもむべなるかな。
その火照りを鎮めるように弾かれたアンコールのポンセがまた愛らしく洒脱で、この二人の音楽性が自然に滲む佳品だった。
佐野のドビュッシーは第7曲<半音階のために>でのコロコロ転がる音の粒立ちの美しさや第9曲<反復する音符のために>での弾みっぷりと跳躍音型の打鍵のキレが印象的。ただ、一つ一つのタブローを描き分けるに音色にもっと多彩が欲しい。エチュード、とはそういう意も含まれようから。
マスネは伊藤の音程が所々気になったが、客席はポピュラー名曲にうっとり。『ハバネラ』は、ハバナ(キューバ)で若者に誘われ踊った密着ダンスで体感した彼我の違い(波と棒切れ、であった)を思い出しつつ、仏、日の「ハバナ風」を思った。
『ツィガーヌ』に入る前、伊藤が客席に「第1部にもいらした方は?」と問いかけたら三分の二くらいがパッと手を挙げていたから、このクラシック・マチネ、90分の遅めランチタイムを挟む設定が歓迎されているのだろう。
ちなみに第1部の曲目はプーランク、ドビュッシーのエチュードの前半部分、イザイだから、両方聴いたほうが二人の音楽の多様が見え、お得感もあり、だ。
平日であれば、来られる客層も限られはするが、若手のステージを楽しみ、応援する固定客の存在に(終演後、次のチケット購入に窓口に並ぶ人たちあり)、音楽の未来をもろもろ考える帰路の電車であった。
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