クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース|藤堂清

pre〈歌曲(リート)の森〉 ~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第19篇
クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース

2016年3月24日 トッパンホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 藤本史昭(Fumiaki Fujimoto)

<演奏>
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

<曲目>
シューベルト:『水車屋の美しい娘』 D795
—————(アンコール)——————-
シューベルト:『白鳥の歌』 D957より 第1曲 「愛の便り」
シューベルト:『白鳥の歌』 D957より 第4曲 「セレナード」
シューベルト:「美と愛がここにいたことは」 D775
シューベルト:「夜と夢」 D827

互いに協調しつつも、競奏する、作曲家の創造活動に近づき、それを聴衆に身近に感じてもらうために。

プレガルディエンとゲースが昨年に続きトッパンホールに登場、歌曲集『水車屋の美しい娘』をとりあげた。
彼らは2009年に来日した時ハクジュホールでこの曲を演奏しているが、その際、歌手ヨハン・ミヒャエル・フォーグルの改訂に基づくディアベリ版(19世紀後半まで出版されていた)にある装飾音などに言及、「作品が生まれた時は<現代曲>として新鮮な感覚で聴かれたはず。その感覚を表現するために、装飾など、ある程度歌手に委ねられていた当時と同じ歌唱を試したい」とし、大胆な装飾やテンポの変化をつけて、聴衆を強くひきつけた。

この1月に60歳となったプレガルディエン、上から下までむらがなく、どんなに弱声でも会場全体を埋め尽くす美しい響き、まったく年齢を感じさせない。声に包まれているだけで幸せな気持ちになれる。
演奏は7年前よりさらに踏み込んだものであった。『水車屋の美しい娘』全20曲のうち8曲は有節歌曲(歌詞の進行を同じ旋律の繰り返しで行う形式)だが、節ごとに歌詞に合わせるような装飾音を入れたり、テンポをぐっと遅くしたりすることで、<同じ繰り返し>を避け、同時に歌詞の意味を分かりやすく伝えている。
第1曲の「さすらい」の第4節、”Die Steine selbst,so schwer sie sind, die Steine”ではテンポを遅くしただけではなく、声の色を変えて<重い>ことを強調、ピアノも合わせて打鍵を強くする。第5節では以前と同じリズム、歌いくちにスムーズに戻る。
最後の「小川の子守歌」では、ピアノのゲースが、小川に近づく娘を脅すように強い音を出していた。歌詞の細かい変化への対応は、二人の共同作業、どこまでが事前に決められたいたのか、その場で一方が即興的につけたものに追随していたのかわからないが、作曲者が書いたものを絶対視することでは生まれてこない、驚きと発見に満ちた演奏であった。

会場の熱狂に応えてアンコールが4曲。最後に歌われた「夜と夢」 、昨年のリサイタルでもアンコールで歌っているが、美しい弱声が聴衆の気持ちを静めていくように感じられた。

<楽譜に忠実に>という信条を持っている人が聴けば怒り出しそうな演奏かもしれない。しかし、シューベルトの歌曲の楽譜の校訂も一つにまとまっているわけではない。彼自身がいくつもの版を書いている「ます」のような例もあるし、『冬の旅』のうち何曲かは自筆譜と出版譜の調が異なる。
演奏者として、音符を読み、歌詞を読み、そこから作曲家に近づこうとしている、プレガルディエンとゲースの取り組み、私は高く評価し、楽しませていただいた。
このホールの〈歌曲(リート)の森〉シリーズへの再登場を楽しみに待ちたい。

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