C.モンテヴェルディ:《聖母マリアの夕べの祈り》|藤堂清
リナルド・アレッサンドリーニ指揮コンチェルト・イタリアーノ
C.モンテヴェルディ:《聖母マリアの夕べの祈り》
2017年6月5日 武蔵野市民文化会館大ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種( Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:リナルド・アレッサンドリーニ
演奏:コンチェルト・イタリアーノ
(歌手)
ソプラノ:アンナ・シンボリ、モニカ・ピッチニーニ
アルト:アンドレ・モンティッラ、ラッファエーレ・ジョルダーニ
テノール:ジャンルーカ・フェッラリーニ、ヴァレリオ・コンタルド
バリトン:マルコ・スカヴァッツァ、フリオ・ザナージ
バス:サルヴォ・ヴィターレ、マッテオ・ベッロット
(器楽)
コルネット:ドロン・シェルウィン、上野訓子、ジェズエ・メレンド
トロンボーン:エルメス・ジュッザーニ、ダヴィッド・ヤカス、マウロ・モリーニ
ヴァイオリン:ニコラス・ロビンソン、ラウラ・コロッラ
チェロ:マルコ・フレッヅァート
コントラバス:マッテオ・コチコーニ
テオルボ:クライグ・マルキテッリ、ウーゴ・ディ・ジョヴァンニ
オルガン:フランチェスコ・モイ
<曲目>
クラウディオ・モンテヴェルディ:《聖母マリアの夕べの祈り》
1.レスポンソリウム:主よ,すぐに私を助けに来てください
2.詩篇109:主は言われました
3.コンチェルト:私は黒いけれど
4.詩篇112:しもべらよ、讃えなさい
5.コンチェルト:美しい人
6.詩篇121:私は喜びに満ちています
7.コンチェルト:二人のセラフィムが
8.詩篇126:主が建ててくださらなければ
——————–(休憩)———————-
9.コンチェルト:天よ、聴いてください
10.詩篇147:エルサレムよ、讃えよ
11.「聖なるマリアよ、私たちのために祈ってください」によるソナタ
12.讃歌:めでたし、海の星
13.マニフィカト
——————-(アンコール)—————–
モンテヴェルディ:《聖母マリアの夕べの祈り》より
レスポンソリウム
なんと愉悦に満ちた音楽だろう。こころからの「祈り」は、祈る者の悦びに通じるのかもしれない。
今年はモンテヴェルディの生誕450年の記念年、国内の団体、来日する団体が、彼の曲を取り上げる。なかでも《聖母マリアの夕べの祈り》の頻度は高い(先月の当サイトではコントラポントの演奏評を掲載)。
リナルド・アレッサンドリーニの指揮、コンチェルト・イタリアーノによるこの日の演奏、編成は小規模なものであった。声楽は10人、8曲目の〈主が建ててくださらなければ〉における10声部の合唱に必要な最小限の人数、アルトの二名はカウンターテナーが担当した。また、器楽も同様で、通奏低音はテオルボの二台、それにチェロ、オルガンが加わる。管楽器はコルネットとトロンボーンのみという構成。
曲は、5つの詩篇、讃歌、マニフィカトを中心とし、通常であれば詩篇の前後に演奏されるアンティフォナに代わり、詩篇の後にコンチェルト、ソナタが置かれている。モンテヴェルディ自身による指定のない詩篇の前のアンティフォナを補うこともあるが、この日の演奏ではそれはなかった。
短いグレゴリオ聖歌(ヴェルシクルム)の朗唱に続き、《オルフェオ》冒頭部分を転用した華やかなレスポンソリウムが始まる。コルネットの響きが体全体に共鳴し、一気にモンテヴェルディの世界へ運ばれる。
以前であれば合唱団が担当していた曲は、各パート一人ずつが歌うという近年のバロック音楽団体が通常行う形態での演奏。歌手はみな独唱者としての力量を持ち、言葉が明瞭で透明感があり、ダイナミクスにも不足はない。
もともと独唱者に向けて書かれたコンチェルトの曲の方が技巧的ではあり、印象に残りやすいということはあるが、3曲目の〈私は黒いけれど〉のテノール独唱、5曲目の〈美しい人〉のソプラノ二重唱の美しさ、そして7曲目の〈二人のセラフィムが〉でのテノール二重唱、その互いに呼び交わす歌とメリスマの見事さ。
詩篇の部分も二重合唱や声部ごとの二重唱など多様な曲となっている。歌手全員が並んだ〈主が建ててくださらなければ〉は5声部の二重合唱であるが、それぞれの合唱部分、両合唱のやりとりなどほんとうに多彩。
第9曲〈天よ、聴いてください〉のテノールなど、何曲かでエコーを用いる場面があるが、歌手や奏者が舞台の隅に移動し、聴衆に背を向けて演奏していた。音量の点でもはっきりと違いが出て、たいへん効果的であった。
〈めでたし、海の星〉、〈マニフィカト〉で全曲が華やかに終わる。
と書きながらふと考えたのは、宗教曲に「華やか」という言葉がふさわしいのだろうかということ。筆者がキリスト教の信仰を持たないため、そう感じるのだろうか?答えは簡単には出そうもない。
モンテヴェルディの曲の多様な書法、現代の耳で聴いても刺激的。《聖母マリアの夕べの祈り》のような大作だけでなく、マドリガル集にも魅力がいっぱい。記念の年はまだ折り返し、400年前の古い音楽と思いこまずに聴けば、新たな発見があるだろう。