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《ドン・パスクワーレ》|藤堂清

donp-flyerNISSAY OPERA 2016
オペラ《ドン・パスクワーレ》
日生劇場 × びわ湖ホール × 藤原歌劇団 × 日本センチュリー交響楽団共同制作公演

2016年7月3日 日生劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>
指揮:菊池彦典
演出:フランチェスコ・ベッロット
演出補:ピエーラ・ラヴァージオ
美術:マッシモ・ケッケット
衣裳:クリスティーナ・アチェーティ
照明:クラウディオ・シュミット
舞台監督:菅原多敢弘
合唱指揮:須藤桂司
総監督:折江忠道

<キャスト>
ドン・パスクワーレ:牧野 正人
マラテスタ:森口 賢二
エルネスト:許 昌
ノリーナ:佐藤 美枝子
公証人:柴山秀明
合唱:藤原歌劇団合唱部/びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団

《ドン・パスクワーレ》は、ガエターノ・ドニゼッティの晩年、1842年に作曲された全3幕の“喜歌劇”である。パリのイタリア劇場で初演された。
藤原歌劇団の舞台上演は1975年以来ほぼ40年ぶりとのこと。

今回の演出は、フランチェスコ・ベッロットがドニゼッティの生地ベルガモのドニゼッティ劇場のために制作したもの。舞台美術、照明などにイタリアを感じる。大きな舞台転換はなく、人物をとりまく状況の変化は、壁面の入れ替え、家具の撤去などで示される。
舞台はドン・パスクワーレの屋敷の一室、壁中が絵でうめつくされている。それに合わせるようにアンティーク家具が並んでいる。この彼の世界が、エルネストとノリーナを結び付けようとするマラテスタの策略で、崩されていってしまう。“結婚”と同時に豹変したノリーナによって、絵も家具もすべて売り払われ、むき出しになった壁に“画家”エルネストが“現代的”な絵をえがく。二人の結婚を許したドン・パスクワーレに残されたものは、愛用の古びた肘掛け椅子、それに彼は満足する。
この役は、コメディア・デラルテの「パンタローネ」から連なるものだが、最後には同情を持って扱われる点で、単なる憎まれ役とは異なる性格付けがなされている。

聴きどころはアリア、重唱などいろいろあるが、第三幕のドン・パスクワーレとマラテスタの機関銃のようなやりとり「静かに、静かに、今すぐに」は傑作。こういったイタリア語の早口言葉も舞台にのせることをむずかしくしている一因ではある。牧野、森口のコンビは上手にここを切り抜けていた。
ドン・パスクワーレがノリーナに平手打ちされ、自身の尊厳が破壊されたと歌うところでは、ブッフォの登場人物を超えた個人が表現される。牧野の落ち込みようと、対するノリーナの佐藤の「やりすぎたか」という思いの交錯もみどころであった。
エルネストを歌った許昌は、中国出身、現在ドイツの劇場で専属歌手として活躍しているとのこと。第三幕の<セレナーデ>で甘い声を聴かせた。
指揮は菊池彦典、イタリア・オペラの日本における大御所といってよい。安定した音楽作りであり、全体としてもコンパクトにまとまった公演であった。

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