新日本フィルハーモニー交響楽団 室内楽シリーズXII ~楽団員プロデューサー編~ #100 北爪道夫の世界|大河内文恵
新日本フィルハーモニー交響楽団 室内楽シリーズXII ~楽団員プロデューサー編~ #100 北爪道夫の世界
2016年5月18日 すみだトリフォニーホール小ホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
<演奏>
荒川洋(フルート)
重松希巳江(クラリネット)
西江辰郎(ヴァイオリン)
スティーブン・フィナティ(チェロ)
中川賢一(ピアノ)*
柴原誠(パーカッション)
篠崎和子(ハープ)*
(* 客演奏者)
<曲目>
荒川洋:管弦劇「天の赦すところ」より宇和島序曲
北爪道夫:オアシス
トリプレッソ
流れI
~休憩~
荒川洋:ニレ
北爪道夫:アリオーソ
ツインズ
遠い歌II
ペア・ワーク
「ベスト・オブ・クラシック」のテーマ
現代音楽のコンサートに行くというのは、ちょっとした賭けである。誰もが知っている絶対ハズレのない作曲家の作品ではないし、演奏者が現代音楽を得意とするのかどうか行ってみるまでわからない。しかもそれがオーケストラではなく室内楽とくれば、さらに足が遠のく。毎日のようにどころか同じ日に魅力的な演奏会が重なってしまう、いまの東京のコンサート事情を考えると、現代音楽の室内楽のコンサートは最も不利な立場に立たされていると言ってよいかもしれない。が、本日すみだトリフォニー小ホールに足を運んだのは、大当たりを引き当てた幸運な人々であったことは間違いない。
新日本フィルハーモニー交響楽団の楽団員がプロデュースするというこの企画、今回はフルート副首席奏者で作曲家でもある荒川洋によるもので、自作を「ウェルカムドリンク」として配しつつも、北爪道夫をフィーチャーしたものであった。奏者はオーケストラで普段共演している楽団員を中心に、過去の共演者などから客演者も選ばれているため、奏者同士の連携は保証済みである。
今回8曲演奏された北爪の曲は、1つ1つの曲のコンセプトがきっちりしている上に個性的で、どれを取っても似た曲がない。竹製の鳴子で偶然性を担保しつつ、フルート・ヴァイオリン・ピアノが鋭い音楽を展開する『オアシス』、クラリネット・ヴァイオリン・ピアノがまるでリズム漫才のような掛け合いを繰り広げた『トリプレッツ』、この3つの楽器の組み合わせが絶妙で、現代音楽の最先端というものがあるとすればこれもその1つなのではないかと思わせた。次の『流れI』は一転して、マジシャンのように次々と音が繰り出されてくるのだが、一方の楽器の響きの中にもう一方の楽器の響きが重ねられ、そこに計算し尽くされた不協和が存在するという手品を見ているかのようであった。
後半は、音から映像イメージが自然にわいてくる曲が並べられた。シャボン玉のアニメーションを見ているかのような『アリオーソ』、動物や雄大な自然のドキュメンタリー映像が眼前に広がる『ツインズ』、次の『遠い歌II』ではクラリネットだけが舞台裏で演奏し、アングラ芝居を見ているのかと錯覚しそうになる空間が広がった。『ペア・ワーク』は、ただただひたすら水が流れてゆく「永続性」なるものを映像化したら、こんな音楽とコラボレーションさせたいと思わせる曲であった。
最後には北爪の新作が披露される予定であったが、諸般の事情で延期となり、代りにNHK-FMでお馴染みの「ベスト・オブ・クラシック」のテーマが本日の編成のために編曲されたバージョンで演奏された。それによって結果的に、7人の奏者が代わる代わる組み合わせを変えて、万華鏡のようにさまざまな音楽を奏でる演奏会を締めくくるに、まさにふさわしい終わりかたとなった。