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新日本フィルハーモニー交響楽団 新・クラシックへの扉 第54回|藤原聡

新日フィル新日本フィルハーモニー交響楽団 2015/2016 SEASON 新・クラシックへの扉 第54回

2016年4月15日 すみだトリフォニーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:川瀬賢太郎
ギター:エマヌエーレ・セグレ
メゾ・ソプラノ:藤井美雪
コンサートマスター:西江辰郎

<曲目>
シャブリエ:狂詩曲『スペイン』
フランセ:ギター協奏曲
ファリャ:バレエ音楽『三角帽子』

川瀬賢太郎の実演は初めて聴く。と言うよりも録音でもほとんど聴いたことがない。この俊英の名前はむろんしばらく前から知っており、神奈川フィルを指揮した実演はぜひ聴いてみなければと思いながらも機会を逸していたところに『三角帽子』という魅力的な演目。オケは新日本フィルで悪かろうはずもない。
という訳で平日昼間のすみだトリフォニーホールへと向かう(ちなみに客席は相当埋まっていた。都響も平日昼公演を開始したが、これも売れ行きは好調と聞く。新たな客層を取り込むという意味で有効なのだろう)。

まずは1曲目のシャブリエ:狂詩曲『スペイン』。聴き始めて最初に感じたのは、オケの鳴りっぷりが実によいことだ。これはこのオケとしては必ずしも感じられることではないのでまず掴まれてしまう。フレーズの入りにタメを持たせたり、最後のやり過ぎにならない程度のアッチェレランドなど、豪壮な中に趣味よくまとめたなかなかの名演。確かにセンスのよい指揮者である(余談だが、1984年生まれの若さゆえ、ステージに現れてすぐにやたらとキレの良い身振りで起立を促したり指揮中に思い切りかがんだりと、見た目のインパクトも十分。これも重要なことだ。指揮の身振りだけ大きくてオケが「踊らない」なら問題だが、そうではないようだし)。

2曲目は滅多に演奏されることがないであろうフランセの『ギター協奏曲』。ここでオケの編成は大きく刈り込まれ、10人の弦楽5部にエマヌエーレ・セグレのギター。指揮者も含めて計12人。ギターソロは基本的に単音でシンプルなメロディを奏でるが、それを効果的に生かすには10人の弦楽5部くらいの編成で丁度良い、ということだろう(但し、このホールは当曲には明らかに大き過ぎる)。
その弦楽5部は薄いテクスチュアの中でソロとトゥッティの効果的な対比やピチカート、ハーモニクス奏法など多様な響きが追求され、決して平板になっていないのがさすがに究極の職人フランセだけあるが(筆者はフランセが好きである)、あるいはその作風はストラヴィンスキーの新古典主義時代の作品を思わせもする。セグレのギターソロは、技巧的にはさして聴かせ所のないこの曲で豊富なニュアンスと音色変化を撒き散らし、ともすると退屈しかねない当曲をカラフルに仕上げていたと思う。オケもうまくまとまっていた。
誰の発案かは知らないが、シャブリエとファリャの間にフランセを選んだセンス、素敵ですね。
セグレはアンコールを弾いた。ヴィラ=ロボスの『マズルカ』。この泥臭いようで洗練された曲にはセグレの演奏がジャストフィット。

休憩後にはファリャの『三角帽子』。全曲版というのが嬉しいところだが、序奏からして好調(まあこの序奏は誰が演奏しても恐らくは一気に「持って行かれる」魔力があるとは思うが)。「オレ!」の掛け声はさらに高テンションだと尚良し。
全曲通しての印象は、性格の異なるそれぞれの舞曲を非常にソツなく音楽的にまとめ上げており、それ自体が賞賛に値すると思う。<粉屋の女房の踊り>や<粉屋の踊り>でのダイナミックさはやはり若さゆえのものだと思う一方、<隣人たちの踊り>でのセギディーリャスでは一転して柔らかく優美に流れるような音楽も見事に作る。巧みである。しかし<終幕の踊り>では速いテンポで駆け抜けてしまうのでカタルシスがあまり得られない、とあと一歩、という場面もないではない。しかし総じて、相当にレヴェルの高い演奏だったのは疑う余地がない。

オーケストラのアンコール。「われわれが出来ることは、音楽で癒しや楽しみを皆さんに感じてもらうことです」(大意としてはそういった内容だったと思う)との熊本地震を受けての川瀬のスピーチに続いてプッチーニの『マノン・レスコー』間奏曲。中間部の激情の迸りが強烈で実に真に迫っていた。これにはホール中の聴衆の心が動かされたことと思う。

以上、初の川瀬賢太郎の実演は相当に見事だった。さらに実演を追いたいと思う。

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