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Back Stage|世界的音楽家 デュメイのチャーミングさ|河合由季

世界的音楽家 デュメイのチャーミングさ

text by 河合由季(Yuki Kawai)

学生時代にオーケストラでチェロを弾いていたことがあったにもかかわらず、恥ずかしい話だが、関西フィルハーモニー管弦楽団で働くまで音楽監督である「オーギュスタン・デュメイ」のことは知らなかった。今回、Back Stageへの寄稿のお話をいただいて、ヴァイオリニストではなく指揮者として出演する6月22日第284回定期演奏会で彼が練習・Gp・本番を通してどのようにチェロパートと音楽を創り上げていくのかを書こうと思っていた。しかし、練習初日、二日目と日が進んでいくにつれて、音楽ではなくデュメイの表情を書きたくなった。また、観客が見たことがないデュメイの姿を知ってほしいと思うようになった。選りすぐりの三つの表情を写真とともにご紹介するのでお付き合いいただきたい。

≪チューニング待ちのデュメイ≫
遠い目をしていて、少し怖いデュメイ。精神統一か練習1曲目の悲劇的序曲のことを考えているのか。ボーっとしている時の顔かもしれないと想像する。練習後にインタビュウをすることになっているが、こんな目をされたらどうしようかと不安になる。が、この心配は杞憂だったと思うくらいインタビュウは和やかな雰囲気で進んだ。

≪ポーズをとるデュメイ≫
お客様でこんな表情を見たことがある方はいるだろうか。こんなにもにこやかで優しい表情を。カメラを向けたらポーズをとってくれた。しかも、指示をしている最中だった。お茶目なところもあったと驚いてしまう。
気になるインタビュウ内容を紹介する。
①練習・本番前に紅茶を飲む理由は?
中毒だから。紅茶以外に3つの中毒がある。
a.Family
b.Classic
c.関西フィル(!)
②身長は?…197cm(落ち込んでいる時は2cm縮む)
③つけている香水のブランドは?…Hermès、オレンジの香りを好んでいる。「こんな香りがする」と言って、私の右腕にふってくれる。
④子どもと何をして遊ぶのか?…テニス、お子様はとても上手だそう。
⑤休日の過ごし方は?…私は幸せな仕事の奴隷だ=休みがなく、毎日仕事ができるのは幸せなことだ。
⑥関西フィルのチェロセクションをどう思うか?・・・Really Important Part.
世界中のどのオーケストラでもチェロセクションは感情的な、リリックな、歌に捧げている重要なセクションだ。関西フィルのチェロセクションは室内楽をもっとするべきだ。
リップサービスも交えた回答で特に関西フィルに中毒だなんて、こちら側からすれば突っ込みたくなるような回答だけれども、「うふふ」と笑って受け止めるしかない。こんなデュメイを見ると良い意味で「普通」を感じられる。

≪ppを意識しての指示≫
私の好きな指示の仕方。体を後ろに引いて口に指を当てる。こんなポーズは子どもに静かにと言うときぐらいにしか見られないのではないだろうか。
話が変わるが、指示した小節を繰り返し弾かせるのが彼の練習の特長だ。納得した音が演奏されていても、そこが小節の途中であれば「Beginning!」と曲の冒頭か小節番号に戻って初めから弾かせる。次の練習番号に移っても、また、先ほどの何回も弾かせた箇所に戻る。体に音と演奏方法を染み込ませるためと分かっていても、私がこれをされると苦しくて嫌になる。

いよいよ6月22日本番の日。納得がいくまで演奏を求めるその粘りが、本番で良く出ていた。プロのオーケストラだから、本番が一番きれいなのは当然かもしれないが、その一言では表せない音が奏でられていた。例えば、何度も練習させていたブラームス『悲劇的序曲』の冒頭2小節目からのメロディーはよく歌っていて、拘った理由が分かるような気がした。同じく繰り返していたシューベルトの『交響曲第5番』の第1楽章の初めのチェロとヴァイオリンのメロディーの掛け合いは思わず体を揺らしてしまう音色だった。

話を戻す。本番では決して見られない表情のデュメイをレポートしてきたが、本当は本番の舞台で指揮をしている写真を掲載したかった。何故ならば、お気に入りのおもちゃを持って走っているような子どもみたいな顔をしていたからだ。何というのか、可愛さ爆発といえばいいのか。上手く言えないが所々可愛い。タイトルに「チャーミング」が入っているのも、ここからきている。音楽中毒で、休日がないことを幸せと感じているデュメイの内面を耳からの音だけでなく、是非、眼で見える表情からも感じてほしい。

そこで、9月にいずみホール(大阪市中央区)、ザ・シンフォニーホール(大阪市福島区)にて公演があるので、その時は表情が見える席で聴くことをお勧めする。特にザ・シンフォニーホールにはクワイア席(指揮者と向かい合って聴くことが出来る席)があるので、そこで聴いてほしい。1曲だけでもいいので、曲が進んでいくにつれて変化するデュメイの表情のみを見つめてほしい。彼の可愛さ、身体での演奏を眼で追っていくと知らないデュメイに逢って、胸が熱くなっていくのが感じられるだろう。

河合由季(関西フィルハーモニー管弦楽団 企画広報室)

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公演詳細
❀2017年9月15日いずみホールシリーズVol.43 開演19:00
シューマン:歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲 作品81
シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 遺作
ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 作品36
http://kansaiphil.jp/concert/#concert20170915

❀2017年9月20日第286回定期演奏会 開演19:00
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
http://kansaiphil.jp/concert/#concert20170920