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若き名手たちによる室内楽の極|谷口昭弘

flyer_page_3025若き名手たちによる室内楽の極
〜ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス

2016年4月6日 東京文化会館 小ホール
Reviewed by 谷口昭弘(Akihiro Taniguchi)
Photos by 青柳聡(写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会)

<演奏>
ヴァイオリン:長原幸太
ヴィオラ:鈴木康浩
チェロ:上森祥平
ピアノ:田村響

<曲目>
シューベルト:弦楽三重奏曲 第1番 変ロ長調 D471
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第2番 ト長調 Op. 9-1
(休憩)
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 Op. 26

(アンコール)
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第3番 より 第3楽章

単一楽章によるシューベルトの『弦楽三重奏曲』は、古典的形式の中に盛り込まれた叙情性を提示する控えめな枠組みに整えられるのかと思いきや、軽やかで柔らかな冒頭、力強い第2主題を経て、展開部ではみずみずしさを増していき、響き合うアンサンブルの醍醐味を聴かせてくれた。

雄弁な語りかけによって始まるベートーヴェンの『三重奏曲』では、刻々と進む時間の中で細かく移り変わる拍節感やテクスチャーに機敏に対応。展開部の扱いに難しさを感じさせながらも、ベートーヴェンらしい重厚さを聴かせてくれた。密度の濃い表情で歌う第2楽章では、フレーズの滑らかな受け渡しから始めつつ、中間部では怒涛の世界へとつなげていく。しかし安らぎを与えつつ集結し、温かい静寂に余韻が残った。おもわず体を乗り出して弾き切る上森祥平の姿も印象的な第3楽章は、短調部分であっても心からの喜びを感じさせる。高貴で洗練された主部と、吹っ切れたようなトリオ部分の対比が見事だった。第4楽章は、気の合った仲間たちの音楽として一気呵成に進めながらも、安心して聴ける楽しさもあった。旋律というよりは、様々な音型で迫る楽章であるからこそ、フィナーレにも勢いがあり、聴衆の拍手喝采につながったといえるだろう。

ブラームスの『ピアノ四重奏曲』は静かなピアノとやわらかなハーモニーで始まった。それはやがて大きなうねりとして進んでいく。ただ前半の演目に比較すると、パート間(特にピアノと弦楽)のバランスを取るのに苦心しているようであり、和声のなかのどの声部がどのように機能しているのか、リズムをどう活かしていくのか、といったことを考えながら聴いた。
とはいえ、ピアノ独奏で始まる第2楽章の後半部からの目の覚めるような感覚があり、第3楽章には遊び心に加えブラームスの醍醐味であるむき出しの激しさを聴いた。そして第4楽章では端正な歩みの中に、気負いのない、響きあうハーモニーを楽しんだ。

20160406若き名手(c)青柳聡120160406若き名手(c)青柳聡2